7・とうとうラノベらしい展開来たようですよ?
チッパイさんにひっぱたかれた。
そして、チッパイさんはそそくさと裏口から中へと消える。
見知らぬ周りの見物人達もそれに付き従う。
残ったのはこの村の住人だけとなる。
呆気に取られている俺に一人が声を掛けてきた。
「猿の術から逃れるなんて、すげえ」
俺はよく分かっていなかったが、まずは獣をどうにかするのが先だった。
すでに裏口周辺の獣は一掃されていた。
表へまわると挟み撃ちにされて逃げ出した獣と出くわしたので始末した。
その後、合流したタカたちと共に村の辺りを見回って獣が居なくなった事を確認してから村へ入ったが、中もまた酷かった。
辺りを血走った目をして走り回る男が居たり、服がボロホロになって放心している女性に素っ裸で倒れている男、泣き叫ぶ猫や犬が居るかと思うと、犬猫に袋叩きに遭っている男。
「何が起きてるの?」
「猿が出たんだよ。猿はわかるかな?」
そりゃ。わかる。さっきヌッコロしてやった。
「猿は人や犬猫を操るのが得意なんだ。犬猫に人を犯させたり、身分違いの人同士だったり。相手が嫌がるのを見て楽しんでるド変態の獣だよ。街に現れた猿が役人の娘を門の前で狩人に犯させて見世物にしたのは有名な話だよ」
知らないの?とハナは聞いてくるが、知るわけないだろ。
「で、狩人は打首、娘はあまりのことに自殺したって。猿は捕まることなく二人の末路を笑っていたらしいよ」
流石にヤバイ奴だ。何系犯罪者だ、一体・・・
実際、目の前でも惨事が繰り広げられている訳だしな。
それを見ていると見慣れない男が俺の方へやって来た。あ~、他人事じゃなかったよな、そう言えば・・・
俺は男に連行されてお婆の家に来ている。
「その方、妾をなんと心得る。下賎が!」
さっきのチッパイさんがお怒りです。村の住人ではない事は明白だが、誰なんだ?
この流れはあれですね。やっぱり打首か。異世界に来たと思ったら、わずか数日で打首って、どんなゲームだろうな・・・
「この辱しめ、打首だ。さっさと支度せい」
チッパイさんは申しました。ここでゲームオーバーだと。
そして、俺を睨め付けるとさっさとお婆の家を出ていった。
「まあ、しばらく待ってな」
お婆は呑気そうにそう言った。いや、そんな場合じゃ・・・
「あれは孫だ。誰に似たのか元気でな。お前さんも聞いた事があるだろう?猿の話」
とりあえず頷いておく。
「街の門前で猿に捕まり、近くに居た狩人を呼び寄せて服を脱がさせる。とにかくヒイヒイハァハァうるさい猿だった。ワシは何の抵抗も出来んまま、皆の前で見世物にされた。さすかに犬猫の見世物でも門前で裸に剥いてまぐあわせたりはせんだろう」
あれ?ちょっとまて・・・
「そうよな、狩人は打首、娘は自殺だったな」
ハッハッハと笑っているが・・・
「ワシは人や獣の力が見える。狩人の奴は猿の言うがままにワシを犯しおったが、奴は猿より力があった。操られてはおらんかったわけだ」
そう言って俺を見る。
「お前さんもな。言われるままに服を脱がしはしたが、操られてはおらんかったろう?ワシの旦那もな、単にそんな風習かと思うたそうだ。可愛い女子にこんなこと出来るなら喜んで。とな」
ニヤニヤ笑いながら俺を見る。いや、俺の場合は・・・
「役人の娘と言っておるが、事実は領主の娘だ。そんな娘が門前で見世物になったら死ぬしかなかろう」
ハッハッハと笑うが、話が見えない。
「ワシもあれと同じじゃじゃ馬でな、あれほどの力がある人間など他に知らなんだ。正直、恥ずかしさより、あの力に興味が湧いてな。屋敷へ引っ張りこんだんじゃ」
なんか、たくましいな、この人。
「何、あの頃は世間知らずでな。父が騒ぐのも放り出して狩人を色々問い詰めたもんだ」
なんとも凄い婆さんだこと。狩人こと、先代領主はこの人の旦那だそうな。
一人娘だったそうで、どこからか婿養子を貰う筈だったが、じゃじゃ馬で手が付けられなかったところに事件が起こり、娘のゴリ押しのままに狩人が婿入りしたらしい。
「父が世間体を考えて、狩人は打首と発表された、ワシも役人の娘として、死人に口なし。晴れて夫婦となった訳だ。旦那はどこだったか。たしか、エドとか言う街に産まれたそうだ。それがメイジになって、引っ越した先が、お前さんの来たのと同じ名前の村でな」
なるほど、そうすると、先代は明治時代の人だったか。
ある程度、肥料や農法があって当たり前、鉄もしかり。だが、蒸気機関やらの近代産業はまだまだの時代だから、彼がひろめられなかったのも納得だな。
「旦那は街道を作って海や山の街との往来を盛んにして、あの街が大きくなった。だが、旦那がやりたかったのは、村を自ら作り上げる事でな、街道沿いのここに村を作った訳だ。獣が多すぎで成功したとは言えんが」
村が後から出来たのか。それはまた・・・
「あれには兄も姉も居る、この村を継がせるにはうってつけでな、あんな奴だか、宜しく頼む」
?
