昔話
過ちは繰り返される
あれから数千年、魔王が勇者に倒され世界に平穏が満ちた世界
もうこの世界に勇者が現れる事、そしてモンスターが現れる事はない、そんな世界に語り継がれてきた物語。
きっとそれが再び彼を復活させる理由になるだろう
昔々そのまた昔のお話、魔王は言いました
「世界の半分をくれてやろう」
その時勇者が選んだのは世界の半分では無く、明るい仲間達の笑顔でした
「世界なんて要らない、俺が望むのは皆の笑顔だけだ‼」
勇者は仲間の為、家族の為、みんなの為に命を賭してまで世界を救いました
結果は引き分け、魔王の命と引き換えに勇者は自らの命を差し出したのです。
その後、皆は喜び、魔王に恐れながら生きる日々に終わりを告げたのです
ですが仲間や家族はそれを嘆きました。もしかしたら自分達がもっと強かったら、そう何度も何度も思いました。
ですが亡くなった人は戻ってはこない。それが現実でした
語り継がれる物語
それには教訓が、歴史が刻まれている
「ママ、このあとどうなったの?」
幼く、まだ世界を知らぬ子が親に尋ねる
「きっと彼等は勇者の死に疑問を抱かなかった、人々を恨んでいるでしょうね」
ちょこん?と頭を傾ける、まだ幼子はこの意味が理解出来ない、母親はそれを見て微笑みながら言い直した
「こわ〜い魔王が復活するのよ〜」
怪談をする時の用に声を低くしてゆっくり、発音する
そうすると幼子は怯えながらも勇ましく、こう言った
「こんどはぼくが、「まおう」をたおすよ!!」
あれから15年、夢の様な日々だった。町はお穏やかで、人々は笑い、慈愛に満ちた良い世界だった
それが今はどうだろうか、5年前、魔王が復活し、再びモンスターで溢れかえって世界は慈愛ではなく、嫌悪な世界となってしまった
「どうした、勇者様」
茶化すように槍使いが話し掛けてくる
「小さい頃を思い出してただけさ」
その言葉に魔法使いや武闘家達も食いつく
「勇者の小さい頃ってどんな?やっぱり魔王倒す‼とか言ってたの?」
魔法使いが面白半分で聞いてくる
「あの頃は実際自分が勇者になるとは……」
「いってたんだ?!」
槍使いがそれに横槍を入れてくる、槍使いだけに……
「こんな奴が勇者になるとはな」
それに武闘家が乗ってかかる
「初めてあった時は何もない所で転んだりしてたのにな」
「それは今もだよね〜勇者??」
分かっていることをニヤついた顔で聞いてくる
「お前らだって魔法で自爆したり、壁殴って腕骨折したりしてただろ!」
いつものように勇者御一行は傷の抉りあいを始める
「こんな俺達が遂に魔王討伐か〜」
なにか遠い物を見ていた筈がいずれ目の前にある事を改めて認識する
「昔話みたいに命と引き換えなんざ、許さねぇからな」
槍使いが真剣に勇者に言い咎める
「そんな馬鹿な真似はしないよ、母さんにあの後の結末を聞いたからな」
仲間達に母の言っていた結末を話す
「本当にそうだったらどうする?」
魔法使いが口にする
「今度は俺が魔王を倒す!それだけだ‼」
あの時とは違う、勇敢に勇ましく答えた
「それでこそ勇者だね」
勇者は右手に身につけた腕輪をかざしてこう言った
「もしもの時は母さんの腕輪が助けてくれる」
それから暫くして、仲間達と一緒に眠りについた
その日夢を見た、母さんとの思い出だ
「この腕輪はね、貴方のお父さんが身につけていた物よ、母さんの大切なお守り預かっててくれる?」
まだ小さい頃、母さんが家から出ていく前に預かったお守り、母さんが生きていると信じて身につけていた物
この旅で母さんは見つからなかったけど、魔王を倒したらきっと母さんは僕を見つけてくれる
そう信じて頑張ってきた、ついにこの旅が報われる日が来るのだろう
「父さんを探してくる」
その言葉を最後に母さんは居なくなった
朝起きてみると、目から涙がこぼれ落ちていた
母さんとの思い出は少ない、だけど悲しくはない
そう思い自分を保ち続けて居たものの心は正直だった。
「どうしたの?」
まだみんな寝静まって居る中、魔法使いが心配してくれる
「やっぱり俺……寂しかったらしい」
初めてだった、どんなに負けても、心だけは負けない自信があった、そんな俺が魔王との戦いを控えた朝、初めて仲間に弱い自分を見せた
「勇者も人なんだね、安心したよ」
それを魔法使いは誤魔化すのでは無く、真っ直ぐ受け止め、茶化すように言った
「こんな時も化物扱いかよ」
悪戯をする子供の様な笑顔で言った
「慰めたつもりなのに!」
少し不器用な魔法使いに勇者は思わずやられたなと感じる
「準備はいいな?」
勇者が確認すると仲間達は無言のままだ
「行くぞ」
その時の勇者に言葉は必要なかった、言葉なんか無くても仲間達の心の声が伝わってくる、そう感じたからだ
「世界の半分をくれてやろう」
初めて勇者として認めてもらった時から決めていた
初めてこの質問を聞いたときは昔話と同じ答えだった。でもこの旅で仲間や沢山の人々と触れ合って自分で導き出した
「そんな物お前にくれてやる‼」
世界なんてどうでもいい、ただ俺はみんなと笑って過ごしていたかった。
それだけの為にここまで来た。世界の王なんて魔王だろうが他の奴だろうが、俺はこの旅で得られたものがある。
それだけで充分幸せと言える
その後の事はあまり覚えていない、仲間達と必死に抗い続けた、その末に彼等は魔王を討伐とは言えなかったが、追い詰めることが出来た
本当だったら物語はまだ続くのかも知れない、でも魔王討伐譚はこれにて終わり。
これから始まるのは勇者ではない、国王と成った主人公が世界を作り替え、再び魔王の配下となった【世界の半分】を国王として、沢山の仲間達と救済する物語だ
「世界の半分をくれてやろう」
正直そんな物よりお金欲しいですよね〜