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王国の時

翔と光希が鶴居村を出発してから約三日が経ち、二人を乗せた馬車は青葉王国の正門にいた。


「ここが青葉王国か、デカイな‥‥‥」


城門に阻まれほとんど街は見ることができないが、城門ですら覆いつくせない城は翔の想像をはるかに超えていた。


光希は門番に自分の身分を明かすと、すぐに門を開けた。


「さっ、入ろっか。御者さんとはここでお別れかな」


光希は御者へ視線を送る。


「はい、自分はこれから街で商いを行うので。それでは、失礼します」


「ここまでありがとうね」


「ありがとうございました」


御者は軽く会釈をすると街の中に入っていく。それを追いかけるように翔と光希は門をくぐる。



「これから、どうするんだ?」


黙って進み続ける光希にしびれを切らした翔は尋ねる。


「まずは、王に報告をしなきゃいけないから城に行くよ」


光希は足を止めることなく翔の質問に答える。


「俺も行った方がいいのか?」


「うん、翔も一応関係者だからね」


それを聞いて血の気が引く翔は下を向きながら王城での振る舞いを考える。


(マジか‥‥‥失礼とかあったらやばいよな〜。とりあえずは無言でいればなんとかなるか)


「「止まれっ!!」」


正面から聞こえた突然の大声に翔は大きく飛びのく。


「翔、落ち着いて。城の門番だよ」


そこにいたのは重そうな鎧を全身にまとった騎士二人で、手に持った槍を交差させ道を塞いでいた。


翔は光希の言葉を聞いて、ようやくここが王城前だと気づく。


「王城に何の用件だ」


「何の用‥‥‥か」


光希が曖昧な反応をする。


「光希‥‥‥?」


光希はどこかからか首飾りの様なものを出し、門番に見せる。


「これは失礼いたしました。どうぞお通りください」


「お疲れ様。翔も入っていいよ」


門番が槍を下ろし空いた道を光希は悠々と通り抜ける。


翔は躊躇いながらも門番の横を走り、光希の横に並ぶ。


「さっきの首飾りみたいなの何なんだ?」


「あー、これね。これはねぇー、王城永久通行許可証みたいなものかな」


光希はそう言って大きな赤い宝石がついた首飾りを取り出すと、翔の目の前に差し出す。


(ん、これ‥‥‥エンブレムが入っている? この動物は‥‥戌か)


首飾りをまじまじと観察する翔だが、光希は首飾りをしまい、王の間へと向かう。


「なぁ、その戌のエンブレムは何なんだ?」


「青葉王国は戌はこの世界を創った創造主の使い、として崇めているんだ。だから国の象徴は戌なんだよ」


「‥‥‥」


(元の世界で言うキリストみたいなもんか)


「あら、光希。任務明け?」


前方から青い髪をなびかせた女が歩いて来る。その雰囲気はお姉さんといった感じで、微笑んでいた。


「うん、始まりの森での調査を終えたところだよ。扇華おうかはどうしてここにいるの?」


「あたしは新米兵の訓練に付き合わされちゃって、ホント散々よ」


「扇華は七雄としての顔が割れているからね。どうしても仕事がきちゃうんじゃないかな?」


「そうね、光希も正体明かしたら‥‥そうすればあたしの仕事が減るわ」


「それは勘弁かな、僕はあんまり表立って戦うのは好きじゃないからね」


「そう、残念」


扇華はいかにもだるそうに体を伸ばすと、光希の横にいた翔の存在に気づく。


「その子は誰?」


「彼は翔、今回の任務の関係者だよ」


光希は翔の方に向き直って、


「この人は扇華。僕と同じ七雄の一人なんだ」


「そう、翔ね。よろしく」


扇華は手を差し出し、翔に握手を求める。


「あー、よろしくお願いします」


翔が扇華の手に触れようとした瞬間、扇華は翔の手首を掴む。


「えっ?」


ニヤッと笑った扇華は翔を掴んだ手をひねることで翔の体のバランスを大きく崩し、地面に叩きつける。


「あら、光希のお墨付きだから結構期待してたのに。買い被りのようね。それじゃあ、またね」


そう言って光希と翔が歩いて来た方へ去っていく。


「クソっ。痛え‥‥‥なんだよあいつ」


立ち上がろうとする翔に光希が手を差し伸べる。


「サンキュー」


翔は光希の手を掴み立ち上がる。


「扇華はいつもああだからね。次からは気をつけなよ」


いつもあんなんなのかよ、とつっこむ気にもなれず翔は肩を落としながら光希について行く。




王の間まで案内された翔は、王が来るまでの間自由にしていろ、と言われ壁画や絵画などを眺めていた。光希は見慣れているのだろうか、黙って椅子に腰をかけていた。


(日本の美術って言うよりは西洋っぽいな)


