16・次は何が出るのだろう?
連日の事で気がめいりながらも、俺たちは黙々と埋葬を行い、集落の建物も火をかけていった。そうしないと獣の住処となって無用の危険を作り出すことになりかねない。
そんな作業を終える頃には日が西に傾き、今日はこの辺りで夜営となるようだった。
「ヨシフル、今日は私も一緒で良いね?」
ハナがそんな事を聞いて来た。断る理由もないし、不寝番もあるので了承した。
なぜかわざとらしくチッパイさんに笑みを見せる。
「べ、別に良いんじゃない?もともと三人で居たんだし」
なんだろう、非常にツンデレなセリフを吐くチッパイさん。
二人はいつもの掛け合いを行いながら夕飯を食べている。どうやら昨日と今日のあの惨劇で気がめいっているチッパイさんを気にかけてるんだな。ハナは。
「ヨシフル、アイにてを出さないんなら、私が代わりに相手しようか?あ、でも、アイが隣に居るのか」
わざとらしくハナがそんな事を言い、チッパイさんが何やらブツブツ言っている。
「気にするな。つか、あんなのを見た後だ。そんな気にもなれんよ」
「じゃあ、今日は三人で添い寝だね」
ハナは俺の言にそう言ってくる。それは気がまぎれるから拒みはしないが。
俺たちは食事が終わると日が沈むかどうかの頃には床に就く。俺たちが見張りをやるのは夜中からなので、早めに寝るんだよ。
夜中に起こされ、見張りにつく。
火をかけた集落の建物はまだ燻っているらしく、集落付近で赤く光るものがある。時々、パチパチと聴こえるから、まだ消える様子は無いんだろう。
それ以外にこれと言って音は聞こえない。風も弱く、集落から昇る煙も薄っすら視認できる。
「もう、周辺には猪や獣は居ないのかな」
俺が独り言のようにそうつぶやいた。
「死臭につられて寄ってきた猪たちは私たちが倒してるからね。捨てて来たから今頃、狼や獣があの猪を突いてるかもしれない。その分、この周辺からは獣が消えてると思う」
あたりを警戒しながら、ハナがそう言ってくる。
「でも、それだと村が危なくなったりするんじゃない?」
「そうでもないよ。狼と人は持ちつもたれつだから。狼は必要以上に獣を狩らない。人が狩りすぎると警告してくる。獣が増えすぎると縄張り内にも犬を呼んで人が狩り出来るようにもしてる。だから、人や犬も薪拾いや下草狩りで森の環境を作ってるんだよ。獣が食い荒らしすぎないように、新しい木が育ちやすいように」
俺は森の状態を見てなるほどと思った。
「でも、狼は人を襲うし、猟師を追い払ったりもするじゃない」
チッパイさんがそう反論する。
「それは街の人たちは狼の警告を聞かないからだよ。何処でも入っていくし、獣を摂りすぎるんだから」
それを聞いてチッパイさんは不服らしい。
「狼に興味を持たれるヨシフルは珍しい例だけど、私達犬は直接、狼と会話してるし、タカたち村の猟師もマーキングや遠吠えで狼の位置を把握してる。街の人たちはそれが出来てない。街に猟犬も居ないしね」
「それを言われると・・・・・・」
チッパイさんには思い当たる節があるらしい。俺にはさっぱりわからん。
「あ、もうすぐ夜明けだね」
ハナが話題を変えた。
徐々にあたりに変化が出てくる。徐々に暗闇がはれてモノクロな景色がその濃淡をはっきりさせていく。そして、徐々に景色に色が付いて行くんだ。その変化はいつ見ても不思議で仕方がない。
集落の火は未だ燻っているが、延焼の危険性は無い程度には白く灰になっている。
しばらくすると夜営地でも起き出す人々がちらほら現れてきた。静かだった世界に生活音が響き始める。
「ヨシフル、おつかれさん。ハナとアイもな」
タカがやって来た。
「今日は何もなければ、浜の街が見えるところまで行けるだろう。浜がどうなってるか分からねぇが、いけるところまで行くぞ」
それだけ言うと引き返していく。
「タカも二人の事が心配なんだよ」
ハナがそう言ってタカを見送っていた。
さて、浜はどうなってるんだろうね。事前情報だと、浜の街にも魔弓師は居るらしいから何とかなってるかもしれないという。だが、行ってみない事には分からない。