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22・鬼が島は静寂に包まれていた

 幼女に変なあだ名を付けられた。訂正したので次は大丈夫だと思うが。


「ちょっと待って。行くのは私たち4人だけですか?」


 チッパイさんが現実に帰還して発した言葉がそれだった。幼女は当然のように頷く。


「確かにこの4人ならば鬼が出ても対処できます。しかし、他の魔物や小鬼が居た場合にはもっと人手が居るんじゃないですか?」


 至極真っ当な話だ。


「仕方ねぇだろ、船が小さいんだ。何艘も出して騒ぐわいでわざわざ隠遁解かれても事だからな」


 どこかめんどくさそうにそう言う。つまり、乗るのは朝見たヨットみたいな小舟なんだろうな。


「・・・わかりました」


 チッパイさんも渋々だが納得したらしい。で、なんで俺を睨むんだ?


 幼女は昨日の話を元に役所へ行ってこの辺りの昔話を調べたらしい。アレに該当するかどうかは分からないが、気になる話を見付けたって事だった。


「役所にある昔話を調べたら、昔、鬼が出た時の言い伝えがあってな。岬の先にあった島に櫓を建てて鬼と戦ったって言う話だった。んな100年も昔の戦の櫓なんか俺も知らねぇが、アレがそうかもしれん。隠遁の話は無いが、鬼に攻められた櫓が沈んだって話だった。沈んだ訳じゃなく、隠遁で隠したとすりゃあ、半紙が合う。所詮、爺のホラって可能性もなくは無いがな」


 歩くと言うか、半ば走りながら幼女がそう捲し立ててきた。伝記だか口伝なんだろうが、その話は信用出来るんだろうか?仮に事実だとしても、アレが島って事になると、軍艦島みたいなもんだな。島全体を要塞化したんだろう、かなり小さな島だが。


 港へついた頃には俺はヘロヘロだった。与一も澄ました顔をしているが汗で分かるぞ?幼女は元気いっぱいだし、チッパイさんも元気そうだ。


「おい!船頭!!」


 幼女がそう叫ぶと1人の青年が顔を出した。


「はい!準備出来ております」


 すでに話は通っているらしい。まあ、領主なんだからそうだよな。しかし、ここにある船ってどう見てもヨットなんだよな。あんまり気にしても仕方がないとは思うけど。


「まさか、中世っぽい世界にヨットがあって不思議に思ったのか?」


 そう声をかけて来たのは、当然だが与一だった。


「これはこの地域の船という訳ではなく、もっと東でもそうだった。きっと俺たちより先に来た転移者が伝えたんだろうね。もしかしたら、ヨットに乗って来たのかもしれない。俺もその人物については話を聞いたことが無いから詳しくは知らないけど」


 まあ、そんな不確定な事を言われてしまった。そう言う事だときっと船頭や船乗りに聞いても明確な答えは返ってこないだろう。どのみち船の事はイマイチよく分からないので「そ~なんだ」と納得した方がよさそうだ。


「お前らもさっさと乗れ!」


 岸で与一と話していたらすでに幼女とチッパイさんは乗り組んでいた。俺たちもさっさと乗り組む。


 当然だが、外洋航行を考えない船だけあって船倉や船室がある訳ではない。船員たちが4人動き回る邪魔をしない様にひと固まりで座っているしかやる事が無い。


「おい、あの岬方向で合ってるか?」


 幼女に鬼が島の方角を聞かれたのでスコープで確認して、方角を伝える。それを船頭に伝えているようだが、まあ、いつも通り元気いっぱいだ。


 そう遠いわけではないのでどんどん近づいてくる。スコープで覗くとよく見える。確かに、砦と言われた方が納得する重厚さが垣間見られる。


「何じゃこりゃ、櫓というより砦じゃねぇか」


 スコープを覗いた幼女の感想も同じだった。


 感想が同じという事は、生活反応が感じられないという部分でも同じわけで、ここには果たして生き物、魔物が住んでいるんだろうか?

 少なくとも、今見えている部分には桟橋や港らしきものが見えておらず、隠遁が解けたからと言って上陸できそうには見えなかった。そもそも、鬱蒼とした森な訳で、ホイホイ分け入ろうとは思わないが。


 そして、船は境界に接したらしく、昔やった自動車ゲームではないが、壁走り状態で船が進んでいる。

 と言っても、櫓の見え方が変わったとスコープを覗いていたチッパイさんに言われて分かる程度の話ではあったのだが。もし、スコープが無ければ、境界に沿って壁走りしている事に気づきそうにないほど自然に帆走しているんだから不思議だ。


 ちなみにだが、ちょっと壁であると思わしいあたりへ手を伸ばしてみたが、弾かれたという感覚はない。だが、不思議と海へ落ちる事すらない。俺の行動に何を思ったか幼女や船乗りも同じことをやったが、結果は当然同じ。ロリ一が幼女を抱きかかえていること以外、何も不自然な点は無かった。


「入口らしいものが見えますよ」


 チッパイさんが幼女にそう話しかけ、スコープを手渡している。


「おお、水城の門みたいじゃねぇか」


 二人でそんな事を言っているが、俺には何も見えないので変な奴らとしか見えない。振りほどかれたロリ一は残念そうにしている。


「見て見ろ」


 幼女にスコープを渡されて覗いてみると、森が切れてぽっかり口が開いている。中に船溜まりがあるのだろう、門の向こうが明るく見えている。当然だが、船らしき姿は一艘も見えてはいないが。

 俺は与一にもスコープを覗かせ、意見を求めた。


「確かに何もいない。最近、何かが出入りした風でもない。ただ、強いて言えば境界の内側にも魚が跳ねている事が確認できるだけだな」


 魚が見えるのか?俺にはまるで見えなかったが。


 幼女の指示で船を湊へ向かわせると、不思議と言うか当然と言うか、櫓を一周するようなコースになっている様だ。


 ぐるっと一周してみたが、まるで生活反応がない。鬼や小鬼が居るなら何らかの動きがあるはずなんだがな。


「よし、今日は帰るぞ」


 幼女は遊び終えて満足したようにそう告げた。


 

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