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26・それは偶像の神殿だった

 翌日、与一のクロスボウの威力と境界が壊せるかもしれないという言葉を頼りに再び鬼が島へ向かうと言い出した。


「船が出せるだけの人数は付いて来い!隠遁が破れても島に上陸するのは俺たち四人だけだ、後の者どもは待機だ。鬼や小鬼が出るようならお前たちにも戦ってもらうが、そうでなきゃ、まずは俺たちだけで中を見て、なにも居なけりゃ見物と行こうじゃねぇか」


 そう言って山のメンバーや浜の街にいる主要な防人や猟師を集めたようだ。


 十隻近い船を連ねて鬼が島へと向かう。


「これだけ引き連れてきて破れなかったら徒労も良い所だな」


 ぼそっと俺がそう言うと、幼女が聞いていたらしい。


「そんときゃ釣りでもして帰ればいいだろ」


 そんな前向きな事を言い出した。ホント、どうなるんだろうな。


 そして、昨日と同じように穏やかな海を進んで鬼が島へとたどり着いた。って言っても、見えるのは暗視スコープ覗く俺だけなんだが。


「鬼が島だ。境界は船二艘くらい先だ」


 俺がそう言うと後ろで与一が準備を始めたらしい。


「まずは軽量矢でいってみる」


 与一の持つクロスボウは、本来ならスコープが乗っているはずのレール上には何も乗っておらず、俺が渡した暗視スコープを取り付け、その後ろに昨日調整したドットサイトを載せる。こうすることで鬼が島と境界の位置を確認しながら射撃ができるという訳だ。


 何も知らずにこの光景を見ると滑稽だろう。


 なにせ、何もない海原でクロスボウを撃とうとしているのだから。しかも、見る人が見れば、日中だというのに暗視スコープを取り付けているのだから尚更だ。


 本来、俺が持っている暗視スコープは昼夜兼用とはいえ、サバゲ用の品だからそんなに遠くまで見渡せないはずだった。せいぜい数十m程度のはずだが、ここでは正規の製品並みに遠距離が見渡せていた。星や月の光を増幅するタイプのスターライトスコープではなく、赤外線ライトを用いる暗視スコープだから、小さなライトの照射距離などたかが知れているし、今どきの軍隊界隈ではライトを照らしてるのと変わらない危険行為だ。そうでなくとも、敵チームの暗視スコープ持ちに容易に発見される状況だから、スターライト式の方が有利なんじゃね?と密かに思案していた。まあ、アッチはよほど高価な品じゃなければライト当てられただけで中の回路が吹っ飛んだり焼き付きかねんらしいが。


 そんなことを考えている間に与一の準備ができたらしい。


「行くぞ」


 そう言って引き金を引いた。そして、何も見えないので何が起きているのか分らん。


「貫通はしたが小さな穴しか開いてないみたいだな」


 まあ、そうだろう。そんな気がした。 つか、穴は見えないな。


「もう一射いく」


 そう言って与一がハンドルを回して弦を引き絞る、この作業がなかなかにじれったい。弓ならスッと番えてサッと射ている頃合いなのに、未だにクルクルやっている。


 客観的に見ればそんなに時間はかかっていないのだろうが、俺にしたらものすごく時間がかかっているように思えて仕方がない。ようやく矢を番えて構える様だ。


「行くぞ」


 再び小さな音と共に矢が飛んで行った。島が現れないところを見ると結果は同じらしい。


「同じだな。次は通常の矢を使ってみる」


 そう言って少し太い矢を使うらしい。昨日、断崖を吹き飛ばしたアレだ。


 そんなことを考えていたからだろう。今回は気が付いたら作業が完了していた。


「行くぞ!」


 小さな音と共に矢が撃ちだされ、一瞬、何か見えた気がした。そして、何かが砕けて降り注いでいる感覚があって、島が露わとなった。


「よし!行くぞお前ら!!」


 島が見えたとたん、幼女がそう叫び、なぜか船頭を横付けした船に乗せて、幼女自身が艪を漕ぐらしい。幼女のくせにかなり力があるようで、船頭より速く進んでるんじゃなかと思える。

 俺たちは弓や銃を構えて臨戦態勢だ。流石にこの状況でクロスボウは必要ない。昨日俺が持っていたスリングの余りをクロスボウに取り付け、背負えるようにしてやったので、背中にクロスボウ、腰にボウケースとちょっと与一の格好がアーチェリー選手というより銃を担いだ兵士状態になっている。アレでいつも通り狙えるのか?


 他人の心配をしている間にも島へと近付き、昨日見た水門を潜った。


「何も居ないようだな」


 俺がそう言うが、警戒を解くことはしない。三人で死角を補い合う様に警戒を続けている。

 水門を潜ると中は壁に隔てられた内湾のような状態で、正面に緑に覆われた建物が口を開けていた。


「あの桟橋に着けるぞ」


 幼女が器用に船を操り桟橋に横付けする。そして、小船が使うには太い柱に手際よく縄を巻き付ける。


 その後、手信号と目線だけで連携を取りながら中へとすすんで行く。


 中は何もかもが巨大だった。サイズが人間の物よりデカイ。段差は優に一m程度はあるだろうか、超えるのに苦労する。


 しばらく進むと何やら見えてきた。


「さながら偶像の神殿といったところか」


 与一がそんな事を口にした。


 目の前には椅子があり、そこに鬼が腰かけていた。すでに死んでいるのは明らかで、ミイラ化しているように見える。たしかに、ミイラを奉る神殿だな。礼拝所だとかそんな感じだ。神や女神の像にかわってミイラを奉っているとんでもない神殿だ。


「おい、与一。生きてたら困るからさっきのアレで頭飛ばしとけ」


 幼女はこの状況にも感傷が無いらしく、冷静にそんな指示を出す。チッパイさんを見ると幼女同様、ただ鬼を警戒している様だった。


「分かった」


 与一は弓を脇に置いてクロスボウを手に取り弦を張り、細い矢を番えて構えた。


 矢が放たれると数瞬でミイラの後頭部が吹き飛んで行った。


「さすがに乾いてるから中身も砂か泥ってところか」


 幼女がそんな感想を述べる。が、


「イテッ」


 何か落ちて来た。


「おい!与一、どこ狙った!!櫓が崩れるぞ!!」


 幼女がそう言いながら俺と与一を引っ張る。チッパイさんも幼女の声で我に返って避難を始めている。


「アイリの言った通り頭しか狙ってねぇ!」


 与一は抗議しながら弓を何とか拾って逃げる。


 鬼サイズに作ってあるから一々すべてが障害物でスピードを上げられないが、何とか崩れる前に船までたどり着いて、内湾へと避難できた。


「クッソ、門が閉じてやがる」


 幼女がそう叫んだ。俺はM320を門に向けて撃つ。


 ドンと爆発して門に穴が開いたがさすがに船の往来ができるようには見えない。


「ソレもその程度なのか」


 与一がどこか落胆した風に言って弓を引き絞っていた。


 ドゴォン!!


 水門が吹っ飛んだ。門扉がではなく、門の片側が。そして、幼女も弓を引いている。


 ドゴォン!!


 反対側も吹っ飛び、支えを無くした門が海へと倒れて行く。


「なるほど、威力が強すぎて敬遠されたのかお前ら」


 魔弓と言っても普通ならチッパイさんレベルだが、与一や幼女は桁が違いすぎる様だ。百聞は一見に如かずだな。目の前の威力を見て幼女の話にも納得した。こんな脅威力じゃ、戦に駆り出すことも狩猟を行うことも出来ないよな。

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