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なんで僕がこんなところに!?  作者: 対子落とし
【第 1章】目覚めた先
7/22

1 ―  5 初めての呼び方

予定していた文字数を超えてしまったけど、それでも内容が内容なだけにそのままの文字数で投稿してみます。何かおかしなところがあればご連絡をしてしただければ。

 この世界に来てからアルベルタさんに初めてお会いしてから数日が経った。僕としてはあっという間に過ぎていったような感覚がある。この世界に来ることになってからアメリアさんの魂と混じり合い、アメリアさんの身体を借りている? 訳だけど……。この数日間でいろいろなことがあった。まずは僕自身が気持ちの整理が付けられたというか、落ち着いたことによっていろいろなことに関心を持てるようになったというか。


 今日は比較的朝が早い時間帯、と言っても昔でいう朝8時ごろにアルベルタさんの部屋に集まることになっている。僕は最初それを聞いたときに起きれるかな、と思っていたけど、そんなことはなく、自分でもびっくりするくらいにあっさり目が覚めていた。ここ数日はいろいろなことがありすぎて心の整理が付かなかったこともあってか、多分アルベルタさんの配慮なのかな。メイドさんが決まった頃合いに3食の食事を部屋まで持ち込んで頂いたけど、それさえも喉を通らず、そして眠れずにただただボーッと3日くらい過ごしていた。けどそれがだんだん落ち着いてくると、メイドさんが部屋まで持ち込んで頂いた食事に手が伸びるようになり、その食事を口にするようになってから沈んでいた気持ちがだんだんと明るくなっていくという自覚が芽吹いたころにはいつのもの僕の調子を取り戻したというか、気持ちの整理がついたというか。メイドさんが僕のために用意して下さった食事を置いていくところで、僕は声をかけようと思っていたけど、声が出なかった。もう1度メイドさんはこの食事を下げるためにこの部屋にやってくる。そこがチャンスだと僕は思った。自分を変えるためにメイドさんが食事を回収するときに僕の方から声をかけた。


「あの、すいません。お手数ですが、あさって、食事にご一緒出来ませんか」


と。これでも僕は結構な勇気を振り絞って声に出していたけど、小さい声になってしまっていた。だけど、この僕の勇気を振り絞って出した小さい声でもメイドさんはちゃんと聞こえていたのか


「畏まりました。アルベルタ婦人にご連絡致します」


と言って、「それでは」と一礼をしてから退室された。いざ声を出してみたらそんなことはない。今までの僕はいったいなんだったんだろう。なんでこんな簡単なことなのに出来なかったんだろう、ってくらいに晴れやかな気持ちになっていた。


 ふとした拍子で壁に立て掛けられている時計が見えた。あっ、いけない。そろそろアルベルタさんからお声がかかる時間になってきている。ちょっと急がないと。僕の体感からして5分くらい経ったころにその連絡が来た。


「サキー」


「はーい、今行きまーす」


 ほら、やっぱり。このお屋敷は広い。目印の場所を覚えておかないと迷ってしまいそうになる。さすがにこの数日の間に僕なりにうろうろしてどこに何があるかはだいたい把握出来てきているので、無事迷わずにアルベルタさんの部屋にたどり着くことができた。いったいどういう構造になっているのか気になるけど、今は別に気にすることじゃないし、いつかはこのお屋敷についてのお話を聞けるだろうから、そのときまでは気にしないでおこう。


今日も1日何も起こらずに過ごすことが出来ればいいけど。気持ちの整理が付いた僕は、これから起こるであろう物事に対して気持ちが弾みながら、アルベルタさんの部屋の扉を開けるのだった。




 ☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭




―――コン、コン


「……失礼します」


 僕は扉を数回叩いてから開き、アルベルタさんの部屋に入る。もしこれがアメリアさんなら扉を開けてすぐ部屋に入るだろうけど、僕はそういう訳にはいかない。なんというか、居候している感じがしてならないのだ。それでもアルベルタさんは僕のことを認めてくる。これ程心強いことはない。だから僕はアルベルタさんに頼らせ……、いや、甘えさせてもらおうと思ってる。それが今の僕、『サキ・アメリア・アテナ・オリヴィア』なのだから。


「……おはようございます、アルベルタさん」


「おはよう、サキ」


 まずはあいさつ。これは僕自身が考え、僕なりに決めているルールだったりする。



『あいさつだけはきちんとやれよ。そうするとおのずと人はお前についていくようになるからな』



 これは昔耳が痛くなるほどよく言われたこと。確かにその通りだと思う。今は今、昔は昔。そう区切りをつけて、これからの生活に役に立つことはそこから学んでやろうと思う。これから当分の間はこれが目標かな。さっきのごくわずかな短い時間でも、どうしてもこう考えてしまうときがあるのだ。


 ……おっと、そうだった。今はそんなことを考えているときじゃなかったんだった。


 今僕の目の前には、テーブルの上にきれいに並べられた朝ごはんが置かれてあった。今日の朝ごはんのメニューは、シャキシャキしたキャベツみたいな野菜を底が深めのカップに入れて、そこにアツアツの塩味が効いたスープを注ぎ、卵を1個落として出来上がり、と比較的時間を短縮出切るものと、アツアツの白いご飯が添えられた、シンプルな朝ごはんだった。確かにあっさりしていた方が食べやすいし、朝ごはんとしてはぴったりな献立だった。そして、今の僕にもちょうどよさそうな物だったから一安心というか、なんというか。その朝ごはんを食べていたら、ふと何かを思い出したようにアルベルタさんからこう言われた。


「サキ、あなた変わったわね」


「そ、そうですか?」


 まぁ、気持ちの整理が付いていろいろと興味を持ち始めたということがあるかもしれないけど。


「ええ。こう、明るくなったというか」


「そうですね。気持ちの整理が付いたということが大きいと思います」


「やっぱり、私の目に狂いはなかったようね」


「よく言うわ、アル」


「「ひゃ!?」」


 いきなり横から声が聞こえたものだから、僕とアルベルタさん。両方とも驚いてしまって声を出していた。


「あ、あれ? シ、シーラ? 仕事は?」


「そんなの終わらせたに決まってるじゃない。アルの久々の手料理なんだから」


「うっ。そういうところは変わらないなぁ」


「言ってなさい」


 って、あれ? なんで比較的朝早い時間なのにシーラさんが居るのかな、とは思ってたけど。まさかこういうことだったとは。というか横から声がかかるまで全然気付かなかったよ。いつの間にこの部屋に入って来たのか気になってきた。ついさっきまでは居なかったはずなのに……。おかしいなぁ……。と思っていたけど、急におかしくなってきちゃって、こらえきれなくてついつい吹き出してしまう。


「ぷっ」


「「今あなた笑ったわね?」」


 今度は同じタイミングで同じことを言うアルベルタさんとシーラさんなのでした。いけないと思いつつも、ついおかしくて笑いをこらえ切れずに吹き出していた。


「ぷっ、あははははっ」




―――数秒後。


「コホンっ」


 照れ隠しのためか、アルベルタさんからのわざとらしい咳が聞こえたあと、一拍子置いてからこう切り出した。


「さて、サキ? 久しぶりに私が振舞った手料理だけど、どうかしら?」


「はい、おいしいですよ。塩味がほのかに効いたふんわりとした食感で、僕が今まで食べてきた中で1番おいしいですよ。アメリアさんも『おいしいよお母さん!』って言ってます」


 この朝ごはんを食べていると、アメリアさんの意識が僕の意識に流れ込んでくる。身体は一緒なのに、意識が別々っておかしいのかな? いや、違うかな。僕の意識と、アメリアさんの意識が交じり合っているのが正しいか。それはそれで大丈夫なのかな? という疑問はあるけど、そこは『神の子』なんだろうか。


