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1・それは久しぶりのサバゲの帰り

 木々の中を下草の音を極力たてないように歩く。

幾人か人影が見えるがこちらに気付いた様子はない。

そっと窪地に身を潜めて射程に入るのを待つ。

「こっちからなら手薄みたいだ」


 敵の声が聞こえた。そうそう、君らはまだ味方に見つかって居ないからね。今回の配置ならここは手薄だよ。

相手が窪地を覗きこめる位置まで近付いた。

「居ないな、後はそこの茂みだけだ」


 彼らには光の加減で窪地がよく見えないらしい。

構えた銃の引き金を引く。

カチャン、カチャン、カチャンとガスガンならではの金属系の作動音が鳴り響く。



「「ヒット!」」

は~い、二丁上り。

声からするとまだ居るはずだ。


「茂み手前の塹壕だな」


 良かった。敵はこちらの位置を間違えてくれている。

パラパラパラパラパラパラ

電動ガンの音が響いて窪地より左寄りに着弾している。


 その隙に敵の一人が塹壕に駆け込むのが見えたので、狙って撃つ。

カチャン、カチャン


「ヒット!」


 塹壕に駆け込んだ敵が叫んでその場を離れていく。


「本当に塹壕か?」


 それを見ていた敵の声が疑問系にかわる。


「そもそもガスだから、あの三人の誰かだ、ヤバイなぁ~」


 今日、ガスガンを持ち込んでるのは俺以外は手練ればかりだ。まあ、サバゲでガスガン使う奴自体、相当に自信がある奴だろうがな。そのせいか敵は戦意がかなり低下しているようだ。よし、いけそうだ。


「おい、まだ抜けないのか」


 新たに敵が増えた。手練れのガルフだ。こいつは大変だ。


「相手がガスなんだ」


ガルフの姿が微妙に見えるが当たるかどうか怪しい位置だ。

分からない程度に窪地から身を乗り出してガルフを撃つ。カチャン、カチャン。流石に命中しなかったようだ。隠れ方も上手い。


「その音は89式!タイガーか」


 やっぱりバレた。単にガスというだけではなく、メーカーや機種の違いを聞き分けやがった。今日、89を持ち込んでるのは俺一人だから特定されるのは当然だ。

 パラパラと塹壕から窪地にかけて面制圧かけてきやがる。そう言えば、ガルフの武器はLMGだったか、メンドクセェ~


 とは言え、声は出せない。位置がバレたら終りだ。


「タイガー、出てこい」


 出ていけるか!だいたい、連中は知らないが、ここが抜かれたらフラッグまで一人も居ないんだよ。


パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ

 

 数にものを言わせた攻撃でマッタク動けないが、射線は確保できている。


 支援されて突っ込んできた敵を撃つ。

 カチャン、カチャン。


「ヒット!」


「窪地か?いや、音は茂みだ、そこか!」


 ガルフがちょうど頭上の茂みを撃ちまくる。


「逃げたか」


「茂みのトーチカが怪しい、気を付けて囲むぞ」


 ガルフが大声で指示を出す。

 敵に筒抜けだが、少数に対してはこれが案外効果的だ。焦って敵の捕捉に身を乗り出したら負け。奴の狙いはそこだろう。



「終了~」


俺は窪地から立ち上がる。


「そこかよ!」


 ガルフから声が上がる。


「秋山さん、それゃないわ~」


 ガルフこと、萱場が呆れている。


「あと少し前進してくれたら一網打尽だったんだが」


 俺は笑い返してやった。誇張ではなく、それも可能だったが、成功したかどうかは紙一重だろうがな。


 サバイバルゲーム。一時はかなり流行ったが変な奴らが違法改造して事件起こしたり、ドラマやマンガで悪役で扱われたりして印象が悪くなっている。呆れたことに、遊戯銃規制が入る前にはテレビ局が威力増強した「カスタムガン」をまるで市販品かのようなナレーションで空き缶撃ち抜く映像流した事もある。


 その様な影響だけではないだろうが、今ややっているのは知った連中ばかり。


「今日は楽しかったよ。久しぶりだったが、良いね」


 片付けしながら萱場とはなす。萱場はこのチームのリーダーで、俺は数年ぶりにサバゲに参加していた。


「久しぶりであんなことやるのは秋山さんくらいでしょ。仕事が暇なときには参加してくださいね」


「一段落ついたから、ガスメインで参加するよ。電動で虐殺は萱場の十八番だから」


 笑いながら萱場を見る。


「虐殺って・・、まあ、俺みたいにずっとやってる人が少ないからかなぁ~」


 ちょっとしょげているらしいが仕方ない。


「今時イベント行くようなレベルは一握りだからな。俺も無理だ。しばらくやり直しだな」


 そう言って慰めておく。


 流行った頃からやっていてメーカー系イベントや全国規模のゲームの経験がある奴なんて少ない。今でも味方からすら姿を消すゲーマーや長距離射撃がヤバイゲーマーはたまに居るらしいが、一時期みたいに変人集団となると見なくなったらしい。


