1 ― 6 僕の驚愕
「分かりました。ありがとう、お母さん」
とうとう言っちゃったよ。なんでかな。こう、急に恥ずかしくなってきた。さっきまでウジウジしていた自分がウソみたいに、今の僕はハキハキしていた。僕の中の壁さえ取っ払ってしまえば、あとは思うがままに動くだけ。それがいつもの僕のやり方だった。時間がかかるだろうと思っていたことが、アルベルタ……、いや。お母さんがチャンスをくれた。僕が変わることが出来るチャンスをくれた。それに僕が乗らないと、このままずーっと延びていただろう。きっかけが大事なのかな。今の僕はきっと顔が真っ赤だろう。暑い。のぼせたかのようにポカポカする。それを隠すために、僕はお母さんに抱きついた。
「あらまぁ……」
お母さんはそれだけ言って、僕を抱きしめ返してくれた。あぁ、なんて暖かいのだろうか。今まで僕自身だけで生きていかないといけないと思っていたけど、こうして頼れる人が出来た。抱きしめられていたけど、息が苦しくなってきたので少し離れた。頼れる人が出来たという実感が沸いてきた瞬間、僕の何かが脆く崩れ去っていった。僕が今まで大事に大事にしていた僕の意識が崩壊していく。そう自覚したときにはもう遅かった。僕の、いや、『サキ』としての頬には一筋の涙が流れていた。もう我慢しなくていいんだ。もう甘えてもいいんだ。そう思える人に出会えたことに、僕はこの世界に来てよかった、と思ったのだった。
☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭
あれ、ここはどこだろう。目を開けてみると、見覚えのある天井が見えた。あれ? 僕はついさっきまでアル……、違う。お母さんの部屋に居て一緒にご飯を食べていて……。あぁ、そっか。泣きつかれて眠ってしまったのだっけ。なんだかちょっと恥ずかしいな。でも、それはそれでいっか。
「……あれ?」
周りを見渡すと、どうやら僕はアメリアさんの部屋で寝かされていたらしい。今はサキ、つまり僕の部屋かな? って、あれ? お母さん? なんでここに? お母さん、仕事は? そうしていると……。
―――コンコン
「失礼します」
この声は、シーラさんかな? 扉を2回叩いてから扉が開く。シーラさんの姿が見えると「あぁ、やっぱり」と思う反面、「なんでここに?」とも考えていた。
「あら、目が覚めたのね」
「はい。おかけ様で。ご迷惑をおかけしました」
ここで僕は頭を下げる。迷惑をかけてしまったのは事実なんだし。
「構わないですよ。サキお嬢様」
「お、お嬢様?」
「はい。それが今のあなた様のご身分です。代々この国を司りし王の家系。それが『オリヴィア家』です。サキお嬢様は王位継承権を持つ第1皇女殿下であらせられます。改めまして、私は皇后陛下であらせられますアルベルタ・オリヴィア様の専属侍女を務めております。シーラ・オリヴィアと申します。以後お見知りおきを」
……な、な、なんだってーーー!?
「えっ、えーーーーー!?」
ついつい大きな声を出してしまった。えっ、小心者の庶民代表のような僕が王位継承権を持つ第1皇女!? そんなことがあるの!?
