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扇華VS藤堂の時

「カラスにいた頃はただひたすら奪い続けていた。そんな時、王は僕に自由を与えてくれた。妻と、渢と出会わせてくれた。だから、決めたんだ。この国のために、恩返しのために戦おうって」


(恩返しのため‥‥か)


翔と光希は星空を見上げながら、かれこれ三十分程話し込んでいた。


「翔もいずれ見つかると思うよ。がむしゃらに生きていれば自分の戦う理由は見えてくるはず。‥‥そろそろ戻ろっか。少し話すぎたね」


光希は大岩の上から一気に飛び降りると、洞窟のある方に向かって歩き出す。


(今は、目の前の事に集中力するか)


翔は少しだけ軽くなった足取りで光希の後を追いかける。




大岩から歩き始めてから数分後、光希は何の前触れもなく立ち止まる。少し経ってから翔はその理由を理解する。


「人間‥‥か?」


気配察知に自信のない翔は、確認するために質問する。


「うん、それも一人じゃないね。十いや‥‥二十くらいかな」


(山賊にしては変なところにいるな。まさか、扇華たちか!?)


不安に駆られた翔は確認をしに行こうと方向転換をする。気配察知に集中している光希は動こうとしなかった。


「待って! ‥‥どうやら一人を十数人で追っている。追われるいる人もかなり手練れだと‥‥‥この気配、扇華?」


光希は信じられないといった様子で固まる。


(どういう事だ? 扇華は洞穴にいるはずだろ。そろが何でこんな所に一人でいるんだよ)


翔と光希はすぐに視線を合わせると、無言のまま走り出す。




翔と光希が扇華の気配に気づく少し前、扇華は洞穴を飛び出し森の中を一人で疾走していた。その表情にいつものような余裕はなく、左腕に切り傷から血が流れ出ていた。


「っう‥‥まさか、敵だったなんてね」


扇華は止血のため手で傷口を覆いながら背後を確認する。


翔と光希がいない間、扇華は洞穴の中でほとんど警戒していなかった。理由は二つ。一つは入り口に見張りが立っている事。そして、もう一つが大人数でいる事。


しかし、その安心は裏切られ入り口から十人ほどの山賊が乗り込んで来た。人数的に有利と考えた扇華は早々と決着をつけるべく、前に出た。


その時、予想外の出来事が起きた。途中で助けた商人達が扇華が前に出ると同時に傭兵達を背後から攻撃する。あまりに突然の事に誰も反応する事が出来ず、傭兵、御者は全滅。扇華は命からがら洞穴から逃走した。


「傷口も、浅くはないわね」


先ほどから止まる様子のない出血に焦りが募る。


何かの風切り音が聞こえた扇華は咄嗟に右に転がると、扇華のいた場所を鉄矢が通り過ぎる。


「あら、しつこいわね」


敵の数を把握し、獲物である鉄扇を構える扇華。扇華が目視できる限りでは六人。扇華は気配察知が苦手で視覚以外から人数を把握する事ができなかった。


「おいおい、任務ほったらかして遊んじゃ駄目だろ」


商人の格好をした男が扇華を煽り始める。


「あら、身分を偽るほうがどうかと思うけど、ね!!」


扇華は言葉を言い切ると共に、鉄扇で空を切る。その軌跡から不可視の風の刃が発生し、扇華を煽った男の首を掻っ切った。


「気をつけろ!! 見えない斬撃が飛んでくるぞ!!」


扇華は追っ手に息継ぎをする暇も与えずに空刃くうはを使い続ける。


ボウガンを持った山賊が扇華に矢を放つ。扇華はそれを開いた鉄扇で弾き、お返しとばかりに空刃を返す。


扇華の後ろの草が激しく揺れたと思った次の瞬間には、扇華の背後に剣を振り上げた男が立っていた。


「死ねぇ!!」


扇華は男の力強い振り下ろしを、今度は閉じた鉄扇で受け止めるが男の力に押され気味になり、徐々に押し下げられる。


「荒っぽい男は‥‥‥嫌いよ」


扇華は相手にバレないよう、少しづつ空気を肺の中に貯め始める。


「俺はあんたの事、好みなんだけどな」


「そう‥‥全然嬉しくないわ。死んで」


扇華は男がキレてより力を込めるタイミングを見計らって、肺にある全ての空気を一気に吐き出す。弾丸のような勢いで吐き出された空気は男の顔面にぶつかり、体を大きく退け反らせ、扇華はその隙を逃さず一瞬で仕留める。


