寒空に祝福を
「38度7分か」
少年は体温計を見てつぶやきました。
その目線に入るのは布団で眠る妹の姿。
「ひえひえがほしいよ~」
少年は妹の言葉を聞いて冷蔵庫を見に行きました。
しかし、中には妹が言う「ひえひえ」はありませんでした。
少年は、「う~ん」と考えました。
「よし! 買いに行こう!」
少年は自分の部屋から貯金箱を抱え、外へ飛び出しました。
外は、どんよりとした冬のくもり空が覆っていました。
少年は商店街を歩きながら一つ困ったことがありました。
それは、妹の言う「ひえひえ」がどこで売られているのかしらなかったのです。
辺りを見回しながら歩いていると、八百屋のおやっさんが話しかけました。
「坊主、どうした?」
「ええと、白いやつを探しているんだ」
「白いやつ? 大根か?」
少年は首を振ります。
「もっとひえひえしているものさ」
「じゃあ、豆腐だな」
「それも違うよ。たしか、おでこに貼り付けるんだ」
八百屋のおやっさんは「ああ」と呟いて、言葉を続けました。
「それじゃあ、ここには売ってないな」
「じゃあ、どこで売ってるの?」
八百屋のおやっさんは優しく微笑んで言いました。
「あそこのお店だよ。店の前にオレンジ色の象みたいなキャラクターがいるだろ?」
少年はうなずきます。
「あの店に売っているはずだ」
「ありがとう!」
少年が走り出そうとすると、
「ちょっと待った!」
八百屋のおっさんが少年を呼び戻しました。
「この大根と豆腐、持っていきな」
少年はその二つが入って袋を受け取り、八百屋のおやっさんに手を振って、お店に走って向かいました。
「いらっしゃい。おや? 小さいお客さんだね」
そのお店には白髪のおじいさんがいました。細見でメガネをかけている優しそうな人でした。
「何が欲しいんだい?」
「ええと、『ひえひえ』しているものです!」
「『ひえひえ』ねぇ・・・」
おじいさんはそう言って、後ろを向いて棚にある荷物をゴソゴソと探し始めました。
少年はその様子を眺めながら、期待の眼差しをおじいさんの背中に送ります。
「これかな?」
そういっておじいさんは青い箱を少年に見せました。
「これはなんですか?」
「これはシップというものだよ」
「シップ・・・?」
少年はシップについて考えます
「痛いところにはって使うものだよ」
少年は思い出しました。湿布とは、家でよくお父さんが背中に張っていたものだと。
「ええと、これじゃないです。風邪に効くやつです!」
「ああ、そうですか」
おじいさんはそうやさしく微笑んで、奥のほうへと消えていきました。
まもなくして、おじいさんが紙袋を持ってきました。
「ここに君がほしいものが入っているよ。間違いは無いはずだよ」
おじいさんはそう言って、少年に紙袋を渡しました。
「いくらですか?」
「お代はいらないよ」
貯金箱を開けようとする少年に、おじいさんはおだやかな口調で言いました。
少年は不思議そうにおじいさんを見つめました。
おじいさんは微笑んでいました。
少年はその言葉のまま、重い紙袋を持ってお店を出ました。
「ただいま~」
少年と妹のお母さんが帰ってきました。
「おかえり!」
少年はお母さんの元へと駆け寄りました。
「あらら、ほっぺたに両手、どれもひえひえね~」
お母さんは少年の少年に触れながら笑いかけました。
「あら? この紙袋は何?」
「ええと、あれを買ったときにもらったんだ」
お母さんは少年と一緒に部屋に入ると、ぐっすりと妹が眠っていました。おでこには白いシートが貼ってあります。
「そう。さすがお兄ちゃんね!」
そう言ってお母さんは少年の頭を撫でました。
そして、気になっていた紙袋の中を見ました。
「ええと、大根に豆腐? 白菜、えのき、ネギ・・・」
お母さんは驚きを隠せない様子でした。
「本当にすごいお兄ちゃんだ!」
お母さんはさっきよりも激しく少年の頭を撫でました。
「今日は鍋にしましょう! こんなに寒いしね!」
そう言って、お母さんは紙袋を持って台所へと行きました。
少年はくしゃくしゃになった髪の毛のままコタツに入りました。
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