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怒りの時

森全体に夜の闇が広がり、数メートル先までもが黒に包まれていた。そんな暗闇の中を一つの影が疾走する。その速さはとても人の目には捉える事が出来ず、人の限界を遥かに超えていた。


「扇華の気配が、弱まっている。このままじゃ、不味いね」


己の第六感を頼りに、同じ七雄の仲間である扇華のいる方へ駆け続ける。


不意に光希の耳に強烈な爆音が森の奥から聞こえてくる。その音に不安を隠しきれない光希だったが、扇華の気配が残っている事を確認すると、より一層速度を上げた。




光希は走っていると突然、正面に見え続けた木々の景色が途切れる。光希の足元にはなぎ倒され、吹き飛ばされた木が無数に転がっていた。


「これは、何なんだろう?」


木が抜けている場所はかなり広く、多くの木々が無残に倒れている。


光希は奥の方に人影を捉え、迷わずに走り出す。


「これは‥‥」


光希は走っている途中、倒れた木々に混ざって人が倒れていることに気づく。


「あれっ? これの人達‥‥」


倒れている人に見覚えのあった光希だったが、今は構っている暇はなく、一心不乱に足を動かす。



光希は数人が争っている光景の中に、扇華の姿を発見する。光希はよく見ると、扇華が一人だけ攻撃を受けていたので他の人は敵と判断した。





全身傷だらけで獲物である鉄扇をも失った扇華は藤堂の部下の攻撃を回避し続けていた。しかし、渾身の大技が失敗に終わった扇華に残された体力は少なく、すでに限界を超えており、力なく地べたに倒れ込む。


「死ねぇぇ!!」


力尽きた扇華を見た山賊は嬉々とした様子で手斧を両手で握り、扇華の頭に振り下ろす。


扇華は僅かに残った意識の中で完全に死を覚悟した。が、手斧が扇華に衝突する直前に手斧を掴んでいた手が宙を舞う。


「はぁ、はぁ‥‥危なかったね〜」


走りっぱなしで疲労し尽くした光希だったが、扇華を少しでも元気づけるために余裕を装う。


「うわぁ──!! 俺の腕が、腕がっ!!」


腕を切り落とされ山賊はその衝撃により錯乱状態に陥る。


「扇華、何があったの?」


「それは‥‥」


扇華が話し始めようとした時、光希は背後から強い殺気を感じ取り、肩越しに視線を送る。


「裏切られたんですよ、僕達に」


光希の視線の先には、両手に二本ずつナイフを持った藤堂が立っていた。光希は瞬時に状況を把握すると、扇華に自分が通って道を使い逃げるように指示する。


「確か、途中で助けた商人の一人だったかな」


「えぇ、そうです。まっ、最初から貴方達に近づくための自作自演ですけど」


何か言いたげたな扇華だったが、光希が手を払い再度逃げるように示唆する。光希は扇華がその場を去った事を横目で確認すると、今度は敵の様子を観察に入る。


光希の周りにいる山賊は十人。その中でも藤堂の隣にいる二人はかなりの実力の持ち主で、一人は金髪で身軽な装備で、もう一人は赤髪で装甲などの重装備を着けていた。


「いや〜、本当に騙されてたね。傭兵達はどうしたの?」


光希は瞳孔を開ききった目で藤堂を見据え、とてつもない怒気を放つ。


「全員、背後から一刺しです」


光希の中の何かが弾ける。自身の加護を最大限まで発揮し、一瞬の間で消える。


「死ねよ」


暗闇の中から聞こえた小さく呟くような声がその場に反響する。藤堂と他二人は光希が仕掛けてくる事を察して身を守りに入る。


「 ”流土” 」


金髪の男が言霊を唱えるや否や、地面から大量の土が浮かび三人を守るように土塀を作る。


「 ”水” 」


光希は五行の型の中段の構えを取ると、全体重を乗せ切った重い突きを繰り出し、土塀に大きな穴を開ける。土塀が破られると、待っていましたと言わんばかりに赤髪の男が光希の前に立ちはだかる。


