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見回りの時

翔達は山賊を倒した後、今後の事について話し合っていた。その場にいたのは、翔、光希、扇華、兵士代表、御者代表、山賊に襲われていた商人達。十人の商人に加え、山賊対策に五人の傭兵の計十五人いた。


「まぁ、要するに交易の為に荷物を積んでいたが、そこを山賊に狙われたって事?」


商人達の中で一番若かく、翔と同年代くらいの青年が代表して質問に答える。その様子からは余裕が感じられ、かなり場慣れしている事がわかった。


「はい、その通りです」


「ふーん、そっか。扇華、どうする? 」


光希は扇華に意見を求めた。


「そう‥‥ね。このまま放置して行くのも後味が悪いわね。一緒に次の村までは行きましょう。いいわね?」


「それは、とてもありがたいです」


「うん、いいんじゃないかな」


「私も問題ないと思います」


「それがいいだろ」


「‥‥‥私達には関係ありませんが、いいと思います」


扇華の提案を皆は快く受け入れる。


「異論はなしね。この後はどうするべきかしら」


日もかなり低くなり、じきに夜がくるのはわかりきっていた。


「流石にここで野営をしたら、魔物が寄って来ちゃうからね」


光希は沈黙を破り、意見を出す。


(ここにいると山賊の逆襲の可能性もあるな)


「ここは山賊が出やすいんだから、もっと安全な所に行こう」


「確かに留まるのは良策とは言えませんね」


兵士代表が翔の提案に肯定的に返す。


「うん、それじゃあ決まりだ。すぐに移動しよう」


(光希の言う通りすぐに移動するべきなんだろうけど‥‥‥)


「どこに、行くのですか?」


傍観を決め込んでいた御者は翔の思考を代弁するかのように質問した。


光希は、忘れていた、と言わんばかりに手で顔を覆い黙り込む。


「そうね。不用意に動くのは危険よ」


扇華の言葉で場が再び沈黙に包まれる。動くべきか、否か。全員がこれからどうするべきか考えていた。


(ここにこのままいるのは危険だ。だからと言って何もわからないまま移動するのもリスクがある。どっちがいいか‥‥)


「あの、一つ提案があるのですが‥‥」


若い商人が自信なさげに口を開く。


「提案? どんな提案だい?」


「はい。私達は何度かこの道を通っていて、近くに大空洞があるのでそこに行けば安全かと」


半ば諦めムードだったがその言葉に全員が目を見開いて若い商人を見る。


「その場所、わかるわよね?」


扇華が急かすような口調で青年に迫る。


「えぇ、正確に記憶してます」


「よし!! 出発だ」


光希の言葉でそれぞれが支度を始める。




商人達の言った通り、山道から少し逸れた場所に大きな洞窟があった。以前森で翔達が休んだ長い道が続く洞窟とは違い、ただ広い空間があるだけだった。


各自、自分達のスペースを決めて武器の手入れや商品の確認などをしていた。翔、扇華、光希は三人で固まって休む事になった。翔は荷物の整理をしながら辺りを何気無く見渡す。


(出口は一つ、隠れるスペースも無し。戦闘が余裕でできるほどの広さ‥‥‥あれ?)


翔の目線がある一点で止まった。


(この壁‥‥人の手で掘られた後がある。僅かだが足跡も残っている。誰が、いつ、何の為に?)


翔の中で大きな疑問が生まれるも、光希に声をかけられ思考が止まる。


「翔、少し見回りに行こうよ」


「何でだ?」


光希が説明するより早く扇華が答える。


「今、商人達と話し合ったんだけどね、近くの魔物を減らしてきて欲しいの。それに山賊が尾行してきた可能性もあるし」


あぁなるほど、と翔は納得すると麒麟を手に取ってから立ち上がり、光希と共に外に出る。




美しい三日月が空に浮かび、その月を眺めながら翔は山を徘徊していた。大空洞を出てから三十分ほどが経ったが、まだ一度も魔物に会う事はなかった。


「それにしても今夜はいい月だね〜」


光希も翔と同じく空を見上げていた。


「そうだな。こんなにきれいな月を見たのは久々だ」


(こんなに落ち着いて月を見たのは、この世界に来てからは初めてだな‥‥)


翔は山賊の死体が転がる光景がフラッシュバックするが、すぐに別の事を考え気を紛らわせる。


「なぁ、光希。さっきの洞窟の──」


光希は翔の口をいきなり手で塞ぐ。表情は至って真剣で辺りを警戒していた。


「魔物だよ。それもかなりの数‥‥僕達を狩りに来てるね」


光希に言われ、辺りに気を配る翔だが一向に敵の気配は掴めなかった。翔は口を塞いでいる手をどかすと、


「俺は感知できない‥‥」


翔は近くに何の気配も感じる事ができなかった。


「うん、そうかもね。多分、上級だと思うよ」


(上級‥‥か。ぎり、いけるか?)


