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異世界転移に「幸せ」という文字は無かった。  作者: かきp
孤独な少年は世界を見ずに
2/8

少年の孤高の過去

今回は若干説明口調です。気軽に読んでください!

彼、ミキハラ カイは高校三年生にしてひきこもりだった。

食事は親が部屋に入れてくれていたし、部屋の中には高スペックのパソコンが二台あり、何も物申すことの無い「完璧」と言っていいほどの生活だった。


ただ、彼には一つ省きたいと思う事があった。…それは毎日風呂に入った後にやって来る恒例行事、「説教」だ。その説教の度、母は部屋に入り、念仏のような感情任せの言葉を言い、少し経つと気が済んだみたいに部屋から出ていく。


毎日毎日「学校に行きなさい」だの「恥じない生き方をしなさい」だのと聞いていることで、今では少年はそれを週間化し、スケジュールにも刻むようになっていた。


ーーそして、無事、今日も予定通りに母は念仏を唱え始めるのであった。


「あなたはその生き方のままで良いと思ってるの?…そろそろ学校に行ったらどう?きっとみんな待っててくれるわよ!それに将来就職する際にも勉強って必要よ。今のうちに…」


その円周率のように長い話を無言で聞く。これが定石。ここで下手に相打ちを入れたりすると、しっかり聞いてくれていると思われ、うちの母の場合は話がエスカレートしていく。


…しかし今日の母は少し違かった。


「あなたはどう思う?」や「考えを聞かせて」など無駄に質問じみた言葉を、ちょくちょく話の中に入れてくるのだ。別にそれも無視していればいいと思ったが…今回ばかりはそうは行かなかった。


質問の後に空けられる長い間がある。これはきっと、答えを要求している、ということなのだろう。母が今日、何をして、何を聞いたのかは知らないが、確実に話の仕方が変わっているということに違いはなかった。


「ねえカイ。どう思う?」


説教が始まりおよそ30分がたった。いつもはもっと早く終わっていたが、今日はそれ以上経った今でも終わる気配がない。母は話をしなくなり、質問をするだけである。…きっとこのまま何も答えなければ、この説教はいつまでも続くだろう。少年はそう思い、意を決して母に言った。


「君の気持ちは分かるけどさ…俺は学校に行かないってもう決めてるんだ。」


母への態度とは思えない態度だったが、それが逆に効いたのか、母は仕方ないというように首を振って部屋から出ていく。それを見送る少年はまるで勝ち誇った顔をしていた。


その後、少年は扉が閉まるのを確認すると、自分の勉強机の元へと向かった。勉強机と言っても、勉強のために使ったのは中1の時だけである。中二の新学期にが始まった時に、学校で流行ったインフルエンザがきっかけでそれ以来休むようになっていった。


ーー彼は不幸だった。そして不幸の中から自分なりの幸せを見つけた。


というのも、彼は中二の新学期にインフルにかかり、五日間の欠席を約束された。その期間の間、看病をし続けた母は、休み始めて三日目の夜に発熱し、インフルにかかる。


すると、彼には母のいない時間が生まれた。


ーー彼は考えた。


何しろ今まで休みという休みが無く、あるのは休日の夜中だけだった。朝から昼間までは無理やり行かされていたスイミングやピアノなどに使っていたので休むことは出来なかった。


だが、今回は違う。「登校拒否」という立派な理由の上で、正当な手段で得られた休みだ。ーー彼はそう自分に言い聞かせ、とりあえず机の上にあった『勉強用』のノートパソコンを開いた。


今まで、辞書アプリとサファリ検索しかした事の無かった彼には、パソコンが一つの世界のように広く思え、色々な機能を試すうちに時間はすぐにたっていた。


これが、ひきこもりの始まりである。


ここからは一直線。インフルで自宅に隔離されている間にパソコンを知り尽くした彼は、パソコンから離れることが出来なくなり、そのためなら学校を休むまでするようになった。


母は必死に学校に行かせようとしたが、手遅れだった。もはや彼の世界はコンピュータの中。現実には耳も向けない。


それがきっかけでこの5年、彼は自宅警備員、いや自分の部屋警備員になってしまったのである。


「めでたしめでたし!」


頭の中での回想に「いや全然めでたくねーよ!」と適当なツッコミを入れ、パソコンに向かって文字をうつ。5年間で鍛え上げられたその手は、ピアニストの超絶技巧をも簡単に成し遂げてしまうような速さで動いていた。


その後長い時間がたち、

「はあー、終わったー!」

という声とともに彼は、椅子から飛び降り、横にあったベッドに寝っ転がる。


彼は小説を読むことにはまっていて、今日は異世界ものの小説を読んでいた。異世界ものというのはその名の通り、主人公が異世界に行ってしまう話である。色々なシナリオで書け、気楽に読めるため、書く方にも読む方にも人気のあるジャンルだ。


書く方としては、自分の創造性が問われるものであり、自分の思う情報を「異世界」という本当には実在しない世界に詰め込む、言わば「プロフィール」である。


なので、そのプロフィールを見るのには多少の長い時間がかかり、結果、今は朝の3時。もう、起きる時間に近いくらいだ。


ーー今日はもう寝よう。


そう自分から思えるようになったのも最近のことだ。


ーー成長してるんだな


そんなことを思いながら、少年は目を瞑った。


ーー自分勝手な少年は明日のことを知る余地もなかった。











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