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24・それでも諦めがつかないようだった

 幼女が腹が減ったというので議論は一度お開きとなった。


「もうすぐ湊です」


 船頭がそう知らせて来たので俺たちは下船の準備をする。


 それからは腹が減ったという幼女を宥めすかしながら山の館へと向かう訳だが、これがなかなかの道のりだった。


「帰ったぞ!」


 しばらく歩いてようやく館へとたどり着いた俺たちは思い思いに寛ぐことにした。


「ちょっとさっきの話で聞きたいことがある」


 与一がそう言ってくる。まだ何か言い足りないのだろうか?


「何だ?」


 俺が振り向くとさっきの続きだった。


「本当に手は無いのだろうか?俺のコンパウンドボウや君のその大砲でなら・・・・・・」


 与一がそう言ってくるが、俺は首を振った。


「さすがに無理だと思う。アレは触った程度ならともかく、強い力が加わると『滑る』様に作用するんじゃないかと思うんだが、矢や弾ならより一層滑りやすくなる」


 そう考えたのには理由があった。


 きっと、アレは装甲と同じような原理で出来ているのではないかと思う。そうすると、傾斜があれば跳弾する。

 傾斜装甲に弾が着弾した場合、斜めに入れば弾頭は傾斜に沿って受け流されることになる。いわゆる被弾経始と言うヤツだ。隠遁の境界にもそれに似たナニカが作用しているような気がする。それも、被弾経始よりさらに厄介なナニカが。


「なら、遅ければ良いという事か?」


 与一がそう言う。


「そうかもしれないが、それは大岩を押し付けて境界を押しつぶすようなことが出来た場合だな。直角ではないからきっと滑ることになると思うが」


 俺はそう返す。いや、一つだけ方法が無いわけではない。


「ただ、例えば現用戦車は昔の様な傾斜装甲ではない」


 与一は何を言い出したんだ?という顔をしている。


「一昔前までの戦車は傾斜装甲を前提にしていた。そうすれば徹甲弾を跳弾させられたからだ。だが、今はそうじゃない。セラミックを積層することで防ぐ。が、実はこの手法は従来の徹甲弾に対してはまるで効果が無い。硬いが脆いセラミックは遅い弾丸にはまるで役に立たないからだ」


「おいおい、いきなり何を言い出すんだ?それと境界に何の関係があるんだ?一体」


 与一は俺の話を止めに入る。


「まあ、聞いてくれ」


 俺はそう言って傾斜装甲の話をした。


 傾斜装甲の利点の一つは昔からあった見かけ上の厚さを増す事だ。斜めにすれば垂直に対して見かけ上厚くなる。そのため、垂直よりも薄い装甲で同等の性能を出すことも出来なくはない。当然、これは装甲の材質によって異なるので一概には言えないが。


 そして、もう一つがいま話している被弾軽視だ。弾が滑ることで跳弾を誘発する。これは昔から知られていたことではあるが、そもそも質量がある砲弾は質量で持って装甲を砕きに来る。一定の強度と硬さが無ければ負けて貫かれてしまう訳だ。

 しかし、モノには限度というモノがある。同一口径でいくらでも重くできるわけではない。重ければエネルギーが増すが、口径は決まっているので結果的に弾の大きさは限界がある。太くは出来ない、じゃあ長くすれば良いかというとそれも限界がある。


 そうすると、弾の重さではなく速度によってエネルギーを得る方向へと向かう考えが出てくる。


 高初速を求めて考案されたのがドイツのゲルリッヒ砲だった。砲の根元に対して先端が細くなる構造となった砲で、弾が変形しながら高速を得て飛翔していく。

 当然、そんな無理な構造だから砲身自体の寿命は短くなってしまう。


 そこで弾芯と外筒を分離できるようにすれば従来の砲から高速で撃てる弾が出来るのではないかという発想が生まれ、開発されたのが装弾筒付徹甲弾、いわゆるAPDSだった。たしかに、従来の徹甲弾に対し高速化していた。ただ、傾斜装甲に接して跳弾するリスクが跳ね上がることになった。


 その後に作られたのがより高速化した細長い矢を弾芯として用いるAPFSDSだった。


「つまりだ、弓矢やエアガンの初速の2倍前後、160~200あれば貫通できるかもしれない。が、その初速は小型拳銃に匹敵するんだがな」


 半ば自嘲気味にそう与一に言った。


 そうすると、与一は何やら思い付いた顔になる。


「ちょっと待ってろ」


 なぜかそう言うとどこかへと行ってしまった。



 しばらくして何やら持って現れた。何だか銃っぽいが違う。もしかして


「それは、クロスボウ?」


 俺がそう言うと頷いた。なるほど、確かにクロスボウなら初速は速いだろう。弓を折りたたんでいるのか不思議な形をしている。が、それにしたって初速160m/秒とか無理だろ?


