5・ようやくラノベな活躍みたいだな!
一夜明けて、山道を歩くと昼前には街が眼下に望めた。
昨夜、狼がこの街の領主を転移者だと言っていたが、遠目には平安時代?の町並みにしか見えないんだが。
壁は白くはないし、門に朱が使われているわけでもない。かなり地味だ。
異世界チートで蒸気機関があるとかそんな素振りもない。
「あそこだ。夕暮れまでには着くだろう」
あ、ここからまだ道は険しいのね・・・・・・
そう覚悟したが道は険しくはなかった。ダラダラ九十九折がひたすら続く道だ。
これが登山道なら直滑降していそうな場所を等高線に沿うように緩やかに下る。
時おり獣道らしき道筋があるが、今日は荷物があるのでそのような道は通らない。
しばらく歩いて街が山に隠れた辺りで昼食をとって再び歩き出すと沢沿いに降り立った。
少し歩くと目の前に現れたのはアーチ橋、切り立つ崖を跨ぐさまは圧巻だ。
「これが街道の橋だ。しばらく行くともう一本橋があるぞ」
確かにこれは凄い技術が必要だが、欧州では、悪魔の橋と呼ばれるこうした険しい地形に掛かる石橋は中世に作られている。チート転移者ならずとも架橋は可能だ。しかも、成分に違いはあるがセメントも紀元前から存在する。この先にダムなんかがあっても、中世技術で可能なのだ。驚きはしても、異世界チートって話にはならない。これが鉄橋だったり鉄筋コンクリートなら別だが。
しかし、凄い橋が。それを見上げながら沢を歩いて更に進むと斜めに歪なアーチ橋が見えてきた。
こちらの道も沢から上り、その道に繋がる。
「凄いだろ、こんな橋は30日歩いてもここにしかない。どんなデカイ街もここの技術には敵わないのさ」
タカがその様に自慢する。
俺には中世レベルにしか見えないが、そうか、石橋ってのは費用がバカにならないからここの街、或いは領主は物凄く豊かなんだろうな。
タカには凄いと驚いて見せたが、転移者って割には大したことないのかな?領主になるような人物なのに。
そんな事を思いながら街道を歩く。
街道に出てから荷車を曳く牛や馬車が行き来するようになった。
馬車は中世を描いたアニメなんかで見るタイプだ。どうやらサスペンションは無いらしい。
チートがあれば、サスペンション付きの馬車は定番だと思うんだが?
とうとう街の門に到着である。日本式の城門が一番近いだろうか、街壁?となるべき壁は土壁に板を貼っているようだ。猪程度ならこれで十分だろう。ラノベでよくある10メートル近い石の城壁はない。歴史モノに出てくる平城京やら平安京のイメージが一番近いな。色は違うが。
門で通行証を見せるのかと思ったら何もなしだった。門番が居たが、彼らは何をしてるんだ?謎である。
街道から門に入ったが、大通りではないらしい。碁盤の目に道は走っているのだろうが、俺には何が何やら・・・
門から二筋ほど直進した角の建物に入っていく。
「ここは?」
「ここは革を買ってくれるところだよ。外からはわからないけどね」
隣のハナがそう答えてくれた。
そうそう、街に入る手前で銃はリュックにしまった。他の皆も弓の弦をほどいて布を巻いていた。矢筒や槍にも袋を被せていたな。
あ、あの門は武器の確認が役目なのか。それなら納得だ。槍や弓を剥き出しにしては街に入れないんだろう。
革の取引はラノベのイベント発生みたいなトラブルなくあっさり終わる。
ふつうさ、ここで一騒動起きたりするでしょ?物語的に。騒動で後のヒロインとかに会ったりとか。
うん、何事もなく次へ出発。塩を買いに行く?
そう言えば、村は山の中だから塩が無いよね。ここだって内陸だから、あ、交易ね。
本当に何のイベントもなく塩を買いつける。
「そろそろ閉門だから街を出るぞ」
え?街中に宿を取るんじゃないの?
「魔砲師さまならそうかも知れんが、俺たちみたいなのが犬まで連れて上がり込む宿はない」
ハナやコロは普通に人と変わらない様にしか見えないが、どうやらそう思うのは俺だけらしい。
この世界では二足歩行していようが会話が可能だろうが、犬は犬らしい。
なんともよくわからない世界である。
獣人なんて普通に街を闊歩している住人の一部ではないのか?
ファンタジー世界で犬や猫の獣人なんて普通にヒロインだったりパーティー組んでる筈なんだが。
少なくともハナやコロは人と変わらない知能がある。しかも、革問屋では何も言われなかったんだが。
そんなことを思いながら、門の外で野営である。
「ヨシフルさん、革問屋を見て何も思いませんでした?」
今日の不寝番はコロと組んでいる。門外の野営地だから山の中みたいな危険は殆ど無いのだが、一応、立てているんだろう。
「俺たちが客扱いされていなかったのは分かった」
んーとコロが首をかしげている。
なんか可愛い。男の娘みたい。
「確かに、彼らにとって我々は客ではないですからね。革問屋は店に見えませんでしたよね?」
俺は頷く。
「でも、塩屋はヨシフルさんにも見つけられました」
当たり前だろ、看板見たらわかる。
「革問屋には看板はありませんよ」
あ、うん。何だかよくわからん。
「タカさんは犬が居るから泊まれないと言いましたが、タカさん達も泊まれる宿は限られます」
なんで?
