二十一話 封鎖された都市
「――ユラギさんに何をしたのです」
ユラギが精神世界へ潜っていた一方。
薄暗い室内にて、テーブルの上を挟むように相対していた二名――リシュエル・ラウンジと、自動人形のアリム。二人を擁するこの場は、ぴりぴりと剣呑な空気に支配されていた。
だん、と木製の机が強烈に叩かれた。
次いでリシュエルから伸びた右腕がアリムの胸倉を持ち上げんばかりに掴む。強烈な眼光で睨まれたアリムはその手首を思い切り捻り返すが、なおもリシュエルは力を緩めない。
「何をした、とは? 何も攻撃したわけでもありませんよ、ワタクシは」
アリムがそう言って視線を落とした先――ユラギは崩れ落ちるように机へと突っ伏していた。
外傷があるわけでもなく、ただ眠っているように見えるその姿――。
アリムが彼へ手を翳した瞬間に倒れた彼、そんな状態が只事であるはずがなかった。
生命の危機に陥るような危険が差し迫っているわけではないが、普通の状態でないことだけは言うまでもない。彼の肉体には明らかな異常が発生している。
それは、アリムという自動人形によって何らかの干渉を受けたからだ。
リシュエルの目ではアリムが何をしているかは分からなかったが、精神系の干渉を行ったのは明白だった。最初からそうするために呼んだといってもおかしくはない――そういった企みも含めて、行かない方がいいと言ったのだ。
だがそれでも頷いたのは、己が一緒に付いていれば防げたという慢心からか。実際、阻害する隙さえなかった。
歯噛みし、リシュエルは更に追及を重ねる。
「そういうことを言ってるんじゃなくて――だったら、あなたはユラギさんに何をさせるつもりなのです」
「彼には〝世界を救って欲しい〟と、マスターは言っていますので」
質問を変えたリシュエルに、アリムはそう答えた。
「で。いい加減離してはくれませんか? 服が伸びてしまうでしょう」
「なら〝何をしたのか〟答えて下さい」
「先程も言ったでしょう? ワタクシは失われた彼の記憶に干渉し、思い出して貰っているだけですよ」
掴む手を離せば、アリムも同時に力を緩めた。
「そう、ですか」
するりと抜けた手首が、赤紫に変色し鈍く熱と痛みを発している。たったこれだけで手首の感覚が半分ほど失われていた。
もう少しやせ我慢などして張り合っていたら手首ごと潰されていたかもしれない。
機械の身体に掴み掛るのは下策であったかもしれないなと苦笑し、リシュエルは一歩机から後退る。
機械の手合と相対する機会はどこぞの便利屋と違ってほとんどない。というよりリシュエルが対応する案件ですらない。上司であるアドリアナも、普段からそんな連中を相手に場を切り抜けてはいないのだ。
――まあ、目の間の自動人形は、そんなモノとも同列には語れないのだが。
感覚が正常に働くまで五指を折り曲げ伸ばし、リシュエルは深く息を吸い込み息を整える。
「やっぱり、ついて来て良かったのですよ。あなたが《自動人形》ではないと確認が取れただけでも儲け物でしたし――何よりユラギさんだけの問題じゃない」
「……はい? ワタクシが自動人形以外の何に見えるというのでしょう」
「その瞳の色が〝エクサル〟の影響を受けてるのは分かってんですよ。あなたの行動はプログラムじゃない。それに――灰を〝ラプス〟などと呼ぶ奴には注意しろとも言われてます」
「何故ですか?」
「あなたがどのような意図で口にしたのか知らないですけど、普通の人は灰を灰としか言わない。最早それは、この世界の〝解釈〟じゃないのです」
ユラギはその言葉に違和感すら抱いていなかった。
それはつまり、知らなかったから、彼には灰という単語に置き換えられて聞こえていたのだろう。
だがリシュエルには確かに〝ラプス〟と聞こえたのだ。