今までに何千回も繰り返し、一切の無駄も無くなった剣筋で赤髪に斬りつける。この攻撃は普通の人では反応出来ない。だが赤髪もまた身体強化の加護を受けていた。


刀が首に届くスレスレで手甲を着けた腕を滑り込ませ、刀を静止させる。光希には何の動揺もなく冷静に、一旦後ろに飛び退くと、僅かな安堵が生まれた赤髪に急接近して連撃を浴びせる。


「 ”土塊つちくれ” 」


光希に向かって展開されていた土塀からテニスボール程の大きさの玉が多数飛んでくる。光希の注意が薄れると、赤髪は光希から大きく距離を取る。


全部躱す事もできなくはないけど‥‥、そう考えた光希は野球のバッティングフォームにも見える構え、八相の構えを取る。八相の構えは刀を持つ際に必要な力が少なく済む。


「 ”陰” 」


八相の構えが得意とする攻撃の一つ、袈裟懸け。光希はそこからさらに高速の斬撃を放ち続ける。飛んできた土弾は全て光希の刀にぶつかり、粉々に砕け散る。


「まじっすか」


土塊を放った金髪の男か驚愕の念を漏らす。


光希は技が終わると一気に藤堂の目の前まで駆け、その首へと刀を突き出すが、藤堂はそれを体を大きく横に倒す事で躱す。


「 ”天” 」


光希は突き出した態勢から刀を振り上げると、バランスを崩している藤堂へ振り下ろす。


その斬撃が藤堂に届くより速く、赤髪が光希の頭を殴打する。手甲を着けた拳は素手の数倍の威力を持ち、光希の頭を強く揺らした。


「くっ、そ」


光希はふらつき足でどうにか地面を踏みしめ、顔を上げると、手の平を向けた藤堂が微笑していた。


「はい、お疲れ様。 ”拒物” 」


長年にわたり戦い続けた戦士の勘というやつなのか、光希は迷う事なく全力でバックステップをする。宙にいる光希は何かに引っ張られるかの様に後ろに加速すると、ありえない速さで木々を突き倒しながら飛んでいく。





先行した光希を追う翔は途中、聞こえた爆音に不穏を抱きながらも足を動かし続ける。その足取りは疾風の加護を受けた光希には到底及ばないが、この世界の一般レベルを遥かに超えていた。


(さっきの音、今も戦闘中なのか? 光希が行った以上は大丈夫だと思うが‥‥)


翔が思慮していると、正面に人の気配を感じ慌てて柄に手をかける。目を凝らして様子を見るが、光源が少なすぎ何も見つける事が出来なかった。


(誰だ? ゆっくりと近づいて来ているが‥‥その後ろにも数人いるな)


翔は五秒程目を瞑ると、ゆっくりと歩く気配へと足を向ける。


先程とは違い、突然襲われる事も顧慮していた翔は慎重に、だが遅すぎず近寄る。ある程度接近した翔は相手の正体を明らかにするために右手の人差し指と中指を立て、電流を流し電気回路を作った。


闇の中に突然、光が現れ驚いた何者かは大きな音を出しながら、逃げるように跳ね上がる。発光現象によって互いの顔が露わになると両方の肩の力が抜けた。


「扇華か、驚かせんなよ。その怪我、大丈夫か?」


翔は扇華に歩み寄りながら、その体の怪我を観察する。


(この怪我の量‥‥普通じゃない。血も乾き始めてるしかなり長い間戦ってたのか)


切り傷、打撲、擦り傷。全身傷だらけで、翔の知る余裕のある扇華とは明らかに違っていた。


「えぇ、何とか。それよりこの先で光希が残って戦ってるわ。早く援護に回ってあげて」


「誰と戦っているんだ?」


「あたし達が、助けた商人達よ」


「そうか‥‥‥‥えっ?」


翔は扇華の口から聞かされた予想外の事実に思考が停止させられる。


(あの人達が敵? って事は洞穴あそこもバレてたのか? それに──)


「他の人達は、どこにいるんだ?」


裏切りによる奇襲。普通じゃ、対応出来ないであろう戦略。翔にも結果はわかっていた。でも、きかずにはいられなかった。


「洞穴で全滅したと思うわ‥‥守れなくて、ゴメンなさい」


悲壮感、喪失感、無力感。様々な思いが翔の中で渦巻いていた。この結果は決して翔のせいではない。それはわかっているはず。だか、翔は自らが大きな失敗を犯したかの様な気持ちになった。


