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777《トリプルセブン》の嘲笑

作者: Q作くん

 本日新台入替。朝十時オープン。

 のぼりに書かれたその言葉は、彼彼女にとっての福音だった。思考回路も正しく計算した結果として、彼彼女の肉体をパチンコホールへと誘導していた。啓示と提示。その両輪が噛み合っている。つまり、彼彼女は確実に勝てるのだ。

 福音視点で見れば、たまたま郵便物を出しに外へ出ただけなのに、近所のパチンコホールが新台入替を謳っていた。

 思考回路視点で観れば、新台入替→客引き→相乗効果(客が客を呼ぶ)を得るため新台は高設定(当りが出やすい)→お小遣いを低リスクで増やせる。

 まさに「*もう何も怖くない」状態だった(*彼彼女は最近スロットで覚えた台詞を実生活でもよく使うようになっていた)。

 しかし彼彼女の加味した状況は狭すぎた。確かにバブル期の余波がまだ感じられる八十年代後半から九十年代半ばまでなら、彼彼女らの考察は是として受け入れられた。だが二千十年代の現在、パチンコホールとて不況のシワ寄せを食っているのだ。

 新台入替。広告こそ派手に打ってあるが、その実態は夜光虫を散らす殺虫蛍光灯のそれに近い。パチンコホールにとっての〝増収・増益日〟。それこそが事実なのだ。

 聖者の列に加わった彼彼女は見事新台に腰を落ち着ける。財布から万札を取り出し、メダルと交換する。レバーオン。回転するリール。左から順にボタンを押す。この繰り返し。騒がしくなる液晶、頻発するCHANCEの文字。

「あなた(当り)を、瞼が覚えてるの」

 彼彼女の気分は高揚の一途。大勝利を収めた過去の記憶がリフレインされる。思い出の曲と共に。

 そうして何事もなく三万円が消えた時、彼彼女は止めるという選択肢ではなく、「ここから一発当てて取り返してやる」という、確率論を失した行動に走るのだ。

 その選択肢が間違っていると分かりつつも……。

 二千円が十万に化けた時の記憶。四万円負けから六万勝ちに転じた時の記憶。それらの記憶は走馬灯としてではなく、彼彼女らが自身の愚行を正当化する為の蛮勇伝として再生される。

 だから、間違っていると分かりつつも、彼彼女らは止まらない。財布が空になっても口座がある。口座が空になっても伝手がある。伝手がなくなっても……。

 そこに福音も思考回路も存在しない。あるのは奇跡にすがる浅ましさだけ。

 今日ものぼりが立てられる。

 本日新台入替。朝十時オープン。

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