そう変換されて聞こえたのは事前にその知識を与えられたからで――誰から聞いたのかと問われれば、該当者は一人しかいない。
レイシスだ。彼女は何を予期してか、ユラギについていこうとしたリシュエルを呼び止め、いくつかの助言をくれている。
その内の一つに灰を知る者に注意しろというものがあった。
曰く、最早その名は自らが教えた者と、灰の本質を認識している同類しか残っていないからだ――と。
理由まで深くは教えてくれなかったが。
リシュエルに伝えたということは、レイシスは最初から感付いていたのかもしれない。
ユラギにも幾つか忠告はしていたようだし、迫り来る存在にある程度の当たりを付けていたのだろう。とにかく、そんな連中は尋常の者ではない。
「灰をそう呼称するだけで、あなた方は危険なのですよ。そんな連中にユラギさんをこれ以上接近させるわけにはいきません。それに、何を言い出すかと思えば……世界を救って欲しい?」
吐き捨てる。それはリシュエルにとって、反吐が出るような台詞だった。
「はっ、よく言うもんです。私達の都市を壊そうとしているのはあなた達なのに――ふざけるなよ」
「ワタクシに問われても返答はありませんよ。ワタクシではなく、これはマスターの意向です」
だから、どうしたというのだ。その意志が誰によるものであろうと関係ない。
英雄の因子を持つキースを敢えて一介の冒険者の身にしようとしていたリシュエルにとって、この状況は見過ごすはずがない。はいそうですかとユラギを差し出すはずがない。
元からユラギに謎が多かった。それも分かっていた。
でなければアドリアナはあそこまで少年個人に関わりを持たない。リシュエルがここまで世話を焼くこともなかったし、キースと会わせることもなかった。
つい先ほどまでは彼が何なのかさえ分かっていなかったけれど――でも。
彼が過去に世界を救った英雄だというのが本当だとしても、それが今も彼を英雄という役割に縛り付けていい理由にはならないのだ。
自動人形が彼の記憶を呼び覚ましたなら、それまでの彼は本当に何も知らない少年だった。
他人の人生を他人が勝手に決めていいはずがない。
力があるから世界を救わなければいけないなど、そんな道理はどこにもない。
キースに自由を望んだように、ユラギにも当たり前の自由を望む。そう望むこと自体が己のエゴかもしれないが、それを間違っているとリシュエルは思わないから。
「――あなたにユラギさんは、渡しません!」
倒れた彼の身体を両手で抱き上げ、リシュエルはアリムを睨み付ける。
「では。この状況であなたはどうするおつもりなのでしょう」
「……帰ると言って、素直に帰してくれるなら帰りますが」
「一人で出て行かれるというなら、引き止めはしません」
「だったら、逃げるだけです!」
リシュエルはそう叫び乱暴にユラギを肩に担いだ。自分よりも当然重いが――持てないほどでもない。席に座ったままのアリムを尻目に一目散に部屋の扉へ駆け出す。
しかしアリムはリシュエルへ何をするでもなく、呆れたように呟いた。
「本気で逃げられると思っているのですか?」
「……くっ!」
出入口の通路。駆け抜けようとしたリシュエルの眼前から幾重もの障壁が展開した。それらが行く手を阻み――瞬時にして、扉までを半透明の壁で覆い尽くした。足を止めざるを得ないリシュエルの横へ、こつりと足音を鳴らしてアリムは近付いてくる。
「これで出ることは不可能になりましたね。では、次はどうされるのでしょう」
「――なら、倒して進むだけです」
だん、と床を踏んで距離を取る。ユラギを左手に担ぎなおして、リシュエルは半身に構える。せせら笑うようにアリムが距離を縮めてくる。