何を?
「ハナもあれには懐いておる。ハナをメカケとして招いても構いはせんだろう」
うん、そっちではない。
お婆の話がおわり、俺は更に呆気に取られた。
この状況でチッパイさんと結婚?
きっと初日に寝首をかかれて終わりだろ。打首の執行者が誰かと言う違いしかない。
「打首の準備が出来ました」
チッパイさんが戻ってきた。
なんだ、どのみち執行者はチッパイさんかよ。
「そうか、では、猿の首をはねておきな」
お婆はチッパイさんにそう指示する。
「私が首をはねたいのはそこの無礼者です」
チッパイさんは揺るがない。そりゃそうだ。
「アイ、お前も私と同じ力があった筈だ。その男を見てわからぬか?」
「だからです。力がありながら猿の言いなりになるような奴は生かしておけません」
チッパイさんが俺を睨む。整った顔で可愛いよりもきれい。鍛えたからだはきっちりした肉付きでものすごくスタイルが良い。可愛いチッパイとお尻が愛嬌があって良い。
「許せんのは、体を見られたからか、それとも『体を見られたからかにほかなりません』」
「して、ヨシフルは何故、途中で止めた?」
チッパイさんが叫んでいるが、婆さんは完全無視である。
「流石に見世物じゃないですから、猿の隙を伺ってました」
そう、ヒイヒイハァハァうるさい猿が隙を見せるのを待っていた。
「隙を見せるのが事を始めてからだったら、どうしたね?」
あ~、それは考えてなかったな・・・
「そこまで考えてませんでした・・・」
俺は正直に答えた。
「これの体に失望したわけではないのだね?」
チッパイさんが騒がしいが俺も無視である。
「はい、チッパイはむしろ好みです」
罵声が酷い。ってか、猫が良いのかって、そんな斜め上な・・・
「アイさん、俺は可愛いチッパイとお尻は好きですが、それはあなたのスタイルが良い体があってですよ。猫が良いと言ってません」
チッパイさんが静かになった。
「ヨシフルよ、ハナと仲が良かったな」
婆さん、それは爆弾じゃ・・・
「お前、ハナに手を出したのか、犬とはいえ、いや、ハナは妾よりも豊満で良かったろう」
何言ってんだ?チッパイさん。
「いやいや、いきなり尻尾触って嫌われた」
何故かチッパイさんがより怖い顔をしている。
「よほどハナに気に入られたらしいな。お前はハナと暮らせばよかろう」
そんな睨むなよ・・・
「裸を見られたアイがハナとこの男の面倒を見るか」
お婆が笑っていた。
「私は!」
「まあ、良いではないか、ハナが居ればそ奴もアイに容易く手は出せまい」
うん、何だコレ・・・
夕方、頭を撃ち抜いた猿が更に打首となった。
そして、俺はタカの家に居る。
違うな、タカは嫁の家に行ってそれまでの家が空き家になったので俺に譲られた。ハナ付で。
今日は色々慌ただしかったらしい。
俺はお婆の所に居たから後で聞いた話だが、先代狩頭が今日の戦いで負傷したらしい。もとから話があったタカの婿入りが負傷で強引に進められて、タカは先代狩頭の家に放り込まれたそうなんだ。
それが猿が打首となったすぐあとの話。まあ、今しがただ。
ハナによるとそもそも、タカもその気は以前からあって、切っ掛けを待っている状態だったとか。
「私の面倒見る人が出来たらって約束だったからね。ヨシフルが来てくれて丁度良かったんだよ、で、アイは何してるの?」
ハナは不思議そうにチッパイさんを見る。
「こいつがハナに手を出さないように監視しに来た」
ハナはニヤニヤしながらチッパイさんを見る。
「ヨシフルは耳や尻尾に興味があるだけで、私に手は出さないと思うよ?それより、アイこそ大丈夫?この変態、猫に興味津々だから、ペッタンコのアイが狙われると思うなぁ~」
人を何だと思ってるんだ、こいつらは。
「ハナは充分に魅力があるぞ?」
「へへっ、でしょ?街の遊郭に居る犬より自信ある」
そう言ってアイを見る。見るのはチッパイさんかよ。
「所詮、色仕掛しか出来ないわけ?」
「ハァ?筋肉には色仕掛なんて無理だし」
あ~、仲良さそうで何よりだ・・・
実際、何だかんだで仲の良い二人だった。
「お婆様もなんでこんなのを婿にせよなどと、流石に歳なのだな」
「まあ、お婆はそろそろ引退したがってるし、魔砲師なんて珍しいの捕まえとくにはちょうど良かったんじゃない?アイも可哀想に」
二人の意見は一致している。美女二人とひとつ屋根の下だから良いだろうって?俺は置物か何かですかね。
ちなみに
「どうぞ、手を出せるものなら、出しても良いよ?出来るなら」
と、胸チラしながらハナは言った。
「妾に手を出す?どうぞやりなさい。お婆様もはやく孫の顔が見たいでしょうから、ほら」
チッパイさんはどうせ見せたのだからと・・・
「ほら、まだ知り合って日が浅いし?」
「何日一緒に居るんだっけ?」
と、ハナ。
「貴族は知らぬ相手と突然結婚だ。領主の娘だからそのくらいの覚悟はある。なに、もう妾の裸を見た後ではないか」
と、チッパイさん。
スイマセン、俺はヘタレです。