【プロローグ】それはもうあっさりと 2
ようやく午前中の授業が終わって、今はお昼時の12時(12:00)過ぎ。今日のお昼ご飯はなんだろなと思って食堂に行ってみると、なんともおいしそうな香りが立ち込めていた。大学のすぐそばには工場がある。歩いて5分ほどの距離でお昼休みということもあってうちの大学の食堂は賑わっていた。大学のそばに歩いて5分ほどの距離に工場があるという事もあり、うちの大学の食堂は学生じゃない一般公開している。それこそ本当の食堂だ。この食堂の本業はこの大学に通っている学生に料理を振舞う。そのはずなんだけど、値段もリーズナルブでそれにおいしいと評判もあってか学生と工場で働いている人、ここの食堂の料理を目当てにわざわざやってくる人も居る、とのこと。ここ周辺ではもっぱらの評判だ。
「今日のメニューは……。おっ。なかなかおいしいそうじゃん。じゃあこれにしようっと」
そう僕は言って食券の自動販売機にお金を入れて、「しょうが焼き定食」を選ぶ。お値段はなんと450円。学生向けのメニューなのかおかずの量もそこそこ多く、それでいてご飯のお代わり自由という、なんとも破格なお値段設定。なぜご飯がお代わり自由かというと、それは『定食』という条件付きだからこそできることなのかもしれないけど。
(こりゃここの料理を目当てに来る人も居るわなぁ。早い、安い、旨い。3拍子揃っていたらこれだけ賑やかにもなるなぁ)
なんて思っていた。食券を買ってカウンターに並んで、トレーに乗せられた料理を受け取る。そのトレーはいかにも学校の食堂という印象を受けるトレーなんだけど、これはこれで。そしてどこか空いているテーブルの椅子に座って食べ始める。うん、やっぱりおいしい。ただ塩がちょっと欲しいかなぁという味付けなのが惜しいところ。塩気が足りないので備え付けてあったしょうゆを少したらして、ご飯と一緒に食べる。食べる。食べる。ちょうどいい塩加減になったのでご飯が進む進む。こりゃやめられないくらいおいしい。もしかしてこれが狙いなのかもしれないと思ったのは気のせいだと信じたい。
今はお昼時が終わり午後2時(14:00)過ぎ、工場のお昼休みが終わったこともあってずいぶんと静けさを取り戻した食堂はそろそろ閉店という時間。そろそろ僕も次の行動を起こさないと。と思ってトレーをもって返却口に持って行く。いつも食堂のおばちゃんに声をかけることを忘れずに。
「ご馳走さまぁー!」
と。このときの食堂のおばちゃんの笑顔が僕は好きだ。そしていつもこう返ってくる。
「ありがとうー!」
と。このやり取りはこの食堂での恒例のやり取りになっていた。
大学の食堂でご飯を食べたあとはバイトに向かう。と言ってもこのバイト先は大学に近いところにあるから十分歩いて行けれる距離にある。僕がバイトをする理由は、親にずっと頼っていたら自分の心が何か侵食されてしまいそうな気がして。せめて自分のお小遣いくらいは稼いでおきたいというか、なんというか。少し恥ずかしいけど、親にはあんまり迷惑はかけられないし。いつかは両親に対して、ちゃんと会社に就職して稼いだお金、つまりお給料を両親に渡すということを目標にしている。今は自分のお小遣い目的でバイトをしているのは、社会勉強というか、何が自分に必要なのか、何が自分に足りないのか、というのを自分なりに見つけようというのもあるんだけど、それはなかなか自分では見つけることはできずに苦労している。恥ずかしい話なんだけどね。
話が逸れた。
さて、これから今のバイト先に向かう訳なんだけど、今僕がやってるバイトはコンビニの店員をやっている。コンビニの仕事内容って簡単そうに見えて実は大変だったりする。接客したり、商品を陳列したり、店内で販売する揚げ物を揚げたり、金額を合わせたり。コンビニだからと言って仕事が少ないと思っていた。でもそんなことはなかった。やらなければならないことが多いこと多いこと。正直ここまで多いとは思わなかった。
朝早い時間とか、昼間の時間とか、深夜の時間とか、その時間にとって一番忙しい時間帯は確かに存在する。平日とか土日とか祝日とかそんなのは関係なく、時間帯によって忙しいということがわかった。これは思いもしなかったけど、実際に働き出してからコンビニのつらさを思い知った。思ってた以上にしんどくて。その割にはやりがいを感じる。『あぁ、このバイトを始めてよかったなぁ』と思えるくらいには。コンビニのバイトを始めて早3ヶ月。未だ研修期間中だけど、今では先輩の指示を受けながらもなんとか1人で回せるようになってきた。まだまだな部分はあるという自覚はあるけど、それでも仕事をこなせてるという実感が沸いてもっと精進しないとって思えるようになっていた。
ある程度まではさせてもらえるようになったけど、端末を使って在庫数のチェックとか発注数のチェックとか、納品された商品を陳列したり、在庫にしたり、そりゃあいろいろとやらないといけないことがいっぱい。それを決められた時間内にしないといけないし。その間にもお客さんはそんなのおかまいなしにレジに並んで会計しないといけないし。
最近知ったことだけど、例えばお客さんが3,000円の買い物をしたとして、渡された金額がちょうど3,000円のときって「ちょうどお預かりします」と返して、それで渡された金額が5,000円だったときは「5,000円お預かりします」と返す。これは言葉を直さないとって。これがまだまだだっていう証拠、っていうのもあるんだけどね。