「後、何人かしら?」


扇華は他の敵への威嚇の意味も込めて睨みつける。


「次に死ぬのは、貴女ですよ。扇華さん」


商人達の代表をしていた若い男が不気味な笑みを浮かべながら扇華に歩み寄る。


「あら、面白い冗談ね。あなたが殺るのかしら?」


扇華は男の纏う異常な雰囲気を感じとり、鉄扇を顔の前に構える。


「そんなに怯えて、貴女らしくもないですね。僕が怖いんですか?」


扇華は図星を指され、自分を誤魔化すかのように殺気を出す。


「うるさいわね。 ”竜巻” 」


扇華は鉄扇を閉じるとその先端を男に向ける。すると鉄扇の周りの大気が高速で回転を始め、扇華の言霊で放たれる。男は両手を体の前で交差させると、腰を落とし地面を強く踏む。


男と空気の渦がぶつかると、瞬く間に空気が霧散する。男は少しもよろめく様子もなく、余裕そうに額の汗を拭っていた。


「そんなに焦らなくても──」


「黙りなさい!!」


最大、とまではいかないまでも自分の中での高威力技をアッサリとガードされ、扇華は動揺していた。


「まぁ、まずは自己紹介でもどうです? 僕は藤堂と言います。職業は山賊の頭領をやっています」


扇華は四方を囲まれ、完全に逃げ場を失っていた。打開策を見つけるまでの時間稼ぎ、と割り切って藤堂の提案に乗っかる。


「そうね。あたしは扇華。まぁ、よく調べてるんでしょうね。ほんと、悪趣味ね」


扇華が把握する限り、右に三人、左に四人、前に藤堂込みで三人。流石に後ろを見る隙はなく、後ろの人数だけはわからなかった。


「僕、結構扇華さん好みなんですよ。可能性あります?」


「嬉しいわ。あたしの為を思うなら逃がしてくれないかしら?」


「それは無理ですね。仕事ですから」


「仕事?」


思わず藤堂の発した単語を再読してしまう。


「あっ、今のは聞かなかった事にしてください。怒られちゃうんで」


逃げるなら右、決心を固めた扇華は動き出すタイミングを計る。


「ええ、いいわよ。ところでさっき、あたしの攻撃を受け止めたの。あれ、あなたの加護かしら?」


「さぁ、どうで──」


藤堂はわざとらしく首を横に倒し、知りません、と言いたげたなポーズをとる。刹那に扇華は右側の木々の中に駆け出す。


突然に出来事に慌てて武器を構える山賊だが、扇華は無詠唱の空刃で無力化すると、少しでも藤堂から離れる為に全速力で走る。





走り始めて二、三分が経ち、扇華の息も切れ始める。夜の山だと言うのに一向に撒ける気配はなく、後ろには藤堂を先頭に山賊達が追っていた。


「”気弾”」


不意に扇華の背後から光る球体が猛スピードで飛んでくる。扇華は進行方向を左寄りにし、減速なしで避けた。


「気弾‥‥天使の加護だったかしら」


扇華は相手の加護を分析していたが考える暇もなく、今度は三発の気弾が右側、左側、扇華と逃げ場を与えないように飛来する。


「くっ、”竜巻”」


扇華は反転し、自分に迫っていた一発の気弾を竜巻をぶつけ、相殺する事で着弾を免れる。扇華が体勢を立て直した時にはすでに、藤堂が目の前に立っていて、再び逃げる事は出来そうになかった。


「いやー、速いですねー。一瞬、振り切られるかと思ってヒヤッとしました」


藤堂に追いついた山賊達は藤堂の後ろに待機する。


「あら、あの程度できつかったのかしら? 随分と軟弱なのね」


扇華は出来うる限りの虚勢を張るが、額から滴る汗は隠す事が出来なかった。


「扇華さん強がりますね。どう見ても辛そうですよ」


口を閉ざす扇華。逃亡が絶望的になった今、戦う以外に選択肢は無い。


覚悟を決めた扇華は目くらましに三発の空刃を藤堂に放つ。藤堂が空刃を手で弾いている間にやや左寄りに接近する。その距離、約二メートル。


「”真空”っ!!」


藤堂が反応するより速く、右手を向けて言霊を叫ぶ。死角を突かれた藤堂に無数の空刃が襲う。藤堂は咄嗟に体を守るため、手を前に出す。扇華は完全に決まったと笑みを浮かべたが、同じく藤堂も笑みを浮かべる。


