17・やっぱり鬼退治は終了していた
出発してから河原を歩いている。石がゴロゴロした場所ではなく、歩きやすい砂地を歩いているが、ちょっと藪が濃い。
時折、物見役が周りを見に行くが、今日はこれといって何もないらしい。昼頃にはそれまで山間で狭かった河川敷が一気に広くなった。
「そろそろ山を抜けるから、浜も近いのか?」
俺は一緒に歩くハナに来てみるか、首を横に振った。
「まだ夕方くらいまでは歩かないと着かないよ。ずっと先に見えてる山、あの麓あたりに街があるから」
そう指さす方向を見ると、なるほど、山並みが見える。山というか半島か何かといった方が良いのかもしれないが地形が分からないので何とも言えない。
それにしても、河原ならこの辺りにも人が住んで田畑があっても良さそうなものだが完全な原野だ。
「川の周りに人が住んだりしないのか?」
そう聞いてみたが、そう言う事は無いらしい。
「今の時期は水が少ないけど、雨が多い季節にはこの辺りもよく水浸しになるらしいよ。だから、歩きやすいけど街道が通らずに、あっちの丘を回って行くんだよ。この辺りは道や集落を作っても毎年浚われちゃうから」
なるほど、俗にいう暴れ川って奴なんだろうな。今はそれほど水が流れている訳じゃないけど。
ならば鬼もどこか川から逸れてるんじゃないかと言いたくなるが、もしそうなら痕跡で分かるんだという。それもそうだ、あんなデカイ奴がうろついたら分かるのは当然だろう。
が、今のところ鬼が川を逸れた痕跡はない。一直線に川を下って行ったとみて良い様だ。
昼を過ぎて休憩となるが、相変わらず状況に変化はない。少し前に見える山が近づいた感じはするが、感じがするだけだ。さして変わりない風景が続いている。
「河原を人が歩いて来てるよ」
ハナがそう言い、コロたちも気が付いて周りへと伝えている。
「普通の『人』か?」
そう聞くと頷く。どうやら小鬼ではないらしい。
「ヨシフル、すまねぇが、どんなか覗いてみてくれ」
タカにそう言われてL96をハナが指す方角へと向ける。まだ遠くて人が居るとしか分からない。とりあえず装備は見えるが、確かに、小鬼と違いちゃんとした装備を持っている。
「弓を持ってる者が多いな。槍も少しいる」
俺がタカにそう報告した。
「浜の連中だろうな。魔弓師以外にもかなりの弓使いが居るらしいからな」
そう言って様子をうかがうそぶりをしている。
「あ、向こうも気が付いたみたいだ」
それまでとは違い、明らかにこちらを警戒するそぶりが見えたのでタカに報告した。
「連中も犬を連れてそうか?」
そう聞かれたが、そこまで詳しい事は分からない。が、幾人かが明確にこちらを警戒してる姿を見ると、それが犬なんだろうと思う。
「はっきり見えてはいないが、数人、こちらを正確に警戒してるのが居る。きっといるんじゃないのかな」
俺がそう言うと、タカはコロに遠吠えを要求した。
ワオ~ン
コロがそう声を出すと、しばらくして返事が返ってきた。
「間違いないな。浜の連中だ」
犬同士の遠吠えで何やら状況を把握したらしい。向こうも少し警戒を緩めている様だ。
それからはお互いに見える位置を選んで近づいていく。隠れても犬に発見されるので意味は無い。たぶん。
しばらくするとお互いの顔が分かるところまで近づいた。そして、そこで立ち止まる。
「山の村から来た。谷と山の街で鬼を2騎倒した。ここまでの途中で獣の群と小鬼の村、鬼にやられた村を各々ひとつ潰してきた」
まずはタカが相手にそう声を上げる。
「それはご苦労。浜の討伐隊だ。浜にきた鬼を2騎倒して残りの捜索に出てきた」
合計4騎は倒した。ヴィールヒさんが関より奥の鬼も倒しているというから、これでほぼ事件解決ではなかろうか?
こうして双方の素性を知った集団はようやく互いに声を掛け合うところまで寄って来る。
「おお、浜でもお目に掛かれないお犬様だねぇ」
一人の男がハナにそう声をかける。いつもなら自慢していそうなものなのに、何故だか俺の後ろへと逃げてきた。
「ん?自衛隊?」
男は俺を見てそう言ってきた。なぜ自衛隊なんてものを知ってるんだ?
「自衛隊じゃなく、ただのサバゲーマーだ」
俺がそう言うと、相手は納得している様だった。
「なるほど。自衛隊なら集団行動だから一人でくることは無いだろうからね。という事は、遊びに行く道中でここへ迷い込んだのかな?」
男はさも当然の様にそう聞いてくる。
「おっと、失礼。俺は那須与一。姓が那須というだけで、那須家とは関係が無いんだがな」
そう言った男の手には映画で見たような弓が握られていた。確かにこの弓は中世や近世に存在するものではない。
「あ、これか?アーチェリーで使うコンパウンドボウって奴だ」
それに対して俺も自己紹介した。
「秋山好古という。あなた同様、あの秋山家とは何の関係もない。これは玩具のガスガンだよ」
そう言って89式を相手に見せた。
「おい、とうとう男にまで手を出すのか?」
俺たちの話に割って入ったのは美幼女だった。
「アイリ、人聞きが悪いな。そんなわけないだろ。彼の後ろのお犬様に興味があるだけだ」
与一はそう言ってハナを指す。
「ハァ?人の犬に手を出そうとか、さらに質がワリィだろ」
随分口の悪い幼女である。
「おい、人の事ガキだと思ってないか?俺が浜の魔弓師だぞ」
そう言って幼女はふんぞり返る。確かに弓を持っている。
「え?岩を砕くあの魔弓師?」
ハナが幼女を覗き込んでそう言う。
「そうさ、俺が岩砕きのアイリだ。鬼だって俺の矢で一撃だった。このスケコマしもだけどな」
そう言って与一を見る幼女。そして、ハナをマジマジト見て
「ケッ、牛じゃあるまいに、デカイもんぶら下げやがって」
いやそうにそう言っている。
「まあまあ、アイリはアイリで俺は良いと思うぞ」
ロリ一がそう励ます姿にちょっと引いた。




