鍵
カタンカタンと小気味の良い音を鳴らしながら僕達3人の乗る馬車は目的の場所へと走って行く。
今、僕達は…あれ?あの人どんな名前だっけ。
「クロウレな?」
レリィさんがお主のことじゃから興味のない人の名などすぐ忘れるじゃろ。と
そんな哀れみの目線を向けながら、僕が助けた人の名前を教える。
そうでした、そのウクレレさんのメイドさんからお礼をしたいと内容の手紙をもらい、
彼の屋敷の馬車で向かっている。という状況です。
「別にお礼とかいらないですのに…面倒くさい…」
「せっかく馬車まで用意してもらっているのだから行かないと面倒よ?あれはどことなく憎めないけど、信頼できる人だし知り合っておくのも良いわよ。」
「その通りじゃな。」
僕はため息をつきながら少し愚痴をこぼす。
わざわざお礼を貰うより、未だに理解できていない調律系魔法を研究する方が今後のためになるのだけども。
…まぁ、ウク…クロウレさんも研究者だったと話を聞きましたしもしかしたら何か重要な話を知っているのかも。
そう考えると、いつもの研究欲は収まっていった。
こうして、3人で雑談を交わしたりなどして約3時間経ったあたりだろうか。
周りはすっかり街を抜け、山へ森へと進んでいった。
小窓から少し見渡すと、昔の遺跡だろうか。苔や蔦が付いた石煉瓦の人工物が転がっていた。
またしばらくすると、少し開けた場所に出た。少し見た感じ、何やら興味深い様々なものがあった。
唐突な車夫さんの「到着しました。」という声で、僕らは同時にあくびをしながら馬車を降り、早速目に入ったものが…とんでもない豪邸だった。
が、綺麗な外観ではなく、壁には苔が、石柱には蔦が絡まったりと少し閑散としていた。
どことなく不思議な感じを覚えるその場所に僕は少し緊張感を持った。
建物の入り口に向かい、分厚い扉を叩く。
すると、中から「どうぞ。」とメイドさんの声が聞こえた。
ゆっくり中に入ると、さすが貴族といったものか。
上質な木材で作られたと思われる壁の装飾に、赤い絨毯。
高価そうな陶器、と貴族。それも上位にあたるにふさわしい内装となっていた。
「意外にもシオンさんから聞いた話より貴族らしさが溢れていますね。」
「もうちょっと煌びやかなのかと思ったぞい。」
「しばらく会わない間に位が上がったのかしら…?」
メイドさんについて行き、奥に進んでいくと少し広い、暖炉が置かれた部屋へ着いた。
相変わらず内装は落ち着いたものになっているが、誰かの肖像画や分厚い本、
ガラスに飾られた賞状と、より一層厳かになっていた。
「待っていたよ。」
右側にあったソファから落ち着いた男性の声がした。
見た目は普通にイケてるおっさん。普通にかっこいい。
片目にモノクルをつけており、服はすごい紳士的。
元の世界の僕もこんな風になれたら良かったなぁ…
「あなたがクロウレさんですか?」
「いかにも。そして久しぶりだね。シオン。」
「相変わらずね。」
「ん?左腕と右目は死んだのではなかったのか?」
「嘘みたいな話だけど、彼女が治したわ。呪いまで解いて。」
「はぁ…やはり噂の通り、かなりのデタラメだな。ラキ…で構わないか?」
「ええ。」
「ではラキ。早速君に私を助けてもらったお礼なのだが。この鍵を渡そう。」
そう言って彼は席を立ち、机の上にあった一つの青色に淡く輝くガラス板のようなものを僕に手渡す。
それは透き通っており、菱形をしていて、とても綺麗なものだ。
「これが鍵…ですか?」
「そうだ。しかもそれはアーティファクトの中でも聖遺物にあたるものだ。」
「ちょっと!これって国宝として管理されていたはずじゃなかったの!?」
「それがな、シオン。この鍵が必要な場所もこれについても解っている。
だが誰一人とて祠の鍵を開けられなかったのだよ。」
「つまり、誰も使えないからあなたに鍵の研究を任せた。ということ?」
「大方そうだ。調律師である国王でさえ開けられなかったのだからな。