「安心して。今の翔なら勝てるよ」


「っ!!」


翔の警戒範囲に何かが足を踏み入れると同時に翔は刀を抜き臨戦態勢に移る。


黒豹くろひょうだね。攻撃方法は爪と牙、スピードに特化したタイプだからパワーはそこまで高くないよ」


一匹の黒豹が二人に向かって爆走するのを感じた翔は刀を構える。


「わかっ、た」


翔は返事をするのと同時に飛びかかって来た黒豹の爪を刀で受け止める。黒豹は全体重を刀にかけ、翔に食らいつく。


「っう‥‥”放雷”!!」


痺れて動きの取れなくなった黒豹を翔は刀で両断すると、大きく飛び退いて黒豹との距離を取る。


「いけるね?」


光希は軽く黒豹の攻撃を躱しながら、翔の様子を伺う。


「まぁ、なんとか反応はできるけど‥‥」


翔は刀を握り直すと辺りに潜んでいる黒豹を探る。


「なら、僕が引きつけて倒すから翔はその取りこぼしをお願い」


「えっ?」


翔が慌てて光希の方を向いた時にはすでに遠い木々の奥で、その後ろ姿を何匹もの黒豹が追っていた。


(ちくしょうー。やるしかねぇか)


翔は息を整えると、近くにいた黒豹に向かって駆け出す。




「翔は‥‥うまくやれるかな?」


光希は十四匹の黒豹に追われながら一人残した翔の心配をしていた。本来、人間の数倍も足が速いはずの黒豹もやっとの事で光希についてきていた。


光希も翔の実力なら問題ない事はわかっているのだが、それでも不安な事に変わりはない。


「はぁ〜、やっぱり心配だな」


光希が僅かにスピードを緩めと、黒豹が光希に噛みつこうと一気に接近する。


「”陽”」


光希が剣先を落とし、刀を右腰に構えると、高速で地面すれすれをなぎ払い、三匹の黒豹を肉塊へと変える。


五行の構え。剣術の基本の五つの構えの事で、上段の構え ”天”、中段の構え ”水”、下段の構 ”地”、脇構え ”陽”、八相の構え”陰”。光希はこの構えを自分の加護”疾風”と組み合わせ、五つの技を生み出した。


一瞬で仲間が殺られ動揺する黒豹を光希は見定めると黒豹に向かって一気に駆け出す。


「”天”」


光希は頭上に構えた刀を無駄の無い動きで斬り下ろし、黒豹を両断する。


「あと、十匹」


光希は迷いなく黒豹の集団の中に飛び出すと、黒豹から逃げていた時とは格段に違う速さで攻撃を躱し続ける。空振りをして無防備になった黒豹を次々と仕留めていく。





翔は一人、光希の残した黒豹との戦いに明け暮れていた。


「くっそ!! ”集雷”」


翔は胸に噛みつこうとしてきた黒豹の意識を奪う。次なる襲撃に備え刀を構える翔だったが、黒豹が襲ってくることはなかった。


「終わった‥‥か?」


翔の質問に答えるものは無く、沈黙が続く。死の恐怖から解放された翔はその場にへたり込み、仰向けに寝っころがる。


(こんな世界にいたら‥‥‥死んじまう)


血がべっとりと付いたか刀を眺め、命懸けの戦いを思い起こす。


「こんな事‥‥いつまで続くんだよ」


翔はぼそりと独り言を言った。突如、翔の視界に映っていた暗い空との間に何かが割り込んできた。


「翔、どうかしたの?」


「光希!?」


翔は軽く驚き、勢い良く起き上がる。


「もう、終わったのか?」


翔が倒した黒豹は四匹だったが、


(光希について行った黒豹は、十匹以上いたはずじゃ)


「うん、少し時間がかかっちゃったけどね。翔は大丈夫だった?」


「あぁ、怪我はしてない」


翔は自分の無事を光希に見せつけるかのように手を開く。


光希は電撃により気絶している黒豹に目をやると、刀を突き刺しその命を絶つ。


「少し、休もっか」




死体が散乱する場所で休憩するわけにもいかず、二人は少し離れた大岩の上まで移動した。


山の上だからなのかやたらと綺麗な星空が広がり、光希はそれを眺めるながら倒れこんだ。


「星が、綺麗だね」


翔は光希の隣に腰を下ろし、顔を上に向け、星を見上げた。


「‥‥そうだな」


「翔もだいぶ強くなったね。ほら、さっき黒豹を倒してたし」


「あぁ」


「僕も大変だったよ。結構数が多くてね」


「そうか」


会話が途絶え、川の流れる音だけが、静かに響き渡る。


「なぁ‥‥」


翔は星空を見上げたまま、僅かに口を開く。


「何だい?」


(今日、戦っていて思った。俺は死ぬ事を恐れながら刀を振るい、戦った。でも、こんな事を永遠と繰り返すなんて無理だ。いつか、死ぬ。だから思ったんだ。なぜ──)


「なぜ、光希は戦うんだ? 死ぬ事が怖くないのか?」


光希は横になったまま、顔だけを翔に向けると、どこか悲しげな目になる。


「僕の戦う、理由かい? 僕にとっての戦う理由は、恩返し、かな」


「恩返し?」


光希は体を起こして、翔の横に座る。


「少し、昔話をしよっか。僕が受けた返しきれない恩について」





十七年前黒神帝国の首都にある、とある小さな家庭で一人の少年が産まれる。その少年の名を氷室光希と言った。

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