 片付けを終えて今日集まったメンバーに挨拶して回った。

いくらか知らない顔もあるが、大抵は判るメンツばかりだった。


 これが都合三度目のサバゲだ。


 初めは学生時代に2年ほどやった。引っ張っていた先輩の卒業やチーム内で公式戦参加組と兎に角楽しみたい組との確執から空中分解した。


 二度目は久しぶりにエアーガンを買った5年前のことだった。主に屋内で行うインドア戦メインで遊んでいたが、ここ一年は仕事が忙しくて離れていた。


 そして、久しぶりに来たのが今日。


 野外でのゲームなのに持って居るのはインドア時代に電動ガンからガラッと変わってガスガンをメインにしている。


 というのも、今回サバゲをやってみようと思ったのが、満を期して発売された89式小銃のガスガンを買ったからだ。

 前々から電動ガンとして販売はされており、それが自衛隊にも採用されているのは話題にもなっていたが、これまで手を出してはいなかった。どちらかと言うと、インドアで使い勝手がよいサブマシンガンやハンドガンの方に興味があったからだ。


 数年前にM4のガスガンがようやく発売されると知って、その近接戦モデルを買おうともしたんだが、その頃、ちょうど仕事が忙しくなってサバゲからも足が遠のいてしまい、結局買わず仕舞いになっていたのだが、今回、89式が出るというので思い切って買ってみたわけだ。


 何を思ったか、そのついでにグレネードランチャーのM320なんてシロモノまで買っている。89式には最近の小銃の様なレールシステムが無く、銃に取り付けるわけにもいかない。まあ、話しではレールシステムのハンドガードを出したサードパーティがあるらしいが、そこまで思い切りはない。


 一網打尽の理由も、2丁持ちでM320も持ち込んでいたためだ。20m程度ならば、アレで18発ばらまけるから、その網にかかれば・・・・・・


 持っていたものを片付け、車の後ろにお飾りとなっているL96も片付ける。正直、俺はスナイパーに向いていないので、せっかくインドア時代に奮発して憧れのマグナムモデルのパーツを突っ込んだこれの有効活用が出来ていない。遊戯銃では今や威力規制があるので、どうやっても射程はどれも横並びにしかできない。学生時分にゃ威力上げたエアガンで草むら突き抜けて飛んで来るとかトンデモナイ状態すら普通だったのにな。

 射程がすべて横並びだからスナイパーはよほどの擬装や射撃の腕前が良くないと務まらない。ただ待っているだけでなく、動き回ることも要求される。俺には相手を出し抜いて見つからずに1発必中を狙う様な腕は持ち合わせていない。



「じゃあ、お疲れ様」


 片付けを終え、今日のメンバーに挨拶した俺は裏道を抜けて帰ることにした。こちらが近道になるのをナビで見つけたんだ。

 軽四が通れる程度の狭い山道。新規に設けた林道ではなく、昔の山道を無理矢理広げたんだろう。一応、轍はあるが頻繁に車が通るわけではないらしい。

入ってから後悔した。入り口はさほどでもなかったんだが、どんどん轍は薄くなり、道の気配が消えていく。あ、前には洗い越しが見える。


 洗い越しは知ってるだろうか?沢に橋をかけたり土管を埋めたりせずにそのまま渡らせる道の事だ。こんな整備されていない山道だと・・・

「ジムニーで良かった。こいつじゃなきゃ通れない」


 そう一人ごちる程に酷い。


 削られた道跡へと車を進めると、なぜかそこには路面が存在しなかった。いや、今あったよな?




 暗闇に落ちたような感覚があったが、気が付くと辺りは山の中。洗い越しというか、小さな沢と、そこには獣道の様な筋が見えるだけだった。ん?


 ジムニーが無い。手には89式、椅子機能付きの便利なリュックを背負って・・・あー、なぜかゲーム中よろしくマガシンカポーチまで腰回りに付けまくってるよ。

 ガスガンなのに、ゲーム制限枠に近い弾数持ち込むためにマガシンカポーチにフル装備で12マガジン、タンブポーチにワンマガジン、で、銃にワンマガジンの14マガジン、490発。銃を購入して付属してくるのは1マガジン、あとの13個は別で買った。そのお値段はもう一丁買えるほどかかりやがってんだよ!


 まあ、それは良い。つか、今ゲーム中だっけ?無駄にリュックが重いが何故かは分からない。そもそも、ゲームで背嚢背負う何てやらない。ニーパットやゴーグルもしてるし、何かオカシイ。


 確か、ゲームが終わって近道しようと怪しい山道に進入して洗い越しで闇に墜ちた気がするんだが・・・


カサカサ・・・


 全く隠れる気がない動きで近付く人影が二つ、ゲーム中だとしたら、倒しておかないとな。


 俺は人影に銃を向ける。


 茂みから顔をだしたのは見たこともないマスクを被った二人組だった。木の陰に隠れたからここなら撃たれても平気だ。


 あれは着ぐるみか?豚っぽいマスクに相撲とりみたいな巨体を揺らしている。持ち物はこん棒?

意味が分からない。が、どうやら敵で間違いないらしい。こちらを確認して威嚇している。


 えっと、俺はいつの間にコスプレイベントに参加したんだ?しかも、仲間はドコ?

周りには前の二人と俺だけ。サバゲならばそこいらから声や景気よくバラまく電動の音がしているはずなんだが・・・


 兎に角、眼前の敵だな。威嚇したあとこちらに歩き出した。いや、走るみたいだな。

相手に狙いをつけて撃つ。ガスガンは連射するとガスの消費が激しいからセミオートで指切り、つまり、1発づつ引き金を引く。


 カチャン、カチャン、カチャン


二人に叩き込んでみた・・・・・




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