14・それは気のめいる事態の連続だった
タカの号令一下、槍や弓を持った集団がムラへと向かう。
俺も89式に持ち替え、それに続いていくことにした。
ある程度進むとこちらに気が付いたムラ人もとい小鬼が武器や棒をもってこちらへやってくる姿が見え出した。
ちょっと遠いが、89式を3バーストで撃ちこんでいく。流石、5.56mm弾。一発では止まらず、血を垂れ流しながら襲い掛かってくる姿には引いてしまう。
チッパイさんも射かけ出している。
その矢は小鬼を貫き、さらに後方の小鬼に刺さっているのが見える。矢が刺さったまま走る姿も恐ろしい。
「小鬼ってなにあれ・・・、嫌だこんなの!」
チッパイさんはそんなことを言いながら、半ばやけになっている様だ。俺もほぼ同じ気持ちだ。出来るだけ早く終わって欲しい。
ムラ人がどれ程居たのか知らないが、ワラワラ走ってくる小鬼の姿は異様だ。
ある程度の辺りを付けて3バーストで撃ちこんでいくが埒が明かない。
俺はM320を取り出して小鬼の群へと撃ち込んだ。
ドォン!
群衆の中で爆発して辺りを巻き込んでいるが、頭を負傷したもの以外、動きを止める気配が無い。足をやられてなお蠢く姿は恐怖しか湧いてこない。
「怯むんじゃねぇ!!俺たちがやらなきゃ死人が出るぞ!!」
タカがそう叫んで槍を持った一団を引き連れて小鬼に向かっていく。それを支援するように弓を持つ者が矢を射かけだす。
チッパイさんも必死に射かけている。
さらにモスカートを交換してもう一発撃ち込んだ。
「ホントに、何あれ!」
爆発に巻き込まれて腕がちぎれ飛び、頭にも傷を負った小鬼がまるで気にするそぶりもなく向かってくるのだから、そう言いたくもなるだろう。
俺はセミオートに切り替えて無心に一人ひとりを狙い撃ちにしていく。
カチャンカチャンカチャン
振動が肩に伝わり、銃が跳ねる。それでもとにかく、サイトに捕らえた「目標」へと引き金を引き続ける。
カ゚チャ
ボルトストップしてまだ引き金を引いてしまう。
気が付いて慌ててマガジンを差し替え、また引き金を引き続ける。
マガジンを撃ち尽くしたところでようやく一息つこうとしたが、周りで未だ蠢いている。
M&Pを抜いて、手足をもがれて蠢く小鬼に止めをさして行くのだが、もう、人殺しという感覚もマヒしてしまった。槍を持った猟師が同じように止めを刺しているが、完全に無表情だ。
「ムラへ入るぞ!」
半ば無機質なタカの声が響く。
俺は矢の補給を受けるチッパイさんと共にその場を離れて、マガジンに弾を装填していく。
「ホント、なにこれ。小鬼って何?」
チッパイさんがずっとそんな事を言っている。俺はそんなことは考えたくもないので無心に装填だけしている。相手をしてる余裕なんかまるでない。
「行こうか」
マガジンに装填を終えた俺はチッパイさんにそう声をかけ、チッパイさんが無言頷き、それに応える。
俺たちは矢を受け取りに戻った数人と共にムラへと入った。
すでに粗方の探索は終ったのか、タカたちは数グループにかたまっているのが見えた。
「タカ!もう終わりか?」
俺が声をかけると、指をさしてきた。まだ何かあるらしい。
俺たちのグループも周囲を警戒しながらタカのグループへと近づく。
「アレだ」
タカがそう言った方向を見ると、村の中でもひときわ大きな建物が見えた。そして、何かを守る様に武器や棒を構えた小鬼たちが見えている。
「アレは?」
そう聞いた俺に、久しぶりに表情が戻るタカ。その苦虫を潰したような顔のまま
「・・・・・・中は連中の餌だ」
という答えが返ってきた。餌?倉庫ではなく、屋敷にしか見えないが。
「連中が人を殺すのは、奴らがまず第一に食らいつくのが人だからさ」
・・・・・・という事は、あの中には洗脳されなかった人たちの・・・・・・
俺が嫌そうな顔でタカを見る。
「すまないが、その大筒で屋敷を壊してもらえないか?中に生きた人間なんか居やしねぇ」
タカはM320を見ながらそう言う。
俺も頷いて、M320を構えて引き金を引いた。
ドォン!
爆発音と共に屋敷に穴が開いた。それを見た小鬼たちは俺たちよりも餌が気になったんだろう。中を覗きこむ者が多くいる。
そして、まるで俺たちに興味を失ったように、開いた穴から次々と中へと向かう小鬼たち。
「火矢を射かけろ」
タカが言うと、油をしみこませた火矢が用意され、建物へと射かけられた。
火が回る前に小鬼が出てしまわないよう、外へ出る小鬼を弓や銃で倒していく。
建物に火が回っても叫ぶような声などは聞こえてこない。
小鬼というのは本当に不気味だ。
なにせ、全く吠えたり叫んだりしない。一言も発することなく襲って来るんだ。小鬼は人の姿をしているが、猪の方がまだ生き物っぽさがある。声も出さずに襲って来るって怖すぎないか?
それから、すべての建物に火をつけて回った。
放置して獣の住処になっては厄介だからだ。
中には見たくないモノを見てしまった家や異臭がする家もあった。大抵は洗脳できなかった子供や猫が殺されている姿だったのだが、見るに堪えないものだった。
襲ってきた小鬼の始末も行った。
猪と違い、放置すると獣が集まり、果ては味を占めて人里を襲うようになっては困るからだ。本当に辛い。なにせ、小鬼は遺体になってしまえば人や犬なんだ。戦いの興奮が冷めるていくごとに、どんどん気がめいっていく。
結局、その作業は夜までかかった。ムラは夜になっても燃え続けていたので、さらに気が滅入ることになってしまう。
「ちょっと!どこ行ってんの!隣に居なさい!!」
なぜか、その夜はチッパイさんが離れてくれなかった。