思い入れ
ある日、自分のノートパソコンから「パチ、パチ」と音がすることに気づいた。その音はとても小さな音でイヤホンをしていれば気にならないほどだったが、なにせもう七年くらい使っているものなので、何かの故障かと思い近くの家電量販店に持って行った。店員は閉じたままのパソコンを大事そうに受け取り、カウンターテーブルに紙を出した。
「メーカーにお問い合わせしますので、ここにお名前とご住所あとパソコンを買った日付などをお書きください」
「どれくらいで返ってきますか」
「そうですねー。大体一週間かと。最近なぜか電子機器の故障が増えたらしくてですね。注文が殺到してて猫の手も借りたいくらいだとかです」
一週間か。まあすぐに戻ってくるだろう。俺は紙に必要事項を書き、店から出てすぐに家に帰った。そして携帯電話で課長に電話をした。
「もしもし、ああ君かね。ちょうどよかった。君パソコンに詳しいんだっけ」
「あ、はい。少しですけど」
「いやー。実はわたしのやつがおかしくなっちゃってね、今すぐ会社に来てくれないかな」
課長にパソコンが使えなくなったことを言いそびれた。会社につくと、課長が手を招いて呼んでくる。荷物を自分のデスクに置かずに持ったまま行く。途中で「パチパチ」と音がするパソコンが何台かあった気がする。
「いや立ってないで座りなよ。これさ、わかる? パチパチ鳴ってんだよね。聞こえる?聞こえるでしょ」
課長のデスクトップパソコンは確かにパチパチ音を出していた。今朝の俺のノートパソコンと同じ状態だ。
「確かに聞こえます。しかし、僕の手には負えないですね」
「え、無理なの。この前も煙が出たとき分解して直してくれたじゃない。今回もさ」
「これは無理です。僕のパソコンも同じようになって、メーカーに修理に出したものですから」
俺はその日は家でパソコンを探しては、修理に出したんだと思い出すことが何回もあった。
次の日、携帯にメールが入っていた。どうせスパムだと思ったが、修理に出したメーカーからだった。内容はこうだった。
「日頃からのご愛用感謝します。あなた様のノート型パソコンは二年前にサポート外になっており、失礼ながら修理することはできません。ですので少し症状が軽くなる行動のヒントをお伝えします。まずは海に行きパソコンを十分に日光に当てて……」
「社長。こんな対応で本当に良かったのでしょうか」
「構わん。もし君の使っている電子機器が思い通りにならなかったら、君はどうする?」
「え、もちろん修理に出しますけども」
「それなんだよ。私が思っていることは。本当にそれでいいのかっていうことでね」
「いいかい。すぐに医者に出すことも大切だが、同じく大切なことは自分を見ることだと思うのだよ。故障した物の原因とかを探すのもいいが、自分が故障しているのではないかという考えも捨ててはいけないということだよ。そんな時は一緒に海に行ったり、のんびりしたりさ」
「社長、失礼ですがそれって社長の娘さんのことを言っているのですか」
社長と呼ばれた男は高層ビルの窓から静かに空を見上げていた。その頬には光るものが流れていた。