王の間は奥に王が座るであろう椅子が一つと、臣下のもの用の椅子が幾つかあった。真ん中にはレッドカーペットが敷いてあり、翔はゲームみたいだな、と思う。


翔はチラッと入り口にある兵士の手元を見る。王の間に入る時に翔は武器の類いを全て預けさせられた。翔も暗殺対策なのだろうとは思うがそれでも無防備でいることにどこか不安を覚える。


(光希が刀を取られてないのは七雄だからなのか‥‥‥)


王の席の後ろにあった扉が大きな音を立てて開かれる。椅子に座っていた光希はすぐに地面に膝をつけ、跪いた。


慌てて翔も光希の後ろに行き、同じような態勢になる。


「おぉ、光希か。よくぞ戻った」


頭を下ろしているため翔には王の顔を見ることができないが、声を聞く限り老人を想像させた。


「はい、始まりの森での任務を終えました」


「まずは頭を上げなさい。後ろにいるものも、じゃぞ」


言われた通りに頭を上げる翔。先ほどは誰も座っていなかった王の席には、年老いた男がいた。だが、その目にはどこか鋭さがありただの老人ではない様に思えた。


「光希、その者は誰じゃ?」


光希は普段と違った丁寧な口調で答える。


「彼は今回の任務で死にかけのところを助けました」


「ふむ。で、慶次はどうじゃった?」


「おそらく‥‥‥死んだかと、思われます」


王の目が一瞬見開く。


「何と‥‥‥慶次が、か。何があったのじゃ?」


光希は一通りの説明をする。光希は翔が説明したことをそのまま王に伝えていた。


「なるほど。で、その者は信用できるのか?」


王の目線が翔に向く。


「まだ、完全にとは言えませんが。ただし、僕は信用しています」


「ふむ‥‥‥で、翔とやらを連れてきた理由は何じゃ?」


光希は刀を抜くと、刀を天に掲げて宣言する。


「七雄が一人氷室光希は、月雲翔を七雄として推薦します」


「えっ!?」


「ほう‥‥」


突然の宣言に頭が真っ白になる翔。しかし王は冷静に、


「その者に、それだけの実力があると?」


光希ははっきりと答える。


「いいえ、それほどの実力はないでしょう。だから、保留推薦の形を取ります」


翔は目の前で繰り広げられる会話に完全に置いていかれる。


「それにしても、最低限の実力は必要だ。少し、試させてもらうぞ」


王は脇に控えていた兵士に耳打ちすると、すぐにその兵士が後ろに引っ込んだ。


「適任を呼ばせてもらうからな」


(適任‥‥‥?)


「翔、大丈夫。いつも通りにやれば勝てるよ」


「いや、無理だろ」


奥の扉から体格のいい男が入ってきた。鎧をまとわず、武器も持たないが、全身の筋肉が只者ではない事を感じさせる。


「剛波龍樹。我が国が誇る騎士団のエースじゃよ」


剛波は翔の正面に立つと律儀に頭を下げる。


「剛波といいます。よろしくお願いします」


見た目と合わずに真面目だな、とか考えていた翔。


(だけど──)


「やるしか、ないか‥‥‥」


(本当、こっちの世界来てから戦ってばっかだよな)


翔と剛波を残し、他のものが部屋の隅による。


「名前は翔。よろしく」


簡単な挨拶をするとお互いに三メートルほど離れる。


「準備はいいな。それでは──」


「待った!!」


翔は開始の合図を止めさせる。光希は降参するのかと不安になるがその目を見て確信する。あの目は勝つ気だ、と。


「なんじゃ?」


「えーと、ルールの説明が欲しい、です」


何の説明もないまま戦わせられようとした翔はどこまでやればいいのかがわからなかった。


「簡単じゃ。どちらかが気絶するか、降参するまで戦ってもらう」


「武器の使用は?」


翔は自分の刀をに視線を向ける。


「禁止じゃ。まだ何かあるか?」


「加護は使っても?」


「もちろじゃ」


翔と剛波との間に一人の騎士が割りいってくる。


「この決闘の審判は俺がやります」


身軽そうな鎧を着た男が名乗り出る。


「よかろう」


「じゃあ、両者準備はいいな?」


「いつでも」


「あぁ」


翔は体に電気を流し、剛波の攻撃に備える。審判は右手を上げている。


(‥‥‥あれっ? これって、戦う理由が無──)


「始めっ!!」


手が振り下ろされるとともに開始の合図が出る。


剛波は図体に似合わず俊敏な動きで翔に接近する。


(くそっ、考えている暇がねぇ)


剛波が翔に向かって拳を振り上げる。翔はそれを両手を使い防ぎ、その際に体内の電気の一部を流し込む。剛波の攻撃は翔のガードごと、三メートルほど吹き飛ばす。


「クッ‥‥‥!!」


翔はすぐに上体を立て直し、剛波の様子を伺う。剛波は次の攻撃を仕掛けるための隙を探っていた。


(何で‥‥‥電撃が通ってないんだ? 攻撃を受けた時、確かに流し込んだはず)


