21・鬼が島の魔法は凄かった
与一の過信じみた反応に疑問を持ったが、確か、こいつはアーチェリーをやってるんだったか。腕がどのようなレベルか知らんが、選手としてやっていたなら相当なものなはずだ、簡単に急所を射抜けるんだろう。それに、幼女は岩砕きの異名を持つ。岩に風穴空ける魔弓なんだろう。鬼すら貫通するのかもしれん。
そんな疑問と適当な結論に納得していると、与一が何かに驚いている。
俺もどうしたのかと島だか船だかがあるあたりを見ると、一隻の世っとじみた船が航行していた。
「アレはすごいな。外からの力を受け流すことが出来るのか」
俺から見るとただ、船が何もない海域を進んでいるようにしか見えない。ヨイチがそれを悟ったらしく、スコープを渡してくる。見ろって事なんだろう。
スコープを覗くとそれは確かに驚きの光景だった。
だってそうだろう。物体から少し離れた海域をまるで壁に沿う様に船が進んでいるんだぞ。
「その船はアレへまっすぐ進んでいたんだが、急に向きを変えた。まったく不自然じゃない動き方だから、それで覗いていないと不自然に見えなかったんじゃないかな。きっと船乗りたちもそこになにかがあるなんて認識してないんだろう。アレは本当にどこかから流れてきたモノなんだろうか?」
与一がそんな疑問を呈した。もちろん俺もだ。そして、同じ結論に達している。
「「鬼が島だな」」
あまり気分は良くないが、同時だった。
事態を共有しようと幼女を呼んでもらおうとしたのだが、すでに役所へ出かけた後だという。外見に似合わず、いや、外見通りに早起きらしい。そして、役所ってずいぶん勤勉なんだと感心した。
とりあえず、今、館にいる山から来たメンバーにはスコープを覗いてもらい、何がどうなっているかを見てもらったのだが、俺と与一の鬼が島論にはあまり賛同してもらえなかった。
「鬼がまだ島にいる可能性はあると思う。でも、それならなんで街へ来ないの?それに、生活しているなら少しはあの櫓から鬼が顔を出すでしょ」
と、チッパイさんが当然の事をおっしゃる。タカも似たような意見らしい。
「鬼って冬眠できたりするのかも!」
ハナがそんなボケた事を言って場を和ませたが、今は冬じゃないし。1騎起きて来たなら他の鬼だって冬眠から目覚めてることだろう。たまたま1騎だけ外へ出られたんだとしても、活動してる鬼が櫓周辺に見えないのだから冬眠説は可能性が低い。
結局、スコープの倍率の関係もあって館からの観察ではこれ以上分かる事は無く、何ら結論が出る事は無かった。もっと調べるならアレに近づくしかない。
みんなが揃ったところで朝食となったが、この館にはメイドか何かが居るらしく、自分たちで動くことなく食事が用意された。浜の魔弓師って凄い職なんだな。
「ん?あいつが浜の領主?」
与一にその話をしたら、あの幼女が浜の主だという話になった。
「あれ?聞いてなかったのか?アイリがただの漁村だったモノをここまで大きくしたらしい。昔はもっと西の方で貴族に仕えていたらしいんだけど、あまりの魔弓の腕で他の魔弓師に妬まれてたみたいでね。なんせ、大砲かって威力だから、仕えた貴族はそりゃあ力を持つわけだよ。すると、そこに続々魔弓師が集まるんだけど、争いにもなる訳でね」
俺は村と山の街しか知らんけど、どうやら外の世界は絶賛戦国乱世といった感じの様だ。この辺りは幼女の様な化け物魔弓師が居たから外敵が近寄らないだけらしい。山の街は結節点として栄えてるのが幸いして戦火に晒されてないんだろう。もしかしたら関の向こうのヴィールヒさんたちと何か関係があるのかもしれんが。
ちなみに、与一は5年ほど前にこちらに来たらしい。元々はもっと東の方に転移したんだそうだが、そこの貴族のもめごとの最中に出てしまい、訳も分からず貴族の軍勢を壊滅させてしまったんだとか。コイツ、俺どころじゃねぇだろ絶対。
「まあ、鬼なら一撃で半身飛んじゃうからね。マジ大砲って感じだよ」
余裕でそんな事を言う。チッパイさんの弓が普通に思えてしまうレベルでオカシイはこいつと幼女。
そんな与一の話にあ然としていたら、幼女がご帰還なさった。
「おい!暢気にしてんなお前ら。ヨイチ!それとえっと、フリフリ!あと、お前。ちょっと隠遁船を見に行くぞ、魔鏡忘れんな」
フリフリってなんだ?俺がそんな顔をしていると、
「あ、フリフリじゃなかった。フルフリ!」
好古だ、この幼女め!つか、名前を憶えられてなかったチッパイさんは指名されただけで嬉しそうだった。
何とも自分勝手に話を進める横で、ロリ一はニコニコしていた。そうだろうな。なんせ、幼女は短パンTシャツっぽい格好だもんな。ブカブカで微笑ましいが、ロリ一には別の意味がありそうだ。
それから少しして、俺はいつもの装備を、チッパイさんも弓をもって、与一の弓は昨日のと違ってなんだか派手だ。幼女の弓も和弓じゃない。何処かアニメっぽくないか?
「ああ、アイリの弓?アレはベアボウって言って、アーチェリーで使う弓の話をしたら自分で作ったんだ。和弓は幾分、気持ち程度の偏芯だけど、ベアボウだとホラ、持ち手がごっそり抉れて矢を番えると綺麗に忠臣に来るだろう?」
ちなみに、お前の派手な弓で説明されても、幼女の弓と違い過ぎてまるで分らんだろうと言いたかったが、納得してしまった。
「ちなみに、昨日持ってたボウだと君の鉄砲と威力はあまり変わらないと思う。コレなら大砲並みだよ」
そう付け加えてきたが、俺には違いなどさっぱり分からん。