25・やはりこいつはロリだった
そんなことを言いながら与一は細く小さな矢を取り出した。
「通常使う矢だと初速は158程度になる。初速を稼ぐにはこの軽量な矢を使うんだ」
そう説明しながらハンドルも取り出してきた。ハンドルなんか何に使うのかと思ったら、クロスボウから突き出た突起に差し込んで、何やらストック側から台車の様なものを弦まで引っ張り引っ掻けた。
「まさか、引っ張ると思ったか?さすがに250ポンド、110kgを超える力がある弦を人力では厳しいから、こうやってギヤによる巻き上げ機がついているんだ」
そう言って弦に台車をひっかけハンドルを回すと引き絞られていく。
「弓だとコンパウンドでも50~80ポンド程度、和弓でも上級者が使う30kg中盤辺りが相場だ。引き絞った地点での力は半減程度だから安定させやすいし、引っ張り力自体はリカーブや和弓よりあるから初速が出やすい。クロスボウなら尚更だ」
そんな事を言いながら弦を引ききり、セット完了。矢をそこに番えて構える。
「きっと射程はたいして出ないはずだから、目の前の断崖を狙おうか」
そう言って、庭の目の前にある断崖へと向ける。
シュッという音と共に矢が飛んで行ったが、目で追える速度ではなかった。程なく、軽い音がして岩に刺さったようだ。
「さすがに、初速だけでは大したことは出来ないようだな」
そう言って先ほどの操作をもう一度行う。
「今度はこちらの矢を撃ってみようか。ボウ並みの威力があるかも知れない」
そう言って作業を行い、俺もそれを見ていたら、がけ下から落石があったらしい音がした。
まさかと思って先ほど命中したあたりを見ると、確かに少し、岩がそぎ落とされている。
「ちょうど節理を射抜いたらしいな。楔としてのエネルギーは持っているらしいな。小銃弾よりはこの魔矢が威力は上らしい」
何やら一人で納得している。
「さて、次はこっちだ」
先ほど同様、断崖へと矢を放ったわけだが、着弾と同時に断崖がドカンと爆ぜた。
「さすがだね。ボウと変わらないじゃないか。もしかしたら近距離ならこちらの方が威力が上かもしれない」
などとさらに納得している。が、なぜ使わないかはよく分かった。弓なら2射程度可能な時間をかけてようやく準備が終わるという遅さだ。しかも、基本的に矢が小さく軽いので射距離は短い。速射性も射程も弓に劣るのでは使い勝手が悪いわけだ。
「何だ今の音は!!」
幼女が館から飛び出してきた。
「ああ、悪い、ちょっと武器の試射をしていたんだ」
与一が幼女に謝る。幼女は与一が持つクロスボウをマジマジと見ている。
「ヨイチ、お前、魔弓だけではなく魔砲まで撃てるのか?」
驚いたようにそう聞いている。まあ、そうだよな。クロスボウは一見して弓には見えない。強力なコンパウンドタイプなど、弓というより、銃の側面におかしな構造体が張り付いているように見えるんだから、仕方がないだろう。
「いや、俺は銃は撃てない。ほら、これにも弦があるだろう?」
与一はそう言って幼女にクロスボウを見せている。
「はぁ?反りもたいして無いのに矢が飛ぶのか?コレ」
まあ、そうだな、普通に考えれば、横に長く弓が伸びているものをクロスボウや弩というんだが、コンパウンドタイプはそんな一般常識の遥か斜め上の構造をしているから理解は出来ないだろう。
「俺の魔弓も反りはほぼ横にしか伸びていないじゃないか」
与一がそう説明している。
「確かに、お前の弓は胴ばかりがやたらデカくて反りがほとんどないな。コレも似たようなもんか。確かに、弦があちこち張り巡らされておかしなことになっているのは同じだな」
幼女はどうやら納得したらしい。
「しかし、弓ではないソレはなんだ?見たことが無いぞ」
そんな事を言う。あれ?この世界、結構和風だから弩くらい入って来てるんじゃないのか?
「弓の様な修練をあまり必要としない武器だな。魔砲、まあ、銃器と言うんだが、ああいう飛び道具が出来る以前の一般兵に持たせる武器だった。この辺りにもあるんじゃないのか?」
与一も弩が伝来しているんではないかと考えているらしい。
日本において弩は律令と共に整備された兵制において運用され、防人などの装備として弩が存在していた記録がある。しかし、日本においては律令制による兵制が事実上廃止され、代わって武士が興ったことによって、組織的な運用、管理が前提となる弩は廃れ、小集団での運用が可能な弓が主流となっていった。そのため、平安末期以後の武士による戦においてはほとんど使用されることが無くなっていたようだ。戦国時代ごろには西洋式のクロスボウも伝わったらしいが、ほぼ同時に鉄砲が伝わっており、そもそも速射性が弓に劣り、威力では鉄砲に劣る弩やクロスボウが再度日の目を見る事は無かった。
「いや、俺は見たことが無いな。確かに弓より簡単に撃てそうだ」
「そうなんだが・・・・・・」
与一は先ほどと同じ動作を行い弦を張る。そして、矢を番えて撃った。
「ほう、威力はあるな。俺やお前の魔弓と変わらん」
幼女は非常に満足そうだ。
「威力はあるが、さっきの動作を見ただろう?一々巻き上げる必要がある。そんなことをしている間に弓なら2射ていど楽に出来る。さらに、この小さな矢では射距離が知れている。俺やアイリの弓ほど遠くは狙えない」
与一はそう説明し、幼女も何やら納得しているらしい。
「なんだ、弓より小さい反りと矢しか持たん上に、撃つのに時間がかかるんじゃあ、使えねぇな。流石にその威力で狩りをやっちゃあ肉も獲れんだろ」
最終的に、興味を無くしたらしい。
「ただな、矢の速度が速いから、隠遁の壁を壊せるかもしれん」
「それを先に言いやがれ!このアホども!!」
どうやらそこには興味があるらしく、へそを見せながら怒鳴る。おい、ロリ一よ、幼女のへそがそんなにエロいのか?鼻の下が伸びてんぞ。