私はこの鍵について調べに調べた。もちろん禁書までだ。
だがな、一切この鍵の使い方は書いてない。そこで私は一つの仮説を立てた。
この鍵が必要な祠は《エル・ラド》直前、つまりエレニアが崩壊する直前に作られたらしい。
色々照らし合わせていくと黒夜の吸血鬼と調律の翡翠龍が消えた時ということがわかった。つまり、ラキ、伝説上の二人のハーフと考えられる君なら開けられるのではないか。そう考えたのだよ。」
「なるほどね…ってラキ起きなさいよ!立ったまま寝ないで!」
「んにゃ…?終わりました?」
途中さっぱり分からない言葉があり、聞く気力がなくなったのはさておき。
とりあえずこの鍵は僕にしか使えない。というのははっきりわかった。
後でレリィさんに解説を求め聞いた話。簡単に話すと、まず《エル・ラド》について。
太古の昔《クロン・スタッシュ》を超える時流破壊が起き、全ての文明が消えたらしい。
一部の生き残った種族は、わずかに残った文献や自らが持つ知識を用いて再び文明を構築し直す。そうして5000年以上経った現在。失った技術を『アーティファクト』、魔法を『アーティファイスマジック』と呼ぶらしい。
次に《エレニア》。
エル・ラドが起こる前存在していた。現在ではありえない技術を保有していた国。
つまり超科学国家らしい。一体どこまでの技術を持っていたのかは未だ不明だが、今後の研究のために頭に残しておこう。
「祠はこの屋敷の裏口から少し進むとすぐに着く。後で行くといい。」
「はい。ではそちらの要件はなんですか。」
「…まだ何も言ってないのだが?」
「こんな貴重なものをそうやすやすとただ命を助けただけの者に渡すはずがないでしょう。」
「ふん。御察しの通り、だ。こちらの要件は私の命を狙ったものと関係がある。
あの暗躍者どもを捕まえろ、ただそれだけだ。」
「ほう?そんな単純でいいのか?」
「そちらが予想していた内容は大体分かっている。『国王の所へ行って欲しい。』などと言うのかと思ったのだろう?生憎だが私はその手の話に興味がないのでね。」
ふむ。何となくわかる。
早速暗躍者を捕まえるにしても『何を追っているのか。』『どんな実力なのか。』
情報が足りなさすぎる。未知の相手をあまり装備が整っていない状態で挑むのは愚の骨頂。
先に祠を調べる方が作業数は減りますね。
「では、先に祠を調べさせていただきます。」
「それでは私も同伴しよう。この目で結果を焼き付けたいのでな。」
「ちょっと。つい最近狙われたばかりなのに動いていいの?」
「あれは鍵を持って一人で行動していた私が悪かったのだよ。恐らく奴らは私の見立てでは『回収屋』だと思うのでな。」
「そういえばずっと気になっていたのじゃが。お主はどうやってわしらの所まで重傷を負いながら来られたのじゃ?」
「ああ、それは。」
クロウレさんの周りに属性系統の魔力が集まる。恐らく水系統だろうか。
そのまま彼はパチンッと指鳴らしをすると、あら不思議。見えなくなってしまった。
「私は水系統の魔力が非常に相性良くてな。こうやって姿を隠しながら信頼できるシオンの隠居先へ向かったというわけだ。」
「ほぉ。水系統にこのような使い方があったとはな…」
「勉強になりますね。」
「さて、種明かしもしたことだし目的地へ向かおうか。」
しばらく屋敷を歩き、裏口から出る。
すると、木々に隠れて見えなかった苔むした石畳の道があった。
「この先に、伝説が眠る祠がある。」
どことなく神聖な場所を思わせる作りに再び緊張感を持ち、
僕たちは足を踏み入れていった。
この瞬間から、僕たちの長い旅が始まってしまうということを知らずに。
お久しぶりです。作者こと、ハルセキライカです。
今回、投稿が遅れた理由としましては
自分がやりたいことを詰め込みすぎてパンクしました。
これに関しては自業自得なのでこの度反省させていただきます。
今後とも転生少女をお願いいたします。