普通、人間の体に電気が流れたら弱い電圧でも体の痺れを感じ、強い電圧だと気絶やショック死を引き起こす。


だが、翔から電気を食らったはずの剛波は平然と立っていた。


「どうして立っているのかがわからない、と言ったところか?」


剛波が余裕を持ち、翔へと話しかける。


「さぁ、何を言ってるんだ?」


あくまで冷静な対応をとる翔は、剛波の隙を突くために常に気を張っていた。


「翔、だったかな。君の加護は雷の精霊の加護。おそらくは現象系だ。そうだろう?」


(見事に当たってやがる。‥‥どの段階でばれたんだ? あいつの突きを受けた時に流した電気で気づかれたのか? いや、それ以前にばれていた可能性も── )


敵への警戒を緩めて思慮に当てている翔に、剛波が一気に距離を詰めて再び突きの構えをする。


「チッ」


翔は全身に力を入れ、今度こそ剛波の突きを受け止めようと両足をしっかりと踏みしめる。


(ここで受け止めてから放雷で決める!)


「受け止めてみろよ」


翔は剛波の突きを見切り、両手を使い抑えつけるが、突きは止まらずに翔の体に突き刺さる。


「っ〜!!」


剛波の突きは最初の攻撃よりはるかに強く、翔の体を軽々と吹き飛ばし王の間の扉に叩きつける。


翔は意識を失ったのか、完全に全身から力が抜け、地面に倒れていた。


「ここまで、だな」


勝利を確信した剛波は終了の合図を審判に求める。


「そうだな‥‥‥じゃあ──」


「待てよ」


倒れていた翔が立ち上がる。


「あれを食らって立っていられるとは大したものだ」


「確かに一瞬、意識が飛んだぜ。ただ、お前の加護はもうわかった」


「‥‥‥」


「ほう‥‥」


王は翔に感心し、声が漏れる。


「あんたの加護は天使の加護の強化系。自身の筋力の強化する加護だ」


(こいつは俺の電気を食らった後、何の問題もなさそうな顔をしていたがおそらくは痺れていたはず。それを加護を使うことで誤魔化し、会話に持っていくことで時間を稼ぐ。理にかなってるな)


無言のままの剛波を見て満足そうな翔は続ける。


「そして、二回目の攻撃‥‥‥俺への突きは技、だろ?」


「‥‥‥」


「沈黙は肯定と同義、らしいぜ」


「それで終わりか?」


剛波はおもむろに服を脱ぎ、自らの肉体を晒す。


「はっ?」


「ふん!!」


剛波が声を発すると同時に剛波の筋肉が一気に盛り上がる。


「ばれたところで問題はない」


「おいおい‥‥‥すげぇ筋肉だな」


翔は指を二本立てた迎撃の姿勢で剛波を待ち構える。


「”爆脚”」


言霊と共に剛波の姿が翔の視界から消える。


(どこだ? 後ろには扉があるから、来るなら前方だろうが‥‥)


「上か!!」


すぐに翔は右に跳び、上からくる剛波の攻撃を避ける。一秒前まで翔が立っていた地面は剛波の拳によって砕かれる。


すぐに態勢を立て直した翔は指先を剛波に向けて突き出し、


「”集雷”っ!!」


剛波はバックステップを使い、難なく翔の技を回避する。


(やっぱり普通に使っても当たらないか‥‥‥なら──)


翔は躊躇うことなく、後ろに下がった剛波を接近して腹を殴りつける。


剛波も翔のこの行動は想定外だったのか反応できず、もろに食らった。


「よし、”放─」


翔が言霊を紡ぐよりも速く、剛波が翔の頭部を強打する。


剛波の攻撃に翔の脳が揺れ、脳震盪を引き起こす。


が、翔もかろうじて技を発動させており、剛波の体が電気により麻痺し、硬直する。


「むっ。体が‥‥‥」


(危なかった‥‥‥あれ? 視界が、揺れる)


翔は脳震盪によるバランス感覚の麻痺により、普通に立つことができなくなっていた。


翔は動けないでいる剛波を視界に捉え、とどめを刺すためにふらつきながらも剛波に向かって走り出す。


「”集雷”」


翔の雷をまとった指先が剛波に届く直前、鈍い音と共に翔の腕があり得ない方向に曲がる。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


突然の出来事にわけがわからない翔は、激痛のあまり膝を地面につける。


(くっ、左手ききてを折られた。早く、距離を取らなきゃ‥‥‥)


翔の頭を剛波が片手で掴み、持ち上げる。


「まだやるか?」


もはや翔の意識はほとんどなく、虚ろな目を剛波に向けていた。


「もう意識がないか」


「”ほうら──」


「なっ!!」


剛波は翔の僅かな呟きが言霊である事に気付き、地面に叩きつけ、そこで翔の意識は飛ぶ。



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