12・とうとう鬼退治に出発したんだが
結局、休息をとったというより作戦会議や遠征準備であっという間に二日が過ぎていった。
鬼が通ったルートをたどることになり、足場の悪い谷筋を下っていくことになった。
二日ほど下るとムラがあるというが、当然ながら、無事だとは思えない。
「猪が来る!」
そう叫んだのはコロだった。
一斉に迎撃準備を始める。俺も89式を構えて猪の出現を待った。
「ちょっと、何あの数!」
チッパイさんが叫ぶのも分かる。村を襲った規模はあるだろう大群だった。
こんな時のためにわざわざ重いバイボットを持っているんだ。89式に急いでバイボットを付けて伏せ撃ちの姿勢をとる。
これは事前に相談していた。
まず、俺と魔弓師のチッパイさんが遠距離で敵を減らしてから、他の猟師たちが接近戦に入ることになっている。
俺はセレクターを3バーストにして辺りへ弾をばらまく。無駄撃ちを出来るだけ避けるためにフルオートは使わない。
チッパイさんも普通の弓では届かなそうな距離から矢を放ちだす。ちゃんと飛んで行って猪を串刺しにしてるんだからすごい威力だ。
「よそ見しない!」
チラッとこっちを睨んでそう言うチッパイさん。うん、無駄な障害物が無いから弓の扱いがし易そうで何より。
俺が微笑み返すとさらに睨まれてしまった。
もちろんだが、チッパイさんに見惚れている暇はない。俺もマガジンを並べて全弾撃ち尽くす勢いで射撃を続ける。
こういう時、実銃でないのは助かるね、なんせ、まるで銃身が熱くならないのが良い。しかし、威力は実銃と何ら変わりがない。
「残弾無し!」
とうとう撃ち尽くしてしまった。チッパイさんも矢の大半を消費している。猪も半数以上削れたようだ。
「あとは任せろ!」
弓を構えたタカが俺たちの前に出る。槍を持った連中がその前で槍を構えて猪を待ち受けるようだ。
「はい、アイ。矢だよ」
ハナが背負っている籠を下ろしてチッパイさんに矢を渡している。ハナをはじめある程度の人数が何らかの荷物を背負い荷役となっている。
俺はいそいそと89式のマガジンに弾を装填することに集中している。いざという時のためにM&Pもホルスターに入れているが、気休めにしかならんだろうな。
「横の森から来る!」
ハナがそう叫んで杖代わりにしている槍を構えた。荷役の人たちもそれに倣い、チッパイさんは矢を番えている。俺は89式は弾は装填できたが、マガジンを転がしたままでは使えないので、まずは手持ちのM&Pで応戦することにした。
カッカッカッ
M&Pを猪に撃ち込むが、距離があるのでなかなか命中しない。当たってもさすが拳銃弾。一発では倒れてくれない奴もいる。
「チッ、ハンドガンじゃこんなもんか」
俺はそうは吐き捨ててM320を取り出す。ウジャウジャやってくる後ろの方をめがけてぶちかましてやった。
ドォン!
鬼を撃った時同様、盛大な爆発が起きる。装填されてんのはBB弾のはずなんだがな。
バレルをスライドさせてモスカートをリロードし、さらにもう一発ぶちかましてやった。
ドォン!
多少は猪を倒せてるようだが、数が多い。仕方なしに89式を構えてセミオートで一体ずつ体に弾を叩きこんでいく。流石に3バーストやフルオートでは弾がもたない。こんな場面では実銃準拠が恨めしいな。
周りがうるさいのでほとんど89式の音はかき消されているが、反動だけは89式が動いている事を伝えてくれる。つか、バイボット付けたままだから重いんだよ!
辺りに散らかしたマガジンを拾いながら撃ち続け、何とか弾切れより先に猪を倒しきることが出来た。どうやら猿は居なかったらしい。
「猿は無かったらしいな」
そういうと、チッパイさんが変な顔をした。
「ハァ?居たじゃない。2匹も木に縫い付けてやったけど?」
そんなことをおっしゃる。
「猿に頼らずに自分で襲ってみたら?」
見下したような目で俺を見て来るのだが・・・・・・
まあ、そうしているうちに河原に居た猪も一掃できたらしい。タカたちも戻ってきた。
「なんとかなったな」
数人けがをしたようだが、かすり傷程度らしく、持ってきた消毒用の酒をかけている。アレもお婆の旦那の知識らしい。度数がどんなものか分からないが、効果はあるんだろうな。
そうこうしているうちに全員が揃った。
「これだけ多いと埋めるにも一苦労だが、始末は狼に任せておくか。帰りにまだあったら何とかしよう」
結局、先を急ぐこともあって処理はしないことにしたらしい。狼もこの数は食わないと思うんだがな。