そう唖然としていると……。
「? あれ、私としたことが、寝てしまっていたの?」
「えぇ、それはもうぐっすりと」
「ひゃ!? シ、シーラ!?」
「それよりも……」
「あら、起きたのね。よく眠れたかしら?」
ぼーっとしていた僕に声がかかったことに気付いたのはそれから1分ほど経ってのころだった。
「…………あ、はい。お母様。おかげさまでスッキリ出来ました。ありがとうございます」
「あらあら、そんな他人行儀にならなくてもいいのよ?」
「で、ですが―――」
「シーラから何か言われた?」
コクッ。僕は素直に頷いた。
「あら、やっぱり。どこまで聞いたのかしら?」
「……お母様が、皇后陛下ということと、僕が王位継承権を持つ第1皇女だということです」
「それであの驚きよう……。なるほどねぇ」
合点が行ったのかお母様は1人納得していた。僕には何のことだかさっぱりだけど。
「クラリス・ガーネット様のことを覚えているかしら?」
「はい、もちろん。……『様』?」
「そう、『様』。あのお方はこの国の、ひいてはこの世界の『神』と呼ばれる存在よ」
「えっ!? じゃああの時の驚き方は……」
「えぇ。それを知った瞬間、私は驚きとともに光栄に思えたわ。まさか、『神の子』付きだとは思わなかったけど」
「と、言いますと?」
「サキ。あなたにはこの世界を司る権限を持っているのよ。クラリス・ガーネット様の正当なる継承者でもあるわ」
「なっ……、なんだってぇ!?」
「あれ、シーラ言ってなかったっけ?」
珍しくシーラさんの素が出てる。
「と、ということは、僕はこの国の王位継承権を持つ第1皇女で、クラリス……、クラリス・ガーネット様の正統なる後継者。ってことですか?」
「えぇ、その通りよ」
うわぁ……。なんだか事が大事に……。
「ち・な・み・に、私よりサキの方が立場は上よ?」
「……はい?」
……。もう驚くことに疲れてきている僕は、僕自身に驚いていた。
「そうねぇ。分かりやすく言うなら『じぃーえむ権限』っていうものを持っていると言えば分かりやすいかしら?」
「…………」
『GM』って確か、GMのことで、管理者権限を持ってる、ってこと? なるほど、僕にはよくわからん。
「私は本来ならサキに対して跪く必要があるのだけど、サキは私の『娘』なのだから、別に構わないでしょう?」
「『娘』……」
……。そうだ。僕はあの時、女の子として生きていくことに決めたんだった。それなら、今を精一杯生きないと。精一杯生きたいけど、予想以上に立場が上のようだけど。この先どうなるのかなぁ。
「はい、分かりました。ありがとうございます、お母様」
「いえいえ、どういたしまして」
今を楽しもう。そう、気持ちを改めるのだった。
☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭
「さてっと、一息入れましょうか」
「…………はっ! 畏まりました。少々お待ちください」
シーラさん、少し再起動に時間かかってましたね。そういう僕もなんですが。
「失礼します」
シーラさんは洗練された動きで一礼したあと、部屋から退室された。僕もいつかはこうなりたいなぁ、と思っていた。
「さてっ、それじゃあ今からこの世界について詳しいことを説明するわ」
「はい。お願いします、お母様」
そういえば、いろいろなことがあり過ぎてドタバタしてたから聞いてなかったや。ありがとうございます、お母様。
「まずは、これがこの世界の地図になるわね」
言うが早いか、お母様は壁に立て掛けていて丸められていた1つの紙のようなものを取り出して、テーブルの上に広げて、重石を載せて置いた。
「そこからじゃ見えないから、こっちにいらっしゃい」
「はい」
僕は起き上がると、妙な違和感を感じた。泣き崩れるときに着ていた服と、今着ている服と変わっていた。
「あれ? お母様、この服……」
「あぁ、ごめんなさいね。あなたが眠っていた間に服を着替えさせたのと、身体を拭かせてもらったわ。断りも入れずに」
「い、いえ。ありがとうございます、お母様」
「あなたにそう言ってもらえるなら助かるわ」
今の僕の服装は白の首元にワンポイントの赤いリボンが付いたキャミソールに、白のショーツを着ていた。今がどんな感じなのか自分で分からないのが、すごい気になるところだけど……。通りで身体がサラサラしてる訳だ。お風呂があるのかな? 気になる。けど今は……。
「よいしょ、っと」
ふかふかのベッドから出たくないというのもあるけど……。今はこっちが重要! なのでベッドから降りる。
改めて部屋を見ると、白を基調としたシンプルな内装で生活品は、これまた白がベースの物が置かれていた。若干落ち着かないけど、それでも最初の部屋の内装よりかはマシだった。気付かなかったけど、絨毯が敷かれてある。触り心地が気持ちいい。テーブルの上に置かれた地図を覗き込むと……。
