アティシス・ロット
「レリィさん、右の棚にある【カドルフライト】の欠片が入った小瓶を取ってください。」
「これか。ほれ。」
「助かります。」
昨日、治癒系統の神聖魔法をかけた『貴族』クロウレさんは今朝、彼が雇っているのであろうメイドさん達が屋敷に運んで行ったそうだ。
目覚めたら連絡を送る。と言われたので今日も薬師をやっていく。
その上でこれは必要な作業だ。
「ところでラキ。それは何を作っているのじゃ?」
「【銃】です。」
そう、この世界。武器となるものが近接はともかく遠距離は弓とバリスタしかない。
実はメイドさんがクロウレさんを屋敷に連れていく際、奇妙なメッセージを残していった。
「『紅の女王は私のもの』と書かれた手紙が屋敷の入り口に置いてあったんです。嫌な予感が当たらないといいのですが…」
紅の女王…何を指しているのかさっぱりわからないが僕はあの人の主人を助けた。つまり、少なからず関わりを持ってしまったことには変わりない。
戦闘になっても一応、この体なら対抗はできるがまだ制御ができないため周りの建物に被害が及びかねない。だから、護身用の武器を作っているというわけだ。
「ふむ、それはどんなものなのじゃ?仕込んである術式から見て武器じゃと思うが。」
「ご名答。どんなものかは見ればわかりますよ。」
最後にカドルフライトの結晶片に刻印を施しマガジン部分に埋め込み完成。
僕はそのマガジンを既に完成してある銃本体に装填し、構え、トリガーを引き、撃つ。
想像以上に大きい音を鳴らし床に向けて撃った場所に小さいクレーターが出来る。
…あとでシオンさんにばれないように修復しておきましょ…
「ほぉ。マナを固めたものをその本体に仕込まれた飛翔高速魔法で飛ばしておるのか。」
「はい。正確には飛翔高速魔法はただの加速用ですが、仕組みはそんな感じです。」
この世界に存在するマナは魔法を行使するために必要な物質だ。
物質といっても勝手に決めつけているだけだが、そもそも魔法というものはマナを魔法陣、ルーン文字、カドルフライト等の魔導結晶を介することによって現実に影響を及ぼすもの。
そしてマナは術式で設計図を記述してやれば物体として目に見えるものにすることが出来る。
前に龍をレリィさんが一刀両断したときの短刀。あれも血をマナとして捉え圧縮、そして術式生成によって作られていた。
僕の魔力に現在わかってる範囲では【パッシブフラッシュキャスティング】が刻み込まれているらしい。そしてこれはこの体の親である【黒夜の吸血鬼】ことアイリスさんが持っていたものとのこと。
また、【黎明翼妖龍】こと調律の龍が持っていたもの、それもアイリスさん同様引き継いでいた。
それは破壊と構築、【デストラクション】そして【コンストラクション】。
総称【グレイブ・ディバイダー】。
この魔力はマナを別のものに構築、魔術式記録体を即時分解等まだ把握しきれていないところがあるがマナがある限り魔術では不可能な様々な事が行えるようになる。
この魔力を使いマガジンに記録された物質構築術式を読み込み、薬莢、雷管、火薬、弾頭と構築し、その後は元の世界の実銃と変わらない仕組みを使っている。
火薬がマナで構築されているためかとんでもない威力が出ているが。
「反動はそんなにありませんね。これなら問題なく運用できそうです。」
「なるほど。見事なものじゃ。」
この体の力加減がわからない以上、威力が一定である武器に頼ることにする。
国もまだしつこく僕のことを追っているらしいので一石二鳥といったところですか。
「レリィさん。今から近くの森で【妖精の血】や【ポーション】の原料を採取しに行きますので付いてきてくれませんか?」
「わしはおぬしの使い魔じゃから付いて行くのは当たり前じゃろう。」
「それもそうでしたね。」
レリィさんの力を借り、飛行魔法で森に行った…が来たところで彼女は少しの異変を感じ取った。
少し奇妙な気配を感じた方向へ目を向ける。そこには恐らくこの森には居なかったであろう生物がそこにいた。
「赤い…スライム?」
「クマじゃよ、クマ。【クリムベア】じゃな。ブラッドムーン【赤き月】はあらゆる生物を突然変異させる効果がある。
3日前、ちょうど時間じゃったろう。恐らく残りじゃ。」
「あれがいるとなにか支障はありますか。」
「ある。放っておくと周りのマナが歪むのでな。」
「ならちょうどいいですね。さっき作った銃を試してみましょう。」
ただこの場所からだと少し威力が足りないかもしれない。
クリムベアの生理的嫌悪を覚えるその体は生半可な銃撃じゃ防がれそうだからだ。
腰に付けてあるポーチに手を伸ばし、銃に取り付けるための補助バレルを取り出す。
今の状態では弾頭加速術式は4枚重ね。約マッハ4の勢いでとぶ。
補助バレルには14個の術式を書き込んである。
10個は弾頭加速術式。残りの4つが反動軽減用の衝撃緩衝術式だ。
これを取り付けるとマナの消費が格段に上昇するが威力は言うまでもない。
撃つ準備は整った。
僕はトリガーに指を掛け、カチンと区切りの良い金属音をならす。
チャンバー内で着火された弾は加速レールを備え付けたバレル、補助バレルへと高速で推進し、
そのままクリムベアの脳天を貫き、後ろの木へ着弾した。
奴は声も上げずにその巨体を倒した。
…手が痛い……
「お見事じゃな...ってどうしたうずくまって?」
「…手が痛いだけです。」
予想以上にリコイルが強かった…手首が折れますよこんなの。誰が作ったんですか。
涙目になりながらも仕留めた場所へ移動し、死体を確認する。
「うぇ…想像以上に気持ち悪いですね…」
「未だにどうして突然変異が起こるかわからんのう…しかも決まって気持ち悪いものになるのがどうも不思議じゃ。」
死体はとてもおぞましいものだった。
毛皮はドロドロに溶け、血の入り混じったスライム状となり本来の機能はなかった。
それに少し透けていたため中の内臓や筋肉が見えているが、ほとんどが変色、あるいは破裂など見るに堪えないものとなっていた。
匂いはというと血とヘドロを混ぜたような、そんな匂いだった。
うへぇ…これはSANチェックですよ…
脳内でダイスを転がしながら調律と水を組合せた特性の浄化魔法でクリムベアを灰に還す。
後で知った事だがクリムベア等、ブラッドムーンの時に異形に進化(?)した個体を通称【アティシス・ロット】と呼ぶらしい。
まぁ、二度と会いたくないですが。
そんなこともありながらも、妖精の血の材料等を集め、森を後にした。
ただ、あの時恐らく人間の状態ならクリムベアの姿を見た瞬間吐くだろう。この世界に来てからなにか人間とは違う、そんな感覚を彼女は感じつつあった。
用事が溜まりにたまっているので投稿が遅くなりました。
恐らく投稿が遅れると思われますが何卒宜しくお願い致します。