近づいて来る姿は隙だらけに見えるが、その感覚は相手が人外では意味を為さない。僅かに聞こえる機械の駆動音から、いつでもお前など殺せるぞという準備が窺えた。
リシュエルが拳闘の構えを取ったのを見て取り、アリムは不思議そうに僅かに首を傾げ、そして歩を止めた。リシュエルの拳が届く間合いにて、彼女はそんな疑問を放ってくる。
「そこまで抵抗の意志を見せるとは、予想外ですね。あなたに彼を守る理由があるのでしょうか? 一人で帰るのであれば、ワタクシは本当に何もしないのですけれど」
「そういうことじゃないのですよ――私にとっては!」
アリムの言う言葉に嘘偽りはないだろう。例え今でもリシュエルがユラギを置いて逃げると言い出せば素直に帰してはくれるはずだ。
それでは駄目だ。じゃあ何の為についてきたというのか。こんな事態を防ぐため、ここにいるのだ。相手がどれだけ恐ろしい存在であろうと、彼を掴むこの手を放すことは――したくない。
拳をぎゅっと握りしめ、リシュエルは奥歯を噛み締める。
丸腰に加えて巨大な荷物まで抱えた状態。
そもそも私服だし、戦うつもりなどなかった。あくまでギルドの受付であるリシュエルは戦闘員じゃないわけで――果たして、そんな自分がどこまでやれるだろうか。
己の内に封印していた魔力を解き放ち、一時的に身体機能を解放する。できれば戦いたくなどなかったが当のユラギがこれではやるしかない。
相手は格上の自動人形、更に紫の力を所有する相手だ。正面切っての戦闘は無理だ――やるなら、搦手を使うしかない。
「あぁ、やはり戦えたのですね。受付嬢という肩書の割には妙だとは思っていましたが」
まずは、先手を取る。
「覚悟するのです――!」
「ですが、その傷では無理があるのではないですか」
初撃、リシュエルが打ち放つ右拳のストレートを平手で受け止め、アリムはぐっとリシュエルの眼前へ顔を近付けた。拳を上から握り潰され、リシュエルが小さく呻く。
「戦う前から既にボロボロではありませんか」
「どこを、見てやがるのです」
そのまま蹴りの姿勢へ移ろうとしたアリムの首が、ぐんと後方へ引っ張られた。
一周する細い何かが、アリムの首筋へぐるりと一周して引っ張っている――。
「はい?」
それは、糸。
極細の鋼糸がアリムの首へと巻き付き、リシュエルの握り潰された拳まで繋がっていた。
「糸? そんなものをどこで……まさか」
「非力な人間だから策や武器を使うのです。あなたとは違って!」
指先から糸を手繰り、アリムの動きを阻害する。
胸倉を掴んだ瞬間には策を引っ掛けるだけの武器は施していたのだ。
「無策で無茶するわけがないのです……彼とは、違って」
糸――髪の毛よりも細く設計された魔鉱製の鋼糸。
自動人形の強靭な身体をも切断することを目的に造られた都市の暗器の一つ。
それこそが、非力なリシュエルが格上相手に対して持つ僅かな勝算だった。
魔力で肉体を強化したのは糸を操り強引にアリムを拘束するためで、間違っても感情だけで動いたわけではない。
きりきりと金切りを音を上げ、糸がアリムを縛り上げていく。
人口皮膚に食い込んだ糸は切断まで至らないものの、確実にアリムの拘束に成功していた。
頑強な鋼糸は蜘蛛の巣が如く絡まり、強力な力で抵抗すればするほどより全身の皮膚へと食い込んでゆく。
そんな糸はアリムの背後へとあるテーブルを初めに、部屋の隅々へと伸びていて。
首回りだけでなく腕や胴体の各関節にまで絡み付いた糸が巻き上がり、アリムを宙へと吊るし上げようとする。
「やってくれますね。ですが、そのような細糸では……」
無理矢理にでも駆動して糸を引き千切らんと前進したアリムが、今度は大きく前へ投げ出される。首を押さえつけていたテーブル側の糸が急に外されたのだ。
