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番外・新たな転移者

 連絡があったのでウキウキと家を出た俺。


 以前はサバゲをやっていたが、40になり体がついて行かず、ここ最近はよく行っていたガンショップにも顔を出していなかったのだが、20式小銃のガスガンが発売されると聞いて、値段も調べず注文してしまったのである。


 幸いと言うか、ショップの予約はすでに埋まり、次のロット待ちという事で金の問題はなんとかなった。


 そして、半年待ってようやく俺の番が回ってきた!


 今日は何を間違ったか過去の装備品を漁り出し、一応、サバゲが出来る装備を整えて向かっている。


「こんにちはー」


 数年顔を出して居ない間に、見慣れない顔ぶれが増えている。やはり中年にもなれば体力や家庭の問題からそうそうサバゲばかりはやっていられないのだな。みんな。


「いらっしゃい!はい、用意出来てるよ〜」


 マスターがにこやかにそう声を挙げ、サッとカウンターに渋い箱が引き出された。


 OD色の箱には20式小銃の文字が誇らしげだ。


「おお、20」


 常連の中からも声が挙がる。


「どうする?」


 マスターに聞かれ、


「あ、試射します」


 ここのガンショップ、元は工場だった場所で、店舗は元事務所建屋を利用し、工場建屋は中を仕切って試射スペースとインドアフィールドになっている。


 箱から出した銃本体を観察し、少し動かした後、持って来た使い古しのドットサイトをセットする。


 今流行りのアクセサリーからは外れた骨董品だが、見やすい中々の品だと思っている。


 マスターに断りを入れて試射スペースへ。


 店で買った銃の試射は無料なので必要なガスやBB弾を用意して、いざ撃ってみた。


 サイトの調整も純正サイトに合わせるという適当なものだが、それでうまく当たる様に出来たので俺は満足だ。


 フィールドに利用者が居なければクリアリングの動作もやってみようと一度店舗へ。

 残念な事にこれから利用らしく、クリアリングは出来そうになかった。


「あ、うちの定例会なんで参加します?」


 この半年、何度か訪れ、二度ほど顔を合わせた若者がガックリしていた俺に声を掛けていた。


「え?いいの?もはや動けないオッサンだけど」


「気にしなくて大丈夫ですよ。大会出る様なメンバーは交流戦に行ってるんで、今日はユル遊び」


 そう笑うものだから誘いに乗る事に。


 なるほど、 フィールドに行くとガチのPMC系は一人も居らず、真新しい迷彩服の若者や女性まで居る。 


 彼らに挨拶をし、準備をはじめる。


 装備も更新していないので、もはや骨董品の部類に入るものばかり。体形が大きく変わってないのが一番の救いだろうか。


 陸自迷彩服に防弾チョッキ1型。確か本物は3型だか4型に更新されているはずである。

 1型なんてレプリカにしても古すぎるが、今日のメンバーからは逆に興味を向けられている。


「陸自装備で20式ってカッコイイですね!」


 そう言われて悪い気はしない。


 骨董品になっていそうな10年落ちのモノばかりなのだが、そんな事を気にしているのは俺だけらしい。


 そしていそいそと準備を進める。


 ガスガンの装弾数は実銃に近い35発でしかなく、電動ガンの様に何百発もは入らない。


 さらにガスも注入しなきゃいけないが、このガスの値段に驚きを隠せなかった。


 確か、サバゲをやっていた5、6年前には千円くらいで一本買えたハズだが、今や二千円だの三千円だとか言うじゃないか。

 どうやらフロン規制の影響で値段が高騰しているらしい。

 

 ガスの値上がり、さらに銃本体の値上がり、昔の様な気軽な遊びじゃ無くなったのだと実感することしばし、準備が完了した。


 インドアフィールドなのでハンドガンを使う人が多い様だ。動きやすいからね。


 今日はベテラン組も居らず、手軽に気楽にって事でセミオートのみのルールとなった。


 さて、少し説明書を眺めてマズルを外し、蓄光用のトレーサーを装着する。

 これで蓄光剤を含有する弾を撃てば、まるで高速で飛ぶホタルの様な眺めになる。


 それが出来るのも、フィールドがかなり薄暗く作られているからだ。


 フィールドは建物の間取りを模していて隠れる場所も多いしあえて真っ暗な室内環境を作り出した場所さえある。

 野外とはまた違う動作が必要で、対戦距離は見通しの良い真っ直ぐな通路を除けば僅か数メートルしかない。


「良いですか?」


 二グループに分かれてスタート地点へと向かい、備え付けのスタートボタンを押す。

 相手が押して10秒ほど経てばブザーが鳴るので、それが開始の合図となる。


 ピー


 ゲームがスタートした。


 取り敢えず上から眺めた間取りとチームの作戦に従って散開するが、そこからは相手の動きを予想しながらになる。


 まずは側面にある通路を覗きながら遮蔽物に沿って前進し、待ち伏せ出来そうな暗闇へと駆け込んでみた。昔とった杵柄ってやつだ。


「ん?」 


 狭い小部屋へ駆け込んだはずなのだが、そこは長い通路になっていた。

 まるで寺院の回廊みたいに見える。


 不思議に思いながらも先を警戒していると人影が見えた。

 前方なので味方ではない。


 スッと柱の影に隠れて様子を伺えば、頭がひょっこり突き出されたので引き金を引く。


 カキンとガスブローバック特有の金属音と共にトレーサーによる強い光を受けて光る弾が頭へと飛んでいった。


「え?」


 当たれば向きを変えるはずなのに、まるで吸い込まれたかのように光は見えなくなる。

 しかも、ヒットコールも聞こえない。


「ダミーなんてルールあったか?」


 首を傾げながら左右を見て前進を再開する。


 戸板で仕切られた部屋だろうか。どうもフィールドと作りが違う気がするのだが、振り返っても駆け込んだはずの戸が見当たらない。まるで回廊の途中に転移してしまったかのようで理解が追いついてこない。


