1 ― 10 テーブルマナー
ーーーコンコンコン
「失礼します」
クリスさんが扉を3回ノックしてから扉を開ける。クリスさんと僕とが入れるように扉を開ける。
部屋に入ると、なんとお母様が座って居られた。クリスさんからテーブルマナーの講習と聞いていたけど、まさかお母様が直接……?
「サキお嬢様をお連れしました」
「はい、ありがとう」
「何かございましたら、お呼び下さい」
「いつもありがとう、クリス」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
お母様とクリスさんは少し会話をした後に、クリスさんはこの部屋から退出する。
「サキ。これから朝ごはんなのだけど、テーブルマナーは分かる?」
「多少なら……」
「そう。なら、復習も兼ねて一緒にやって行きましょうか」
「はい、お母様」
☆ ✭ ☆ ✭ ☆ ✭
テーブルマナーと言われても、いろいろな種類がある。それによって立ち振舞いが変わってくる。それを見極めないと、恥をかくのは僕と、何よりお母様。いくら経験があるとは言え、もしかしたら向こうと違うかもしれない。「郷に入っては郷に従え」という言葉もある。どこがどう違うか、確認していかないと。
「今は2人だけだから、そんなに緊張しなくてもいいのに」
「い、いえ。そういう訳には行きません。僕の世界には『郷に入っては郷に従え』という言葉があります。世俗や習慣はその土地によって違うから、その土地の世俗や習慣に従うと良い、という意味です。まだ僕はこの土地、ひいては世界のことを知りません。ですので、勉強していかなくてはならないのです」
「あら、勉強熱心なのね。それでも、寝込まないようにね?」
「うっ。はい、お母様」
痛いところを突かれてしまった。その通りなので言い返せない。
「そうねぇー。この世界には、貴方の世界と似たり寄ったりしている節があると思っているわ。概ね一緒なのかもしれないわ」
「それは僕も感じていました。あの世界地図と、僕の居た世界地図と、ほぼ似ていましたので」
「そういうことね」
「はい、お母様」
言質というか、確認が取れたというか、とりあえずはひと段落。問題はこの先、何が一緒で何が違う、をはっきりさせておかないと。
「ホウレンソウ」という言葉があって、それは「報告・連絡・相談」という意味。ほうれん草のことじゃないよ!
「冷めないうちに食べましょう」
「はい」
お母様は1番外側のフォークとナイフを手に取って丁寧な動作でお皿の上に乗せられたもの……。肉料理を食べられる。
「本当はもっとあるのだけれど、今は簡単な物しか用意してないのよ」
「なるほど」
確かに、僕自身も何か違うなぁとは思っていた。他にもいろいろと手順があって、他にもいろいろなメニューがあるはずなのだけど、少なかった理由はそういうことだったのね。
「わざわざありがとうございます、お母様」
「気にしないでいいのよ。ほら、食べましょ」
僕は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」という意味を込めて。
メインディッシュとして出されていた料理は、ミディアムに火が通っているローストビーフと、それに添えられたこれまたミディアムに火が通ってるサイコロステーキだった。
ローストビーフは大きめに切りそろえられたもので、8切れあった。サイコロステーキは6個。
(あぁ、すごくご飯が欲しくなるメニュー)
そう思いながら僕はフォークとナイフを使ってローストビーフとサイコロステーキを食べていく。
久しぶりに食べたお肉はおいしかった。
食材がいい物だったのか、口に含んで噛んだ瞬間にジュワーっと溶けていくようなやわらかな食感。前の世界で言うところの神戸牛みたいな物だった。
「とてもおいしいです……」
あまりのおいしさに涙が出てくるほどに。
「そう。ならよかった」
このお肉の味を忘れないように、1切れ1切れ、噛み締めるように味わっていく。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
えっ。ってことはこの料理は……。
自然と頭が下がっていた。
お母様、なんでも出来るんですね……。
「いつかこういう人になろう」と僕自身で目標を立てて、それに追いつけるように頑張ろうと決めた瞬間だった。
【初版】 2016/07/06 21:29
これを書いていて、作者が資料集めのために料理を検索して何かいい物はないかと探していたら、盛大な飯テロに遭遇。要するに自滅しました。今はコンビニ弁当を食べ終えてひと段落付いたところです。
【追記】 2018/06/18 01:34
emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。