桜の契約
「にしてもアイリス…あやつほんとに翡翠と子を成すとはのう…お、これもまた美味じゃの♪」
僕が使い魔として召喚した楼血龍ことレリィさんはシオンさんが作ったお菓子を頬張りながら呟く。
「翡翠とは調律の龍のことですか?」
「そう、翡翠の種族名は《黎明翼妖龍》。単純に言えば最強の龍じゃな。」
「最強…」
なるほど。そうなればこの強さも合点が行く。
ただ気になるのはどうやって子を成したか。本来、闇魔法で体を構築された吸血鬼はその性質上普通の方法で子を成せない。
一体、どんな方法を使って……
「うーむ、よくわからぬ事は考えない方がよさげじゃな!」
「え?あっはい。」
唐突に思考を切られ少し戸惑う。読めない人だ。
「そういえば召喚されただけで儂とラキで契約を結んでいなかったの。」
「契約…ですか。」
「なにすっとぼけた顔しておる。当たり前じゃろ?」
「僕、命以外何も代償にするもの無いと思いますが?」
「ん?あるじゃろう。その魔力と能力が。」
「へ?」
そう言葉を残すと彼女は腰に着いていたポーチから黒皮に赤い刺繍が施されたチョーカーを出す。
隠蔽されているが結構な密度で術式が書き込まれている。一体何をするつもりなのだろう。
「このチョーカーは《リーゼ・ステライト》と呼ばれる魔法具じゃ。」
「要するにそれを着けろと言うことですね?」
「うむ、お主を舐めて分かったがお主のアカシックレコードはまだまともに使われておらん。この魔法具はそんなお主のアカシックレコードを覚醒させ、かつ、使い魔として呼ばれた儂と契約し魔力などの共有を可能にする。そんな道具じゃ。」
…舐めただけでそんなところまで分かるものなんですかねぇ……
不思議に思いながら彼女が僕の首にチョーカーを着ける。
すると目の前に古代文字が羅列する。
「うわっ」
「お、起動はうまくいったようじゃの。」
暫くすると文字の羅列は落ち着き目の前に元の世界にも存在した拡張現実によくある景色が広がる。ここら辺りでは見ないですがこの世界にも先進的なテクノロジー…もとい先進的な魔法はあるんですね。
「いやー、それは何度見ても驚くよのぅ。儂の弟子の発想は面白い。」
「弟子、居たんですか。」
「もちろん。確か……ここから西の地域にまだ生きておったら居るはずじゃ。大体…馬車2ヶ月程度ってところかの。」
遠い。遠すぎます。
にしてもそんな技術が在るのだったらなぜ本に書かれていなかったのだろう。
こんな画期的な魔法はすぐに広まるだろうに。
「この術式少しコストが重いから並大抵の者は起動もままならないのじゃよ。当たり前じゃがお主は起動できる。」
「なるほど。」
考えた矢先に答えてくれる辺り僕の思考は使い魔に対しては駄々漏れということですかね。
そんなことを思っていると外からとても大きい鳴き声が聞こえる。なんらかの動物にしては相当大きい。
「……何ですか今の鳴き声は。」
「うーむ、同族じゃの。ここを占領して巣にするつもりじゃろう。」
「それは困ります。僕はゆっくりだらけてスローライフを送るつもりなんですから。」
「それを直球で言って良いものなのか?……まぁ主の言うことならば仕方ない。ここは少し儂の実力を見せてやろう。ほれ、手を出せ。」
「え、あっはい。」
言われるがまま、手のひらを彼女と重ね合わせる。
瞬間僕の体は僕の所有物ではなくなった。
「さぁて、一暴れするかの。」
彼女は僕の体でニヤリと笑いながら左目を血のように赤く光らせ、目の下に紋様を浮かび上がらせながら、空を目に留まらぬ速度で駆けた。