「村は獣を狩って生計を立てているからです」
まったくわからん。
「ヨシフルさんの様な魔砲師は大抵の場合、貴族に仕えて街の警護として獣を倒すんです。皮を剥いだり肉を食べたりはしません。少なくとも、表向きは」
と、余計に分からない説明をされた。
「ますます分からんのだが・・・」
あははとコロは困ったように笑う。
「肉を食べる時って何をしますか?」
「肉を食うとき?焼いたり蒸したりして熱を通すよな」
生で食べるのは鶏が一部の地域、あとは、馬肉だったか。日本の話だが。
「まあ、それはそうなんですが、街の人達は食べる前に神棚に御供えするんですよ。『殺してません』って言いながら」
なんじゃそりゃ。
「ほら、猪も二本脚で歩くから、人と同じ様に殺してはいけない掟があるんです」
でも、狩ってるんだよね?
「狩人は倒れた獣を見つけて『助けたお礼に肉を分けてもらう』んです。掟では、街や畑が荒らされた場合は、食べるためではなく、イクサだから、殺して良いんです」
まったくもって謎だ。いや、理解は出来る。
日本では、江戸時代には肉をクスリとして食べたって話だ。ここにもそれに似た仕来たりか宗教があるんだろう。面倒くさい話だが・・・
「すると、山の村は罪人の集団になるのか?」
コロは確かにと納得している。それじゃダメだろ。
「いえ、一応、殺したのではなく、死体を見つけて利用しているという事になっているので、罪人ではないです」
面倒くさい話だ。日本の悪い部分を受け継いでやがるのか。言い訳思い付いたら掟が掟で無くなるとか、まるで・・・・・・、おっと、政治批判はそのくらいにしておこう。
「何となく分かった」
きっと江戸時代の身分制度外に分類されるんだな、村の人たちは。
さて、そんな話は終わりにして、ちょいと練習しておきますか。
「それは?」
リュックからL95を出すとコロが不思議そうに聞いてきた。
「見たことなかったよな。こいつは遠い所を狙い撃てる銃だ。だぶん・・・」
辺りを見回すとおあつらえ向きの岩山を見付けた。
「ちょっとあれを撃ってみよう。届くかな」
カシャ、カコン。
ハンドルを操作して装填、夜にはスコープなんか使いにくい。が、何とか明かりがあるので見えるには見えている。それに、イルミネーションタイプのスコープだから、点灯させれば照準も可能だ。
「え、あれは・・・」
こんな街の近くに岩があったのは見ていない気がするが、見逃したんだろう。
パシュ
小さな音がした。うん、夜だからよく判らないや。とりあえず、装填分は撃ちきっておこう。
適当に狙って5連射。3射目で頂きを少し吹き飛ばしたのを確認して、4射目、5射目は下の方を狙って見た。
「あ、倒れる・・・」
やらかしたなぁ~と思ってると
「うそ・・・」
コロも驚いていた。
「コロ、とりあえず内緒な、これ」
コロは口を開けたまま岩山のあった辺りを見つめていた。
「鬼だ、鬼が出たぞ!」
何やら門から人が出てきてこちらに叫んでいる。
そして、門から複数の人が街道へと走って行った。
「ヨシフルさん!」
「内緒だ、俺が持っていたのはコレ、そして、コロは何も見ていない。な!」
俺は89式をコロに見せながらそう迫った。
「でも・・」
コロは何か言いたげだが、
「岩山を崩したのはきっと鬼だ。な!」
「だから、その・・・」
「な!」
「・・・うん・・・」
何か言いたげだが、黙って貰った。
これでウヤムヤになるだろう。
「鬼が出たぞ!」
野営地にも人が走ってくる。
「おい!鬼だそうだ。俺らも加勢しに行くぞ!!」
タカがやってきて俺たちにそう言う。
俺もそれに従いリュックを背負って向かう事にした。
タカに付いて行くのは大変だったが、走っていくとなぜか倒れてもがく巨人が居た。
手の平だけで人間の大きさあるんじゃないかという巨人だ。
それが腕を振り回しているもんだから誰も近づけない。
こいつは89式ではどうにもなりそうにないのでM320を取り出して、試しに一発撃ちこんでみることにした。
「みんな避けろ!」
そう叫んで発射する。
ポンと軽い音がして、しばし。
ドゴォン!
まるで本物のグレネード撃ち込んだような音と共に煙が立ち上る。
「他にも魔砲を持っていたのか・・・」
タカが驚いて俺を見る。
が、俺も驚いた。89式が実銃みたいな威力になったから、もしかしてと思ったが、M320もだよ。って事は、さっき倒したのって・・・・・・
それは言わないことにしておこう。