「 ”拒空” 」


藤堂はゆっくりと音読するように詠む。詠み終わると、藤堂の両手から激しい突風が吹き、扇華の放った空刃を呑み込み、扇華の体を押し付ける。


体全身に力を入れ扇華は何とか踏み止まると、すぐさま攻撃に転じる。鉄扇を投げ捨てると、手を広げ周りにある大気を凝縮し始める。藤堂はその様を、何もせずに黙って見ていた。


「惜しかったわね、これで終わりよ。 ”空圧” 」


直径三十センチほどの空気の球体を作り終えると、藤堂に向かって押し出すように投げる。球体は扇華の手を離れると一瞬で加速し、藤堂の目の前に現れる。


その速さに藤堂は目を見開き驚くが、すぐに切り替え左手でのキャッチの姿勢を取った。


高圧球と藤堂の左手が触れると、高圧球が爆音を発したて弾け飛ぶ。その威力は凄まじくその余波は辺りの木々を大きく揺らし、周りで静観していた山賊達の体をよろめかせた。技を使った当の本人ですらその反動で飛ばされる。


今度こそ殺った、と確信づいた扇華は受け身を取ると投げ捨てた鉄扇を拾い、他の山賊への警戒を始めた。山賊達も頭領が殺られた事に動揺し、森の中に山賊達の怒鳴り散らす声や、泣き喚く声が響く。


「黙りなさいっ!!」


扇華の殺気を込めた言葉は一瞬にしてその場を凍りつかせた。


「死にたくない人は逃げ──」


扇華が話している途中、横から強い衝撃を受け転倒する。


「勝手に殺さないでください」


「痛っ、何で‥‥!?」


無傷、とまではいかないまでも藤堂は特に目立った重症を負っておらず、悠々とその場に立ち地面に転がる扇華を見下ろしていた。


「流石に死ぬかと思いました。あの距離であの威力は、正直きつかったですね」


藤堂の蹴りを受けた肋骨は折れ、激痛が絶え間なく扇華を苦しめていた。


「そう‥‥あなたの加護、わかったわ」


洞穴で空刃が弾かれた時から考えていた答えが遂に見つける。


「へぇー、わかったんですか」


感心した藤堂は手を組み、聞く態勢を整えていた。扇華は一瞬、仕掛けてやろうかしら、とも考えたが無駄になる事が想像できたので止める。


「あなたの加護、それは引き離す力‥‥拒絶、と言ったところね。どう? あってるかしら」


首を縦に振って、うんうんと言いながら喜ぶ藤堂。


「よく気づきましたね。その結論まで至った人は六人目です。最後にどこでわかったか、お聞きしても?」


「‥‥いいわよ。最初に気づいたのはあたしの竜巻を軽々と防いだ時ね。あの時点で守護系ではない現象系であると確信したわ。理由は少しも動かなかった事。幾ら強い加護でも威力をゼロには出来ないわ。拒絶と確信を得たのは真空を防いだ技の攻撃方向よ」


「攻撃方向ですか?」


藤堂は首を傾げる。


「えぇ。あの技はあなたが手の平を向けた方角にだけ激しい風が吹いていたわ。一見、風の加護にも見えるけど最初に気づいた事を総合して考えて、反発する力だと確信したわ」


「そう、ですか。なかなか鋭い観察力です」


「‥‥」


会話が終わりの方向に向かっている事に感づいた扇華は引き伸ばしの策を考えて始める。その沈黙が結果として藤堂の決断を早める事になった。


「さて、そろそろ死んでもらいましょうか」


洗礼された動きで藤堂は腰からナイフを抜くと、頭の上に振り上げる。扇華は自然と鉄扇を握る力が強くなる。


「何か、言い残すことはありますか?」


藤堂は最後の慈悲として、遺言を聞こうとする。


「そう‥‥これで、最後ね」


「はい?」


「これが、最後よ。 ”烈風” 」


扇華は大きく飛び退くと、滞空中に鉄扇を大きく開く。そして、扇華は正真正銘の最後の切り札を使う。

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