1 ― 11 食事の後で
本当にお母様はなんでも出来るようで、僕は驚いている。
「あれ? 『お母様はなんでそんなに出来るの』って顔をしてるわね?」
あはは。バレていましたか。さすがお母様。
「そうねぇ。この話をすることになると、まず私の生い立ちを話さなければいけないわね」
「え? と、言いますと?」
「ズバリ! 私はね、ごくごく普通の平民だったのよ?」
「……え? えぇー!?」
えっ!? なんで!? どういうこと!?
僕は心底驚いていた。驚愕の事実。
「ちょっと長くなるから、覚悟してね?」
「はい、お母様」
☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭
「そうねぇ。あれはまだ私が小さい頃だったかしら。両親と当時の皇后陛下と仲が良くてね、王族と平民という枠を超えた繋がりを持っていたのよ」
「素晴らしいじゃないですか……」
「えぇ、とても素晴らしくて、今後ともこの繋がりを絶やしてはいけないと思っているわ。その時はサキの出番だけどね?」
「はい。その時が来たらまたお伝え下さい」
「その意気やよし」
お母様から頭を撫でられる。気持ちいい……。
って、そうじゃなくて。
「それでね、当時可愛がられていた私に、皇后陛下から『うちの養女にならないか』とお誘いがあったのよ。その話を両親は快諾してね。そこから私の生活は一変したの。それが私がまだ6つのころだった話ね」
「随分と幼い頃に養女に入られたんですね」
「えぇ。それでも遅い方だったけどね」
「遅い方?」
「過去の記録によると、それこそ産まれたばかりに、という例もあるみたいよ」
「なるほど……」
この世界には何か事情がありそうだ、とこの時僕はそう思った。
「養女として王族へ引き取られた私は、それこそ厳しくても楽しい日々を過ごしたわ。そりゃあ私だって子どもだもの。しょっちゅうケガをしたり、物を壊したり、食器を割ったり、すごい顔で叱られたり。習い事をしたり。礼儀作法を教わったり。いろいろなことがあったわ」
「いい方だったんですね……。今は会うことが出来るんですか?」
僕のこの問いに対して、お母様は首を横に振った。
「いいえ。もう会えないわ。今から3年前に亡くなったわ」
「……。……ごめんなさい。嫌なことを聞いてしまいました」
「そんな、いいのよ。いつかはやってくることなのだから」
何かを懐かしむ表情をしながら、お母様は窓越しに遠くを見ていた気がした。
「今となってはどれもこれもいい思い出よ」
お母様は、スッキリとした顔で僕を励まそうと明るく振る舞っていた。
「ささっ、湿っぽい話はもう終わり! これから忙しくなるわよー! サキ、頑張ってね!」
何かをまくし立てるように部屋から出ていった。部屋を出る際に、お母様から発せられたかすかな声を、僕は聞き逃さなかった。
「おじさま。おばさま。もう1度会いたいよ……」と。
【初版】 2016/08/02 21:08
帰りの電車内で書き上げた物です。何かおかしい箇所があればご連絡下さい。と言っても、おかしいところだらけっぽいですが……。
【追記】 2018/06/18 01:34
emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。