(くっそ。俺がもう少し気をつけていれば防げたかもしれないのに‥‥)


翔は背後からの視線を感じたため、周辺の気配を探り始める。翔の落ち込んでいた様からの急変に扇華は首を傾げた。


(半径十メートル圏内に四人、三百メートル圏内には十人超か。こいつらが襲った奴らか)


本来、怒って正確な感知が出来ないはずなのに、翔の頭は極限まで冴え、かつてない集中力を見せていた。


(まずは、半径十メートルから片付けるか)


翔は左手で刀の柄、右手で鞘を掴むと、緩やかにツーと小さな金属音を響かせながら抜刀する。


「扇華、少し待ってて」


翔が攻撃の意思を示している事を悟った山賊達は、躊躇いながらも弓を引き絞って翔に向ける。


翔は弓の弦を摘んでいる指が離れ、翔に向かって一直線に飛来する矢をしゃがんで避ける。もちろん、山賊の弓の腕はかなり高いが、それを上回る翔は驚異的な反射神経で躱していた。


翔は態勢が低い状態から一気に加速し、矢が放たれた所へと向かう。山賊達もすぐに逃亡を断念すると、武器を取り翔へと立ち向かう。その表情にはどこか諦めがあり、自らの死を覚悟していた。翔は一度立ち止まり、刀を正眼で構える。


(鉄爪、短槍、曲刀、弓、まずは弓からだな)


翔と山賊達との距離間は五メートル。翔は射程範囲と判断するとナイフを腰から抜き、電気を纏わせる。弓使いも翔がナイフを出すのを見ると、慌てて弓を引き、翔へと向ける。他の山賊はこれ以上の接近を危険に感じ動けず、その場は硬直状態に陥る。


先に動いたのは弓使いだった。覚悟を決め、改めて翔の胴体のど真ん中に狙いをつけると素早く矢を放つ。弓使いの指の動きだけに着目していた翔は矢が弓から離れた直後には、すでに体を右に逸らし矢の軌道から外れていた。


翔は矢が自分の横を通り過ぎるのを確認すると、手に持ったナイフをお返しとばかりに弓使いへ投擲する。矢が外れたショックで一瞬硬直してしまった弓使いにナイフから逃れる術はなく、左胸に深々と刺さり電流により意識を奪われる。


(これで遠くから殺られる心配はほとんどないな)


仲間を殺られた山賊達は恐れる事なく、武器を掲げて走り出す。対する翔は刀を正眼で構えたままその場から動かず、相手が来るのを待っていた。


短槍を持った男と翔とが互いの間合いに入った時、他の二人は少し離れた位置から虎視眈々と翔の首を狙っていた。


(正面から短槍、左右に分かれて鉄爪と曲刀か。まともに戦ったら不利だな)


短槍の男は守りの姿勢を保ちつつ、時折、隙を見せることで攻撃を誘っていた。短槍の男と戦えば左右から、かと言って左右どちらかに仕掛ければ背後ががら空き。よく考えたものだな、と翔はため息まじりに関心する。


翔は胴体が無防備になる事を承知の上で上段の構えをとる。翔は高々と掲げられた刀を見せつけながら、横に注意を向けた。短槍の男も翔のあまりに無防備な姿に幾度となく刺突を考えるが、カウンターを恐れ動ずにいた。しかし、翔が狙っていたのは正面の男ではなく左にいた男だった。


翔は右足を軸に九十度左向きに回ると、刀を振り下ろす動作をする。一つだけ違った点は途中で手の力を抜いた事だった。遠心力により翔の手を離れた刀は回転しながら、咄嗟に鉄爪を構えたガードをすり抜け、胴体に穴を開ける。