大学からバイト先までにはちょっと離れている。電車を使って10分くらいの距離。それでも3駅分は離れているんだけど、定期券の範囲内だから大丈夫。それでも家から大学までの所要時間はだいたい1時間半。結構な距離なんだけど、電車に乗ればすぐ。電車に乗っている間にラノベを読んだり漫画を見たり。表紙は絶対に隠すけど。たまに表紙を隠さずに読んでいる人見かけるけど、あれって大丈夫なのかなぁって思う。今読んでいるものは、確か主人公が何かしらの事故が起こって、それを見ていた神様が異世界に転生してみないか? と声をかけて転生して生涯を送る、という内容だったかな。読んでいてわくわくするけど、実際にはそういうことは起こらないだろうと思ってる。
バイト先の最寄り駅について電車から降りて改札口をくぐる。僕のバイト先は駅近くにあるコンビニで、近くと言っても10分くらいは歩く距離にある。線路に近くて、実際電車の車窓から見える。最近は踏み切りをなくそうということで高架線を設ける工事をしている。その付近だけ渋滞がすごいらしく、踏み切りをなくせば渋滞は解消されるということで工事が進められている。それでも工事が始められて早2年。道路と線路を封鎖できないからそりゃそれだけ時間かかるよねって話なんだけど。見た感じではようやく工事の半分までは終わったみたい。長い年月をかけて工事を進めている工事現場で働いている方々、お疲れさまです。
今の時間は午後2時半(14:30)。手首に着けていた腕時計で時刻を確認する。バイトまではあと30分ある。ちょっとゆっくり歩こう。僕はそう思い、ゆっくりと歩き始めた。
しばらくはいつものペースで歩いていたから、こうやってゆっくり目のペースで歩くのは初めてかもしれない。気にもとめてなかった建物や風景、町並みなど、新鮮な印象を受ける。たまにはいいかもね。
―――カンカンカンカンカンカンカンカン
ふと僕は足を止める。いつもの日常が、非日常に変わっていく。僕の目の前には踏み切りがある、2車線分のスペースがあるけど、その踏み切りにはお年寄りの女性が1人、取り残されていた。踏み切りの電光掲示板に表示されているのは上りの表示(⇒)。そして電車の表示には青字で「新快速」という文字。
―――危ない!
―――ブォーーー!!!
―――ソ ミ ド ミ ソ ミ ドー
踏み切りを通過しようとする電車は急ブレーキをかけて徐々に速度が落ちているのがわかった。「今ならまだ間に合う!」と思い僕は咄嗟にカバンを持ってダッシュしてそのお年よりの女性を助けようとした。僕が手を差し伸べてそのお年よりの女性が僕の手を握った瞬間、力を込めて場所を入れ替わった。あとは逃げるだけ……。
―――ドン
が、間に合わなかった。あぁ、間に合わなかった。悔しかった。僕は電車に撥ねられて死んだ。きっとこのことを見ていた運転手や、先頭車に居た乗客は僕のことを責めるのだろうか。それともお年寄りを助けたということで褒めるのだろうか。どっちかはわからない。そして意識がだんだんと遠くなる。
(あぁ、もうダメだ……。ありがとう、父さん、母さん、佳奈)
まだまだこの世界にはやり残した事があるというのに、それはうまくはいかないみたいだ。そうして僕は、完全に意識を無くしたのだった。
☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭
ここはどこだろう。辺り一面真っ白な空間にぽつんと1人、存在していた。それは僕だ。僕は何をしていたんだっけ。あぁ、そうだった。僕はお年寄りの女性を助けようとして僕が電車に撥ねられて死んだんだったんだ。
『ふぉっふぉっふぉ』
どこからとなく声が聞こえる。その声は年老いた女性の印象を受ける。果たして、どういうことなのか? 徐々に姿が見えてくる。それはさっき助けたお年寄りの女性だった。
『さっきは助けてくれてありがとうのぅ』
僕の目の前には、腰は曲がっていて地面に届きそうな茶色の衣服を羽織って白い杖を突いてこちらに向かって歩いてくるあのお年寄りの女性が居た。
『なんでここに居るかって? それはのぅ、余を助けてくれたお礼じゃよ』
まるで僕の意思を読み取ったかのような……。
『なぜわかるって顔をしておるのぅ。それは余が神に仕えし者だからじゃよ。ほれ、余を助けてくれた礼と詫びじゃ。そなたにはそれだけの物を受け取る資格がある』
僕は結局最初から最後まで何も言えずにただ女性の言葉を聞くだけだった。
『ほれ、受け取るがいい』
僕の周りにはまばゆい光が纏わり始めた。何も言えない、暖かな気持ちになっていく。
『余を助けてくれてありがとう。そなた、佐々木大地よ』
徐々に意識が遠のいていく最中、その女性は確かに僕の名前を呼んでいた。というより、いつ知ったのだろう。そういえばこう言っていた。『神に仕えし物』だと。なら納得が行った。ありがとう。せめて最後にはお名前を拝借しておきたかった。
『ほっほっほ、そうじゃな。余の名は、クラリス・ガーネットじゃ』
長い長いプロローグもこれで終わりです
うん、長い! 長すぎる!
勢いだけ突っ走った結果がこれです!
ごめんなさい!
文字数を稼いでいたら
予定文字数を大幅に超えちゃってどうしようかと……。
もし誤字・脱字、ここ適切な表現じゃないよって部分があればご指摘ください。その部分を修正します。