「無理だと思っているな?確かに、通常のクロスボウならせいぜい130台ってところだが、こいつは軽量な矢を使えば初速170は出るぞ」


 俺は驚いてしまった。


「マテ、それじゃあほぼ拳銃弾の威力になるだろ!!」


 そう叫んでしまった。


「いや、矢は4gになるから威力は拳銃ほどは出ない。が、エアガンの100倍はあるかも知れんな」


 おいおい、そいつは完全な「武器」だろ。


「言いたいことは分かる。が日本には規制する法律が無いから、人や鳥獣に向けない限り罪には問われん。俺もおかしい事だとは思うがな。いわば、法の抜け道だな」


 与一はサラッととんでもない事を言い出した。


「君の銃の規制は幾らだっけ?」


 と聞いてくる。


「0.98ジュールだな。もっと厳しくなる話もあったらしいが、業界の自主規制値に落ち着いたと聞いている」


 与一が頷く。


「弓類には銃刀法は適応されないから日本では何でもありだ。海外ですらクロスボウの規制は行われていたりするんだがな。ま、ここは日本じゃないから関係ないが」


 最後にそう言った。確かにそうだ。


「ただ、個人的にはこいつはさすがにやり過ぎだと思うがな。精々張力100ポンドもあれば十分だろう。クロスボウとアーチェリーや和弓をすべて同じとするのは問題ではあるが、張力100ポンド、約45kgもあれば、競技用としては規制に掛かる事は無い。こいつはその2.5倍だがな」


 などと言い出した。俺にはよく分からんが、与一が言うんならそうなんだろう。



 今回はおもっくそ脱線した話になってる。


 というのも、弓の初速はまあだいたい出てたんだけど、クロスボウはどないん?と調べてみたら、まあ、スゲェ訳よ。日本の通販サイトには本文にあるモノは掲載されてなかった。ワンランク下の初速135台が最高だった。それでも約36万円するんね。すげぇわ。


 そこのサイトに書いてあったのが、「海外において威力の高いクロスボウは規制されるものがあるため再入荷されない場合があります」という但し書き。


 で、ちょっと弓関連の法規はどないん?とみてみたら、無いわけよ。鳥獣を撃てば動物保護法や狩猟法による罰則はある。人を撃てばそりゃあね。


 しかし、銃や刀剣の様に所持を制限するものが無い。で、そうした動きは?とみていくと、個人サイトや纏めなんかで、「弓類を規制すれば、スポーツクラブに影響が及んで学校の部活が出来なくなったり、射場の改装が必要になるので如何なものか」とある訳、何だよその為にする反対意見はと思った訳。


 自身が弓道経験者であり、道場のシャッターを貫通する矢を間近で見ちゃってるから危険性は承知してる。そして、日本で横行してる極端な規制の在り方にも反対ではある。


 そこで、個人的な意見として規制値を載せてみた。


 規制したら部活やクラブ、射場に影響が出るって?サバゲもやってたから知ってるが、制限内で法に反しない取り扱いをやる分には制約を受ける事は無い。商店街にサバゲ場があったりするんだよ?銃刀法があるからってサバゲ場が街中に作れないとか所持が出来ないという事は無い現状を見れば、アーチェリーや弓道が出来なくなったり、極端な制約を受けることもあり得ない。


 ただ、それはアーチェリー協会や弓道連盟などが、遊戯銃協会が業界として政治への説明を行い理解を得たような活動を行うことが前提ではあるけれど、現状放任で行動しないなら、何か大きな事件が起きた場合、極端から極端に非常に厳しい規制という波があるかも知れないと危惧は持ってる。




2021年4月追記


 これを書いて1年後、連続して人をボーガンで撃つ事件が起きた事で、ボーガン規制が施行されることになった。


 何というかようやく。


 そして、各種サイトが懸念したような事態にはなっていない。


 あれはいったい何だったのかと、今でも疑問に思う。


 

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