「……あれ? お母様。僕この地図見たことがあります」
「やはり、そうなのね」
「……?」
「いえ、こっちの話よ。さて、ここが今私たちの居る場所よ」
「イギリス……」
お母様に聞こえないように小さな声で呟く。その地図は紙のような薄くてサラサラとした素材から出来ていた。
「あれ、お母様。これって『紙』、ですよね?」
「えぇ、そうよ」
「でもこれって僕が昔居た世界で言う”科学”が発達していないと製造すら出来ないはずなのですが」
「あぁ、そのことね。それはね、こうするのよ」
― オリヴィアの名の下に命ずる
― 我と契りを交わす聖なる知識を持つモイメスよ
― 我らの知識を導き出し
― それを我に識らせよ 【記載】
「ほら、ね」
「えぇ!?」
嘘!? こんな簡単に!? しかもあっさり出来てる! すごいな、この世界。これで何度目の驚愕だろうか。魔法で何でもカバーしちゃうだなんて……。魔法って便利。でもステータスパネルはタッチパネル式だったような……。なんだか技術がうろうろしている。古いんだが新しいんだか。
お母様がまさか魔法を使って地図を作成。なんだが僕は驚くことに慣れてきているような……。
---コンコン
「失礼します」
「あら、ちょうどいいわね」
シーラさんが部屋に入ってくる。白くところどころ金の装飾が施されたはカートツールカートには1組のティーセットが載せられていた。
「ストレートのダージリンになります。お飲み下さい」
「あら、ありがとう、シーラ」
「とんでもないです」
そう一連のやり取りがあった後、地図が置かれているテーブルとは別のテーブルに二客置かれた。そのテーブルは木で出来ていて、木の木目がくっきりと出ていて、アンティークのテーブルにアンティークの椅子が2つがあった。僕とお母様はそこに座って、シーラさんは立ったままでの
一時
を過ごす。
シーラさん、大丈夫かな? ちょっと声をかけてみよう。
「シーラさん、椅子に座りますか?」
行儀は悪いけど、1番年下の僕が座ってくつろいでいていいのかな? と思うので、やっぱり声をかけてみる。
「1番年下の僕が椅子に座っていてもいいのでしょうか……」
「そ、そんなことないですよ! 私は立ちのままで---」
「なら僕が立ちますよ」
「っ!?」
シーラさん、ごめんなさい。僕はそういう世界で過ごしていたのです。習慣が……。
ここでお母様は助け舟を出してくれた。
「なら、椅子をもう1つ用意すればいいじゃない」
― オリヴィアの名の下に命ずる
― 我と契りを交わす創造の神テラスよ
― 我に物を作りし力を授け給え 『作り手』
「ほら、ね?」
あの、お母様。それは驚くというか呆れるレベルなのですが……。
「能力の無駄遣い」
「言ったわねぇー!?」
「あはは……」
僕はもう苦笑いするしかなかった。
「コホンっ」
お母様がワザとらしい咳払いをすると、ヤレヤレと言った感じで追求を諦めたシーラさんが居た。
紙が出てきたり神が出てきたり、よく分からないことが続いているから僕の頭の中はパンクしそうになる。「いきなりこういう世界だ」と言われても、うまく取り込めないし、納得が出来ない。そういうのもあって混乱していた僕だったけど、気持ちの整理が付くまでに少し時間がかかってしまった。
「シーラさん、すいません。何か落ち着く物が食べたいです」
なので、シーラさんに声を掛ける。
「それならこちらに」
「さすがシーラね」
「それ程でも」
これこそ阿吽の呼吸、ってやつかな。必要としている物をキチンと把握している。
いいなぁ。こういうの。……って、あれ? もしかして、今の僕って「超」が付く程のお嬢様だったり……、する? いやはやまさかそんなーーー。
「あの、お母様」
「はいはい、何かなサキ」
「あの、もしかして、今の僕って「超」が付く程のお嬢様だったりします?」
「そりゃもちろん」
あっさり肯定されてしまった。
「はーーー…………」
「あれ? サキお嬢様!? サキお嬢様!?」
シーラさんが何か僕に言っている気がするけど、僕の意識はそこで途切れた。
【初版】 2016/01/14 01:03
ごく少数ですが、お叱りのメッセージを頂きました。何かおかしい点などございましたらご連絡頂ければ、修正致しますので、ご連絡お待ちしております。
【追記】2016/05/25
1~3を1つにまとめました。さすがに短すぎる……。
【追記】2016/05/26 15:10
正しくルビが振られていない箇所を発見。修正予定ですので、しばらくお待ち下さい。
【追記】 2018/06/18 01:34
emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。
【おまけ】
シーラ「なんでこの量ですぐに投稿出来なかったんだバカだろ作者。それでいて連結させるとは。どういうことなのかしら?」
作者「…………。キマグレデス」