揺らぐ紫の瞳の奥、リシュエルは血塗れの指先で糸を手操る。
「私の身体なんか見てる暇があったら、そんな私が戦おうとした理由でも探るべきなのですよ」
その手を振り上げ――鋼糸を何十にも巻いた手刀がアリムの頸椎へ叩き込まれる。
自動人形に備わる命令系統を的確に穿たれ、機能不全となったアリムの足が床から離れた。中空へと磔になった彼女の前で、満身創痍のリシュエルが五指へ込める力を抜く。
「はぁ、はぁ……なんとか、なりましたか」
つう、とリシュエルの指先から伸びる糸に血が伝う。
部屋の隅や家具などの箇所へ糸を引っ掛けてアリムを固定したが、絡まった糸をこれ以上操作するのは難しいだろう。既に自力で解ける状態ではなくなった。
そう判断し、指に巻き付けた鋼糸を解いていく。
指先で操る箇所は分厚く柔軟性の高い材質のため、本来こちらの指が斬り落とされる事態にはならないはずだったが――アリムの抵抗が激しく幾つかの糸が深く肉へと侵入している。
激痛だが、その覚悟はないではない。
何故なら、相手は普通の自動人形などではないのだから。
むしろこれで倒せるわけもなく、精々が拘束に成功するのが関の山だろう。
奥歯を強く噛んで痛みを抑え、強い語調で告げる。
「……っ……障壁を解除して下さい。まだ抵抗を重ねるつもりなら、あなたの関節部を一つずつ砕いていきます」
「――なるほど。たしかに、ワタクシはあなたの力を見誤っていたようですね」
「早く、解除するのです! でないと……本当にやりますよ」
「ですが。甘く見ていたのはあなたも同じはありませんか」
銀糸に絡め取られた首が、リシュエルへ向けられる。損傷した頸椎が自らの力で折れ曲がり、歪な破砕音が鳴った。
人工皮膚にも糸が食い込みぱっくりと裂けるが、アリムは無理矢理に首を回し――白塗りの化粧に隠された表情が、リシュエルを捉える。
「自動人形の止め方はよく理解していますね。ただ、狂喜がワタクシの原動力だと言ったのはあなたでしょう」
紫が、妖しく光輝く。
「――――っ!?」
その時だった。紫に輝いた瞳がリシュエルを捉えた瞬間、開かれた口から血が零れ落ちたのは。
「――が、は」
リシュエルの身体から、力が抜け落ちる。
血が流れ出すのは口からだけではなく。まだ直接的に攻撃を受けてもいない腹部や四肢からも、大量の血が床へと流れ出していた。
口から血塊を吐き、リシュエルは蚊の鳴くような叫びを洩らし床へ膝を付く。
腕に、力が入らない。
ずるりと肩からユラギが抜け落ち、リシュエルが流す血溜まりへ倒れ伏した。
彼はまだ目覚めない。
「な、にを――したの、です……?」
――何をされたのか、リシュエルにはまるで理解が追い付いていなかった。
私服が自らの血液で真っ赤に染まる。内臓が焼けつくような痛みを発し、身体が悲鳴を上げていた。どうにか顔を上げるだけの行為が、意識を断ち切らんばかりの激痛を生む。
まだ何もされてはいなかった。そのはずだった。
物理的に拳を潰されたのとは訳が違うのだ。
アリムはこちらをただ見ただけ。ただそれだけで、身体の、肉の内側に激痛が発生した。
口から血が出たならば、実際に内臓が傷付いている。
しかし魔力の気配や妙な能力の発露も全く感じなかった。
遺産による能力でも――じゃあ、この異常は。そこまで埒外な能力だとでもいうのか――キースでさえ、そこまでの事はできないというのに。
リシュエルは、血と共にか細い声で言う。
「エク、サル……」
「随分な古傷ですね。それを少しばかり開いただけのつもりでしたが、臓腑が破けてしまうとは思いませんでしたよ」
アリムから紫色の力が洩れ――糸を引き千切った。
先程まで通用していたものを、今度はいとも容易く。