「そう? なら良かった……。普段より早起きして苦労した甲斐があったようね……って、シーラ。このこと誰から聞いたのよ」


 アルベルタさんは、苦悶の表情を時折見せることがある。それはまるで僕……、いや、僕たち(僕とアメリアさん)を心配しているような、そんな表情。僕からは何も言えないのはつらいところかな。その表情も一瞬だけで、何かを思い出したかのようにアルベルタさんは明るい口調でシーラさんに問いかけていた。


「そりゃあ周りを見てたら気付くわよ。なんでも? 朝いきなり厨房に入って『今日はちょっとお手製の朝ごはんを作りたいからちょっと貸してくれるかしら』って言ったんだって?」


「そ、それは……」


 えっ。それってもしかして……?


「そりゃあ騒ぎにもなるわよ。もうちょっと考えてから行動しなさいよね」


「ハイ、スイマセン」


 ……あのー、アルベルタさん? シーラさん? 何だか立場が逆になっていませんか?


「……いいなぁ、自由って」


 つい思ったことを呟いてしまう。こうふとしたときに過去の自分を思い出してしまうときがある。そういうときは何かことがあってから思ってしまうから、自分ながら困ったものだなぁ、と。それにしても、「お母さん」か……。今は『サキ』なんだから、アルベルタさんの呼び方は「アルベルタさん」ではなくて、「お母さん」の方がいいのかな……。今はまだそのことは置いておこう。さっきアルベルタさんには「気持ちの整理が付いた」とは言ったけど、まだ完全には気持ちの整理はついていないみたいだ。いつかは、アルベルタさんのことを「お母さん」と呼ぶことが出来るようになれればいいのだけど、時間はかかるんだろうなぁ……。


「あら、何言ってるのよ。サキも自由なのよ?」


「え? でもそれだとご迷惑をおかけーーー」


「ちょうどいいや、シーラ」


「はい。サキ様のこの屋敷のご案内ですね。畏まりました」


 アルベルタさんの言葉に対して、まるで何を言うか分かってるかのように返事をするシーラさん。すごい。って、え? 今なんて?


「さすがシーラ」


 そのシーラさんを見てみると、すごいドヤ顔をしていた。


「あっ、そういえば。サキ? そのしゃべり方はどうにからないの?」


 え? ここで僕に振るの? シーラさんすごいドヤ顔をしてるのに、アルベルタさん、ツッコまないの?


「と、言いますと?」


「その敬語よ。せっかく一緒の『家族』になれたんだから、それはどうかと思うわよ?」


「か、『家族』……」


 『家族』、か……。まさかその言葉を僕が言い出す前にアルベルタさんから仰った。なんとなくだけど、それに僕は応えないといけない気がした。




 僕はゆっくりと目を閉じて、僕の意識の中にあるアメリアさんの意識と、『会話』をした。




―― ……っ、ア……っ、ア……リ……さ、アメリアさん。

―― はーい! サキお姉ちゃん!

―― アルベルタさんはこう仰っているけど、それでもいいかな?

―― お母さんが? うーん……。それはサキお姉ちゃんが悩むことなの?

―― えっ?

―― 私はね、サキお姉ちゃんと一緒になってから、賢くなったんだよ? 偉いでしょ?

―― えらいえらい。アメリアさん……。うん。ありがとう、アメリアさん。

―― うん! きっとサキお姉ちゃんなら大丈夫! 私も応援してるから!

―― ありがとう! アリア!

―― ……っ! うん!




 僕はゆっくりと目を開けた。そして、アルベルタさんの問いに、こう答えることにした。


「分かりました。ありがとう、お母さん」

【初版】 2016/01/10 21:05


【追記】 2016/01/11 10:30

 サキは初日の変化からここまで来るのに約2週間は経ってます


【追記】 2018/06/18 01:34

 emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。

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