20・見えたモノは鬼が島って事にしておこう
「うっせぇな」
館から幼女が顔を出してこちらに文句を言ってくる。
「ちょうどいい、これを見てくれ」
俺はこの辺りに詳しいであろう幼女に見てもらう事にした。
「あぁ?ヨイチもそんなおかしなモノを持ってたが、それがどうした。覗いて的を狙うもんだろ?そのくらい知ってる。一々自慢するんじゃねぇよ」
呆れたようにそう言って来るので、先ほどの事情を説明したらさらに呆れられた。
「はぁ?暗闇でも見えるだと?まあ、それは良い。ヨイチの変な弓やお前の魔砲もあるからそれもそうなんだろう。で、見えない島か船が見える?本気で言ってんのかそんな世迷言を。酒飲んでんじゃねぇだろうな」
呆れた様子で更にそう言いながら、暗視スコープを手に取ってくれた。
「おお~、これはすげぇな。ん?」
幼女もアレを見付けたらしい。それまでの暢気な表情がスッと緊張感のあるものにかわる。
「確かに、目では見えんモノが見えやがる。アレは櫓だな。この近辺の形じゃねぇ。色が分からねぇからハッキリしねぇが、櫓の周りを木で隠して島に似せてるように見えるな」
と、俺やタカより的確に分析している。なんとも流石というべきか。
ただ、肉眼で見えないというのがよく分からん。何かの魔法で隠してるとでもいうのだろうか?それにしては、暗視装置で見えるとか意味が分からんが。
「隠遁を知らねぇのか?この辺りの山の出身じゃ仕方がねぇな。魔弓や魔砲が人の力を越えた攻撃が出来る様に、人の技を越えた擬装術がある。それが隠遁だ。だが、少なくともこの辺にゃ居ねぇ筈だがな・・・・・・」
幼女はそう言って暗視スコープを俺に返してきた。
「そこに見えるって事はすぐに仕掛けて来るんじゃないのか?」
そんな俺の問いに幼女は首を振った。
「てめぇの魔鏡か何かが隠遁を破る道具だとしてだ、そいつが無けりゃあ俺たちは連中に気が付かねぇ。だがな、アレにも欠点があって、相手に姿が見えないだけじゃなく、自分達からも外が見えねぇんだ。あんな船に櫓を載せる変な連中が俺の事を知らねぇとも思えねぇ。術を解いたとたん、岩砕きの矢が飛んで来るなんて事態を警戒しない訳がねぇだろ?そのまま流されていくのを黙ってみてりゃあ良い」
何とも他人事な事を言う。それとも、そこまで自分の弓に自信があるという事なんだろうか。
結局、幼女が心配ないというモノだから、俺たちは館に上がって魚料理をご馳走になることにした。まともな料理なんて何日ぶりだっけな。
翌日、すでに外は明るくなっていたが物は試しでスコープを覗いてみた。昨夜幼女が言ったようにアレがどこかへ流れて行ったあとかもしれないと思ったからだ。
「まだ居やがるな」
結局、昨日見た時とほぼ同じ位置にいた。いくら何でも潮の流れはあるだろうから動きそうなもんだが動いた様子はない。
昨日は夜間で白黒だったが日が出ているのでカラーで見えている。なるほど、幼女が言ったように櫓に木や蔦をかけて擬装しているようにも見えるが、そもそも、草木が生えてるんじゃないかと見えなくもない。大きさもかなりあるとみて良いだろう。
「何やってるんだ?」
そう声をかけられて振り返ると与一が居た。
「昨日、コレで隠遁で隠れている船を見付けたんだ。何処へ動いたか探そうと思ったんだが、動いた様子が無い」
そう説明してスコープを与一に手渡す。
幼女と違って自然な手つきでスコープを覗いている。しかも、すでに聞いていたのだろう。驚く様子もない。
「櫓ねぇ。どちらかというと軍艦島みたいな感じじゃないのかな、アレは」
軍艦島?たしか、どっかの海底炭鉱があった島で、島全体に建物が乱立して外から軍艦みたいに見えることからそう呼ばれたとか言ってた気がするな。
俺がそんな事を思い出していると、与一は自分の見解を語り出した。
「アレは現役のモノではないと思うよ。どうして未だに隠遁が効果を上げているのかよく分からないけど、すでに放棄された島、あるいは船とみて良いと思うんだ。そう言う意味では、昨日言っていた『海からきた鬼』と合致するんじゃないか?」
なるほど、それなら分からなくはないな。どこかでアレを拾った鬼が隠遁が効いたままで乗っ取り、生活している可能性か。
「おい、だとしたら昨日、アイリが言った予測は外れじゃないのか?いつ鬼が来ても不思議じゃない」
俺はそう言うが、なぜかヨイチは未だ余裕だった。
「確かに、鬼がいつ来るかわからんね。だが、大丈夫だろう。鬼程度は俺やアイリなら簡単に吹き飛ばせる。文字通りに」
だから、こいつらの余裕はどこから来るんだ?ちっぱいさんも魔弓を使うが、鬼に打撃は与えられても、グレネードの様な威力は無かった。魔弓の威力をこいつらが過信してるんじゃないだろうか?確かに、チッパイさんの魔弓を急所に受ければ鬼も一撃ではあるんだが・・・・・・