「な……? そん、な」
「そこまで驚かれるとは心外ですけれども。この力を知っているのなら、こんな糸では防げないことなど理解していたでしょうに。ああ、服が破れてしまいましたわ」
折れ曲がった首を元の位置へと戻しながら、アリムは悠々と床の上へ立つ。
傷を付けた頸椎も、完全に拘束したはずの糸の牢獄もまるで初めからなかったかのように――紫色の力が辺りを蹂躙していく。
「では形勢が逆転しましたね。まだ、諦めませんか」
「……そ、れ、でも――ユラギさんは、渡さない……!」
どうしようもない絶望だった。
もはや自分がどう足掻こうと、恐らく結果は変わらない。
あぁ、何でこんなことになっているのだろう。
今日は久し振りの休日で、本当だったら今頃はどこかでショッピングでも楽しんでいたかもしれないのに。
全く、ついてない。
――だが、その道を選んだのは他ならぬ自分だ。
血塗れの身体を鼓舞し、リシュエルは立ち上がる。
現実には血塗れになった自分と意識を失った彼がそこにいるだけ。
相対しているのは、恐らく世界最悪級の相手。この世のほぼ全てが手も足も出せぬ力を保有する、自動人形の女だ。
「途中で諦めるくらいなら。初めから、こんなところに付いて来やしないんですよ……!」
ここまで力の差を見せつけられて、それでも止まらない。文字通り血反吐を吐きながら、リシュエルは強大な相手へと立ち向かう。
絶対に勝てないだろう。絶対に倒せないだろう。やるだけ敗北は見えている。今生きていられるのは本気で殺す気がアリムにないからだ。
そんなことは十分に理解した上で、リシュエルは立ち上がる。ぼろぼろの拳を握りユラギの前へと立つ。
だが、これだけは捨てるわけにはいかないのだ。生き延びるために誰かを差し出すくらいなら、リシュエルにとって、そんな選択肢は端から有り得ない。
だからこれは無謀じゃない。戦う以外に手段がないなら、戦うだけだ。相手にその気がないならそれはチャンスだろう。
ユラギが起きれば、きっとどうにかしてくれる――短い付き合いだけど、そんな期待がどこかにあるから、それまで耐えられる。だから無策じゃない。
「……そうですか」
アリムはそんなリシュエルを見下して、どこか憮然とした風に呟いた。
――リシュエル・ラウンジは諦めの悪い女だった。
開いた古傷が、嫌に疼いた。
――世界燃ゆる焔の中心。リシュエルがまだ冒険者だった頃の最後の旅が、蘇る。
この世の終わりのような地獄で少年を拾った、今となっては懐かしい思い出だ。
差し伸べた手を振り払われ、内臓ごと腹部を貫かれて焼却された痛み――丁度、今と同じような。
その時だって、リシュエルは決して諦めなかった。必ず届くと信じて立ち止まらなかったから――今、都市でキースは生きている。
だから、今回も諦めない。決死の覚悟で目を見開き、リシュエルは咆哮する。ユラギは渡さないと。
「……やはり、人の感情は分かりませんね」
かくしてアリムは、ぼやくようにそう言った。
こつ、こつ。
ゆっくりとこちらへ向かう足音が、嫌に耳を突く。
「ここまで、のようですね。後数秒もすればあなたは意識を失います。ワタクシが手を出すまでもありません」
「わた、さない――」
「それはできない相談というものですが」
「――」
べしゃり。
リシュエルは何かを言葉にしようとして、床へと倒れ込んだ。アリムの宣言通り、意識は既にそこにはなく。
立ち尽くすように二人の姿を見つめるアリムが、眉をひそめてみせた。
「それに、エクサルへ向かうポータルは絶たれているのですから。どちらにせよあなた方二人に行き場はありませんでしたよ」
意識のないリシュエルの姿へそう言葉を掛け――アリムの手が、血塗れの背中へと伸ばされた。




