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マッチ売りの少女がヘビースモーカーだったら

作者:雪虫
「マッチいりませんかー、マッチいりませんかー」
ちっ、今日も全然売れないじゃん。こんなんじゃ、また親父に怒られるよー。
あー、こんだけ雪降って寒いとタバコ吸いたくなるわー。
あと一本ポケットに残ってたはず…
「フー」とタバコを吹かすマッチ売りの少女。
すると、マッチ売りの少女がタバコを吸っていた喫煙所に中年の男が近づいてきた。
「今日も寒いねー。今日も相変わらず働いてるの?」
「そうなんすよ。おじさん、今日もタバコ一本分けてもらえないっすか?」
「しょうがないなー。1本だけだよ」
おじさんは吸おうとして箱から取り出したタバコをマッチ売りのの少女に渡す。
「あざっす。後マッチ1箱いかがっすか?」
マッチ売りの少女はポケットからおもむろにマッチ箱を出す。
「これまたしょうがないなー。1箱だけね」
おじさんは頭をポリポリとかきながら、財布から小銭を取り出してマッチ売りの少女に渡した。
「あざっす。おじさん、いつも助かります」
マッチ売りの少女はタバコをくわえながら軽く会釈をした。
「女の子なんだから、そのしゃべり方は直した方がいいよ」
「無理っすね。昔からこのしゃべり方なんで今さら直せないっすよ」
あっけらかんとした顔でマッチ売りの少女は応えた。
「そうかい。あんまり説教臭くなっちゃうから、これ以上は言わないよ」
「ういっす」
マッチ売りの少女はタバコを吹かすと、大きな煙の輪ができた。煙の輪の間に一番星がちょうど見えた。私もあんなに輝けたらいいのになと色々と空想に耽る。暖炉がある温かい部屋の机の上には豪華な食事が並んでいる。焼き上がったターキーや色とりどりのおかずとホールのいちごショートケーキなど。今まで見たことのないご馳走によだれが垂れそうになる。新しい白いドレスを汚さないようにと、コーンポタージュスープをスプーンでゆっくりと口に運ぶ。
キーッと車のブレーキ音を聞き、マッチ売りの少女はハッと空想から目を覚ました。すると、喫煙所の前に停まっている1台の黒塗りの車から、スーツの上にチェスターコートを羽織った年配の男が出てきて、マッチ売りの少女に話しかけてきた。
「突然すいません。私ちょっとこういう者でして…」
年配の男から渡された名刺を見て、マッチ売りの少女は驚いた。
「ライタープロダクションの社長!?今売れっ子のあの子役もいる有名な事務所ですよね!私に何の用ですか?」
「へへ。ちょっとあなたのタバコを吸っている横顔を見たら、今話がきているドラマのヒロインの役にぴったりだと思ってね。良かったら、今度うちの事務所に話だけでも聞きにきてくれない」
そう言いながら顎に手をやった社長の指には宝石がちりばめられた指輪をいくつも着けている。
「ええっ!マジっすか?今やってる仕事、早いところ辞めたいと思ってたんですよー。是非、お願いします!」
「じゃあ、明日の12時に名刺に書いてある住所へ来てくれる?」
「あざっす。私頑張ります」

そして、マッチ売りの少女はライターブロダクションの女優として働くことになった。社長の意向で清純派女優としてドラマを中心に出演し、うなぎ上りに人気を上げていった。
「いやー、今日も良かったよ。監督も凄い褒めてたよ」
事務所の社長は満面の笑顔で、マッチ売りの少女に話しかけてきた。
「本当っすか?」
「何だその口調は。女優は役を演じてない時も、イメージが大切だっていつも言ってるだろ。テイクワンッ!」
社長は持っていた紙を丸めて、机を叩いた。
「すみません…ゴホンッ。あら、嬉しい。今の私があるのは社長のおかげですわ」
マッチ売りの少女ははにかむような笑顔をみせた。
「何言ってるの。君の実力だよ。それより、その大きくて不恰好な靴なんて捨てて、買い替えたらどう?お給料もたくさん渡しているでしょ」
「これは母…お母様からもらった大事な靴なの。こればっかりは捨てられないわ!あのー、話は変わりますが、お煙草ここで今1本だけ吸って駄目でしょうか」
マッチ売りの少女は吸うことを我慢できない顔をして、足をジタバタさせている。
「ダメ、ダメ、ダメ!何度も言っているでしょう、それは。女優はイメージが命だって!事務所の顔の君にそんなイメージ崩されるようなことされたら困るよ」
「そうですか…そうですよね!私、明日からも頑張りますので、宜しくお願い致します。」
そう言いつつも、不満の顔色を隠せないでいるマッチ売りの少女。
「ああ。分かってくれたらいいよ。」