翔の大胆な行動に注意を奪われた短槍の男は翔から目を離してしまう。気が付いた時には集雷を使った翔が肉薄し、その意識を奪う。


翔が残り一人となった山賊を見やると、少し遅れて怖気付き、弧を描く様にしなった曲刀を体を隠すように構える。


「そんなに怖がる必要はないだろ。俺、今丸腰だぜ」


敵の言葉ながらもその事実に気づいた山賊は逃亡と言う選択肢を捨てる。よし、と内心でガッツポーズをした翔は無手のまま山賊にゆっくりと近づく。


二人の距離が一メートルを切ったところで、山賊が素早い右薙を繰り出す。曲刀の独特の形状に間合いが掴みきれていなかった翔は安全策に大きく後ろに下がる。


山賊は翔が引いた今がチャンスだと確信し、袈裟懸け、切り上げを連続して繰り出す。紙一重で避けた翔にトドメと言わんばかり、曲刀を最大限に生かした突きをする。


「やっべ」


剣先が翔の胸に触れる直前、刀の背の部分を手の平で弾く事でその軌道を逸らす。翔はそのまま近づいて腕を首に回して拘束すると、後頸部に手刀をいれ無力化する。


「終わったようね」


緊張が解け、全身の力を抜いて休む翔に扇華が声をかける。


「あぁ、少し危なかったけどな」


扇華は気絶している弓使いからナイフを引き抜くと、付着した血糊を拭き取ってから翔に投げ渡す。


「光希の相手の加護は拒絶よ。さぁ、早く行って」


(これだけ急かすって事は、よっぽど強い相手なんだろうな。だが、ここに扇華を置いて行くのもな‥‥)


下を向けながら考え込んでいた翔がいきなり顔を上げる。その表情にはシワが寄り、いかにも嫌そうな顔つきだった。


「チッ、またかよ」


「あら、どうかしたの?」


翔は扇華の質問に答える事なくある一方向に走り出す。走る途中、刀が刺さって悶えている山賊からえぐりとるように刀を引き抜く。


(‥‥今度は六人か。さっきより多いな。四人が前にいて、その後ろに二人、後方支援か。速攻で決める)


翔は四人組を発見すると迷わずに突撃する。相手は翔を警戒していたのか一番前にいた剣士が翔の刀を弾く。一旦距離をとるため、後ろに下がった翔は剣士と相対する。


(ん? 後ろにいる三人の内一人‥‥弓を持ってる? じゃあ、奥にいる二人は後方支援じゃないのか?)


翔の中で生まれた疑問は一瞬で解決した。何の前触れもなく後ろにいた一人が倒れる。一人がそれに気づくが、またその者が倒れる。もう一人は二人が死んでいる事に気づくと慌てて周りを見渡し、何かが光った、と気づいた時には高速で飛んできたナイフがその命を奪う。


最後に死んだ者の呻き声を聴いた剣士はちらっと後ろに視線を向け、仲間が全滅している事に気がつく。


「なっ!? これは、どういう事だ?」


後ろを向きたい剣士だったが、目の前の翔か目を離すわけにはいかず、少しづつ後ずさる。


翔が一気に決めよう、と左足を前に出した時、遠くに何かが光るのが見えた。翔はそれが何かを理解すると、口角を上げ、刀を鞘に収める。


敵の目の前で獲物を収めると言う翔の謎な行動に困惑する剣士は後ろから僅かに殺気を感じ取り、体を反転させる。


剣士に猛スピードで槍が飛んで来る。それを見て剣士はすぐに回避行動に移った。が、剣士を追うように槍が進路を変え、その心臓を貫く。息絶えた剣士は力なくその場に倒れると、暗闇から二人の人が現れる。


「大雅、それに愛梨か。よく生きてたな」


大雅は死体から槍を引き抜く。その後ろを愛梨が付いて回る。


「あぁ。後ろからぶっさ刺されて死ぬかと思ったぜ。だがまぁ、山賊あいつらが去った後に愛梨が治療してくれて、どうにかな。今、どういう状況だ?」


槍を肩に背負った大雅は戦場を求めるかのように、嬉々として尋ねる。


(大雅はかなりの実力者だ。それに治療系の加護の愛梨もいる。これなら‥‥)


「大雅、愛梨」


翔は真剣味のある重々しい声で二人の名前を呼ぶ。


「あっ?」


「な、に?」


(この判断が正しいかなんてわからない。でも──)


「扇華の事を頼んだ。俺は‥‥光希の援護に行く」


あまりに突拍子をない頼みに大雅は口をあんぐりとさせる。


「はっ? どういう事だよ?」


「悪い、説明してる時間がない。詳しい事は扇華に訊け。‥‥じゃあな」


「ちょっ‥‥」


翔は二人が質問する暇すら与えずにその場を去る。森を駆ける翔は光希の元へ向かうため、闇の中へと消え去っていく。

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