表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブラザー

作者: keisei1

兄の聴く音楽が嫌い

兄の好きなアイドルが嫌い

兄の吸う煙草の煙が嫌い

僕は兄とケンカばかりして 競い合ってばかりいた


兄のルーズさが嫌い

兄のお金のだらしなさが嫌い

兄の子供っぽさが嫌い

僕は兄を責めてばかりいて 決して許すことはなかった


僕と兄のいさかいを見守る 父の髪はまだ黒く 側にはまだ幼いビーグルがいた


僕は21の時上京した

高校を卒業したあと バイトで貯めた金だけを手にして

仕事を探すのは無簡単だった

エクセル ワード使えます 事務の仕事の経験ありで 即決だったからだ


東京は大きくて 小さい人をより小さい人にする場所だ

大きい人は より輝きが増す一面があるかもれない

浮浪者も当然いれば 為替市場にどっぷり浸かってる人もいる


僕は上京後 しばらくして恋人が出来た

地味でメガネが良く似合う女の子だ

僕が彼女がコンタクトにするのを止めたくらいだ

彼女は可愛らしい 僕の日常に彩りをくれた


僕は彼女が好きだったが 一二年もすればすれ違いが起きる

彼女は僕の几帳面さが嫌いらしい

彼女は僕の律儀さが嫌いらしい

彼女は僕の丁寧さが嫌いらしい

つまりは彼女にとって 僕は退屈でつまらない男


僕は彼女と別れた

付き合い始めてから 2年ちょっと過ぎた頃だ

彼女は別れる頃にはコンタクトに変えていた

恋人と別れたからといって 僕の価値が変わるわけじゃない

僕の軸が変わるわけじゃない 僕の芯が折れるわけじゃない


だがそう強がってはみせても


心に開いた 喪失感の穴は



大きい



僕は東京スカイツリーに昇る

最上階から見た東京の景色は 意外に空疎で虚しく見えた

ビルばかりが立ち並ぶ景色 なぜか冷たく寒々しい

僕は田んぼの見える実家近くの風景が 妙に懐かしく感じる



僕は兄の聴く音楽が懐かしい

僕は兄の好きなアイドルが懐かしい

僕は兄の吸う煙草の煙が懐かしい

二人のケンカは多かったけれど 決して憎み合ってたわけじゃない


僕は兄のルーズさが懐かしい

僕は兄のお金のだらしなさが懐かしい

僕は兄の子供っぽさが懐かしい それどころか愛しいくらいだ

二人はもういがみ合う必要なんてない 許しあう時だ


僕は故郷行きの列車に飛び乗った

別に誰に勧められたのでも 誰かから 何かから逃げたわけでもない

衝動 ただこの一言に尽きる 僕は列車に飛び乗った

手にしたのは東京スカイツリーの菓子土産 せんべいだけ


あの田んぼをのぞめる実家の縁側で

兄と久しぶりにバカ話でもしようか

せんべいでもバリバリ頬張りながら

その時お互い無為にいがみ合ってた理由も 誤解も繙けるだろう


兄と僕の和解を見守る 父には白髪が目立ち始め ビーグルは老犬になっていた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