28・そして、物語の一ページは幕を閉じた
なんとも締まらない結末を迎えた鬼ヶ島騒動だったが、こんなファンタジーな世界なのだから俺の常識が通用しないんだと納得するしかない。
考えて見ればおばあの行動自体が俺の常識の範疇外だった。普通に、常識が無かったとはいえ、人前で辱められた当人に付いて行くようなことはあり得ないだろう。が、この世界には居た。そこからしてこの世界の常識は違うんだと認識しておくべきだった。
ボケっと幼女の館から鬼ヶ島を見ながらそんな感傷に浸っている。
「どうした?」
与一も宴会を抜けて来たらしい。
「いや、想像していたのと違うかったと思っただけだ」
そう言うと笑っていた。
「どんなことを考えていた?映画や小説みたいなシリアスでドキドキする展開かな?確かにそういうモノもあるんだろうけど、地球だって思っているほど奥の深くない話が多かったんじゃないのか?」
そう言われても俺にはよく分からない。
「確かに、鬼ヶ島はバカらしい話だった。けど、地球だって似たようなもんさ。第一次大戦は従兄妹同士の英独露の王族が何とかなるで気軽に考えていたら、実は国のシステムはそこまで自分たちの思い通りにはならなかったって話だし、第二次大戦だって、ラインラント進駐からこの方、万馬券みたいな際どい賭けを繰り返したヒトラーの博打がポーランドには通用せず、予定外の戦争を招いたんだしね。日本だってそうだったらしい。誰かが計画を立てたわけではなく、そんな雰囲気ってだけでおっ始めたらしい。世の中ってのはそんなもんさ。映画や小説の方がよほど計画性あるんだ」
与一が鬼が島を見ながらそんな事を言う。
「なるほど。ヒトラーの計画的戦争じゃなくて、賭けの結果か。確かに、映画のヒトラーの方が計画的かもしれんな」
よく分からなかったが、そう納得しておいた。
「そう言う事だ」
「おい、お前ら!!こっち来て飲め!」
幼女がこちらへそう怒鳴ると、それを見た与一が俺を見て肩をすくめた。俺も笑い返す。
「分かった、これから行く」
俺はそう言って歩き出す。
「彼女の姿や弓や鉄砲の威力もまるで冗談みたいな話だが、これがこの世界なのさ」
歩きながら与一がそんな事を言う。確かにな。ハナを見れば俺も分かるさ。コスプレじゃなくて本当にイヌ耳や尻尾が生えてんだもんな。
みんなで宴会をやった翌日、俺たちは村へ帰ることになった。来るときに処理をした集落や獣の始末もある。
これが物語であればエンドロールが流れる辺りだろうが、現実ってのはそういう訳にはいかないらしいな。
「みんな、支度は出来たな。河原を上って確認しながら帰るぞ」
タカの声と共に俺たちは歩き出した。