1 ― 9 長くなりそうな修行
女の子として生きるきっかけを与えてくれたお母様と、僕専属の侍女、というより、メイドさんのクリスさん。侍女というより、メイドさんというイメージしかないけど……。そのクリスさんについて行ってるのだけど……。
「クリスぅー、一体どこまで行くのよー」
まだ呼び捨てにするのは抵抗がある。でもあの目が笑ってない笑顔は怖いので仕方なく呼び捨てにする。にしても、結構歩いているよね、かれこれ数分は歩いてる。というか、やっぱり広いよね、この建物。建物自体を見てみたいけど、豪勢な建物なんだろうなぁ、と思いを馳せてみる。
クリスさんがある扉の前に止まると、僕に向かうようにしてクルリと回る。そのクルリと回るだけでもキレイでかわいいクリスさんを見ることが出来た。なんだか嬉しい。
「何してるんですか」
僕はクリスさんから冷ややかな目で見られていると気付くと慌てて目を逸らす。
「ナンデモアリマセン」
片言になるのは、仕方ないよね。
クリスさん、コホンと咳払い。
「さて、今この扉の先にはお食事が用意されています。ですが、それだけではございません」
「はい?」
どういうこと?
「お嬢様には、テーブルマナーを身につけて頂かなくてはなりません」
テーブルマナーかぁ。自信ないよ……。どこか遠い目になっているのは、気のせいじゃないだろうね。遠い目になっている自覚がある。
「これから、お嬢様には朝食を摂って頂きますが、テーブルマナーの講習も兼ねています。アルベルタ様からお嬢様は前世の男性としての記憶を持たれていると聞き及んでいます。ですが、そのような荒々しい食べ方をされると立場が危ぶまれます」
それは確かに。
「これからお嬢様には、立場相応の綺麗なテーブルマナーを身に付けて頂きます。準備はよろしいですか?」
テーブルマナー。苦手な分野だったけど、そんなこと言ってられないことになってしまった。これは本気で覚えないとマズい。そう覚悟を決める。
「…………はい」
少しの間の後、意を決して取り掛かることにする。お腹も空いているし、背に腹は変えられない。クリスさんは、僕の目を見てから扉に手をかける。
「それでは、参りましょうか。お嬢様」
「はい!」
サキとして自覚を持ってからの初めての講習。気を引き締める。
「しまっていこう」と心の中で呟きながら。
【初版】 2016/06/05 21:00
テーブルマナーとか、一番作者が苦手とする場面じゃないですかヤダー、というおまけ情報。テーブルマナー、勉強しながら書いていくことになると思いますので、かなり遅くなると思います。もしかしたら、テーブルマナー云々の描写は省いて書き進めて行くこともありえます。短めですが、区切りがいいのでこれで投稿します。
【追記】 2016/06/07 15:18
脱字を発見したために修正。一部描写を追加しました。
【追記】 2018/06/18 01:34
emダッシュ記号(―)で書いていたつもりが長音符(ー)となっていた為に、emダッシュ記号(―)に差し替えました。