 少し進めば先ほど頭を出したソレに出会した。


「なんじゃこりゃあー」


 銃弾が貫通した様な状態の死体である。しかも、人間とは違うナニカ。

 後方へ吹き飛ばされた肉片に恐怖するよりそのナニカが理解を拒絶する。


 そして聞こえる足音。


「意味がわからん。何だコレ」


 訳が分からないが来た方向から聞こえる複数の足音から逃げる様に前へ前へと足を進めれば、またもや現れるナニカ。


「何だよ、あの赤い奴」


 銃を構えて引き金を引けば、やはり蓄光弾が緑に輝きながらナニカへと突き刺さり、ナニカは倒れ伏す。


「何だよ、まるでグレイじゃないか。色は赤いけど」


 2体目は体の中心付近を撃ち抜いていた。


 辺りを見回し、明るい場所を見つけたのでそちらへと向かい、そっと覗けば、どうやら外であるらしかった。


 周囲を確認し、そっと地面へ降りれば、そこに広がるのは見たことの無い景色。


「平野が見えるが、街が無い。いや、アレは・・・」


 マンガやCGでは見たことのある景色だ。


 平安京の様な塀で囲われた街らしいモノ。そこには五重塔らしき建築物が見える。


「本当に、人が居たのか」


 ハッと振り返れば、そこには同じ様な装備の人物が居た。


 手に持つのは89式小銃。装着されたドットサイトは俺と同じメーカーだろう。実物レプリカではなく、エアガン用アフターパーツメーカーが送り出したベストセラー商品。


「疑ってたの?」


 という声がした方を見れば、コスプレした女性の姿があった。いや、よく見ると尻尾が揺れてるような・・・


「いや、急に現れたってハナが言ったから」


 と、男の方が言うと、尻尾の動きが変わる。え?


 どうやら俺の視線に気が付いたらしい女性がこちらを見る。


 そして、男の方に視線を送ると、なぜか訳知り顔でこちらを見て来るではないか。


「ここがどこかと思ってるんでしょう?異世界なんですよ」


 などと意味不明な供述を始めるが、女性の髪をかき上げて


「ほら、耳が無いでしょう?」


 と言って来る。たしかに本来あるべき耳がなく、頭の上にある三角部分がピクピク動いているではないか。


「ひとの髪で遊ばない!」


 と、払いのけられているが、もちろん尻尾はピンと上に立っている。


「それにしても陸自装備なのに、そのスカーとM4を足したような銃は一体・・・」  


 と、男は女性には構わず俺の銃に興味を向けて来たのだが、え?20式を知らないサバゲーマーとは一体・・・


「20式ですが、何か?」


 俺もそうとしか返せない。


「にーまるしき??・・・えっと、日本の?」


 そう言って疑問形で返って来た。


「2020年、令和二年に制式化されたものだ。そこからしばらくしてようやくガスガンが発売されたんだが、君はいつこっちに?」


 演技には見えない態度に俺はそう問いかけていた。


「レーワ?ああ、そう言えば平成は来年4月に終わるとか言ってたなぁ~。こちらに来たのは2018年、平成三十年だけど、え?まだ1年しかたってないけど、何年から来たって?」


 なるほど、平成時代人と言う事になるらしい。


 そこから話をすり合わせてみたところ、転移した場所は全く違う地方であり、彼の失踪に関するニュースを俺は知らなかった。


 彼にとって俺が持つ20式は未知の銃であり、トレーサーも最新型と言う認識だった。


「そうかぁ、こちらの1年は地球では10年近い時間になっているのかぁ」


 彼は感慨深げにそう語る。


 そして、チラホラ人が増え、彼以外の人間の装束や彼女以外にも居る獣っぽい人物の姿を見て、此処が本当に日本ではないらしいという話に信憑性が出て来てしまった。


「終わったなら火をつけるぞ」


 リーダー格らしき人物がそう音頭を取って建物に火をつける。


 説明によればここにはゴブリンモドキが住み着いていたとかで駆除に来ていたとの事。その際、ハナと言う女性が建物内にいきなり人が現れたと言い出し、ふたりで俺を探しにやって来たのだそうだ。


「マジで異世界に転移したのかよ・・・」


 そうがっくり来る俺


「まあ、そう落ち込まなくてもいい事ありますよ」


 と言う先住転移者。他にも転移者がいるらしいのだが、彼の装備や語られた転移者と比べて俺の持ち物は20式だけ。

 これからどうすれば良いのやら・・・

 

 


 

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