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27・結局バカみたいな結末だった

 何とか櫓が崩壊するより早く島から脱出できた。外では一緒に来ていたメンバーが門の前で慌てていたが、俺たちが出て来たことで何とか平静を取り戻している。


「皆、大丈夫だ。一騎、鬼の骸があったが、ソイツに止めを指したら櫓が崩壊しやがった。崩壊が収まったらお前らも中の探索だ」


 合流するなり幼女がそう宣言しやがった。瓦礫の中へもう一度足を踏み入れるのか。そう思って俺は鬼が島を振り返る。


 そこには先ほどより幾分低くなっているが、どうやら下層は木々が支えになって炮烙を免れている様だ。あるいは、木の幹や根だけが残っているのかもしれない。ちょうど風下だったことで土煙はこちらに流れておらず、島の全景を確認することが出来る。


「そろそろ落ち着いたらしいな」


 幼女がそう言って島へ近づくように皆へと指示を出す。


 警戒しながら島へと近付き、崩れた門を抜けて内湾へと進入していく。どうやら先ほど玄関口になっていた辺りは崩落してしまっている様だ。瓦礫が積みあがっている。


「ケッ!これじゃあまともに入れないじゃねぇか」


 幼女がそう毒づいているが、皆で手分けして上陸できそうな場所を探してみる。


「あったぞ!ここなら上がれる」


 街の防人の一艘が上陸可能な場所を見つけたらしく、警戒しながら上陸していく。他の者たちも船を繋いで道を作りながらそこを目指す。


 一部の海への警戒を行うグループを除いて上陸が完了し、当たりの探索をと思ったが、探索するほどの者はそこにはなかった。


 石垣や土塁で作られたのであろう下層部には木々が根を張り崩落を防いでいた。一部、蔦や枝が絡んで崩落を免れた建造物の部分もあるが、屋根が完全に抜け落ちているので、森の中にぽっかり口を開けた広場の様になっている。


「ここまでくると何も探しようがないな」


 床材だろうか、厚めの板を持ち上げながら俺はつぶやいた。


「仕方がねぇ」


 近くの幼女も石を転がしながらそう言う。ふと、犬たちを見て見るが、特に何かを発見した様子はない。ただ、先ほど玉座があったと思しき場所を指して何か言っている犬とそこを掘る人たちが見える程度だ。


 あたりを見て回ったが、これと言って何があるという風でもない。


「おい、コレ・・・」


 玉座を掘り返していたグループがかき分けた瓦礫をあさっていた与一が何か見つけたらしい。


「人が居たのは確実だな」


 それは俺たちにとってはなじみのモノだった。


「何じゃそれ」


 幼女が覗き込んでそういう。


「綺麗」


 チッパイさんはソレの色を見てそう言った。


「どうやら、個々に居たのは俺たちと同じ存在らしいな。ラノベで読んだことがあるぞ、スマホで色々召喚したり、魔法みたいな事を行う話をさ。もしかして、隠遁はこいつが起こしていたんじゃないのか?」


 まあ、ありきたりの話だがそう思ってしまった。なにせ、それは俺も良く知るスマートフォンだったからだ。ラノベではこれを利用して様々なモノを召喚したり、魔法みたいな機能が付与されていたりと、便利な道具として登場している作品がある。


「そうだろうな。コイツが隠遁やこの櫓の存在を実現していたんだろう。俺が鬼を射抜いた時に壊れたんじゃないか?」


 与一も同意見らしい。ただ、疑問が無いではない。


「もし、そうだったとしてだ。これの持ち主は鬼って事か?」


 与一もそこが分からず曖昧な事しか言えなかったらしい。鬼って奴は関の向こうで生まれる怪物で、人とは別の大児と呼ばれる魔物?である事は、関でヴィールヒさんに聞いている。


「おい!人が居るぞ!」


 確かにそこには人が居た。ただ、生きてはいないが。


「なるほど、確かにスマホを操作できる人が居たな。しかし、小鬼になってたんだろうな。もしくは・・・」


 与一は言いにくそうにしている。ああ、そうだ。それも時折ラノベでもあるじゃないか。


「テイマーか。今となっては聞く術も操作する術もないんだがな」


 いつからここに居たのか分からない。どうやってこんな建造物を作ったのか、鬼をテイム?したのかも分からないが、とりあえずの問題は解決を見たと言って良いだろう。


「何かよく分からんが、魔道具使いだったのか、コイツは」


 ただ寝ているように見えるが、そんなちゃちな話じゃない。なんせ、がれきの下敷きになって下半身が潰れているにもかかわらず血の一滴も流れて無いんだぞ?


「この人、全然人や獣の匂いがしない。生き物なの?」


 そばに寄ってきたハナがそんな事を言う。側にある鬼は干からびているとはいえ、生き物だった匂いがあるという。

 ふいに俺はその人に触れてみた。


「なるほど。たしかに、彼女は生き物じゃない。もしかしたらなんだが、ソレで自らを変えてしまったのかもしれないな。仮に100年前にたどり着いて、鬼たちを使役したとしてだ、老いはやって来るだろう。だが、全然年取ってねぇんじゃないか?もう、何十年前に死んでたとしてだ、それでもこの世界に来てから数年じゃないだろ。この島が忘れ去られるほどここで生活してたとしたら」


 与一が何やら思い至ったらしい。


「自分で自分をロボットにしたのか・・・」


 なにせ、彼女は一見きれいな肌に見えるが、アレは肌ではない。本当にプラスチックか何かに色がついているだけだ。人と触れ合う事を拒絶してこんなところで暮らすことにしたのかもしれない。


「そりゃあ、見なくていいモノを見付けてしまってワリィことをしたな」


 幼女は彼女を覗き込みながらそう言っている。


「いや、これで良かったのかもしれん。玉座の鬼が死んでいた時点で、ここは既に終わっていたんだ。ここの存在を終わらせてくれる誰かを待っていた。そう思った方が心持も軽くなるだろう?」


 俺は幼女にそう声をかけた。


「ヨシフル!ここになにか書いてある!」


 そう言えば、チッパイさんが居なかったことに今更気が付いた。


 チッパイさんが見つけ出したのは、何やら碑文だった。


『こんな世界に来なければ、今は2076年。こんな面白くもない世界で60年もよく頑張った私を褒めて欲しい。これを見付けたアンタに美しい私をあげる』


 なんじゃこれ。


 せっかく感動的なラストだと思ったんだが、現実はずいぶん違ったらしいな。


「あの女性が書いたんだろう。いつ書いたかは分からんが、随分前に書かれたんだろうな」


 投げ槍にそう言っておいた。


「ここにたどり着いたら美しい人形が手に入るって事?結局、壊しちゃったけど」


 まあ、そう言う事だな。映画やドラマのラストみたいに綺麗な終わり方してないのが残念ではあるが。


「ソレと一緒にこの辺りに墓作ってやれよ。ったく、終ったら帰っぞ」


 碑文を呼んだ幼女も投げ槍に発掘したメンバーに指示を出している。



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