次第に仕事が増えていくマッチ売りの少女。映画の撮影を終えたが、雑誌取材や映画の宣伝など、ほとんど休む暇なく働く日々。仕事場と家の往復で1日が終わってしまう。お昼御飯をゆっくり食べる時間もなく、出されたお弁当を慌てて口に運ぶ。
「はー」
深いため息をつくマッチ売りの少女。
「どうしたの。そんな深いため息ついて。それでは君の女優としてのイメージが悪くなっちゃうよ」
「ええ…そうですわね。ただ、ちょっと最近忙しくて疲れてただけです」
マッチ売りの少女は思わず再びため息をつく。
「何言ってるの、今が頑張り時だよ」
社長は眉間にシワを寄せながら、力強く言い放った。
「それは十分に分かってます。来週1日だけでも休み頂けませんか。久々に実家に帰りたくなってしまいまして」
「ダメダメダメ。田舎町でマッチ売るしか脳がない君を拾ってきた恩を忘れたのー。」
そう言われた瞬間、マッチ売りの少女の心の中で、バラバラと崩れ落ちる音がした。
「まっ、そんなこと言ってないで。明日の映画公開の挨拶は頼んだよ」
社長はマッチ売りの少女の肩にポンっと手をやった。
「ええ…」
マッチ売りの少女は聞こえるか聞こえないか分からない囁くような声を発した。


そして、映画公開の初日の挨拶の日を迎えた。
「何ー!?まだ来てないのか!早く呼んでこい、マネージャー」
社長は隣の部屋にも漏れるような大きな声で叫んだ。
「すいません。机の上にこんな置き手紙がありまして…」
マネージャーは腰深くお辞儀をして、社長に手紙を渡した。
「何!?手紙だと」
丁寧に折り畳まれた手紙を広げて、読み上げる社長。
「社長、突然のご無礼申し訳ございません。私のしたことはこの業界で決して許されることではないでしょう。私は女優として日々忙しく働く中で、本当の私が見えなくなってしまいました。私をスカウトしてくれたことは感謝しています。一時の夢を見させて下さり、ありがとうございました。マッチ売りの少女より」
手紙読み終えた社長は両手をぶらりと下げて、口をポカンと開けて、その場に立ち尽くした。

「マッチいりませんかー、マッチいりませんかー」
あー、今日も全然売れないなー。
雪が降りしきる空を見上げるマッチ売りの少女。
「フー」とタバコを吹かすマッチ売りの少女。久しぶりに吸ったタバコの味は格別である。変わらない街の風景。街で行き交う人々が楽しそうに談笑しながら歩いている。この間までの忙しかった日々が嘘のように、ゆっくりとした時間が流れている。これで良かったのかな。
すると、いつもよくタバコを一緒に吸っていたおじさんが話しかけてきた。
「あれ?久しぶりだね。またマッチ売り再開したの?」
おじさんは驚いた表情をした後、にっこりと口元を緩めた。
「ええ。私はこうやってタバコ吸いながらマッチ売ってるのが、一番性に合うのかな。マッチ一箱いかがですか?」
マッチ売りの少女はニコッと微笑みかけた。暗夜の街灯の下で、一際その笑顔は輝いていた。

この作品は「冬の童話祭2018」に参加しています。

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