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勇者トルテと僧侶エクレアの1日目

「今回こそは、まともな勇者だといいな。」


 エクスは城門の前で憮然として待つ間、そう一人ごちた。今回で3人目の勇者との顔合わせになる。前の二人のうち一人は勇者を食うための手段としていたし、もう一人はエクスを含めパーティーメンバーを自分の女として扱っていたため、早々にメンバーから抜けさせていただいた。ここでエクスが学んだことは自分には集団が合わないということだった。新入りのくせに少し目立てばメンバーから嫉妬心を買うし、自分には何人ものメンバーとうまくやっていくための話術も得意ではないことが分かった。また“勇者エクス”が過去のものだということも分かった。当初自己紹介では自分の本名であるエクスと名乗っていた。その名を聞いた者は“勇者エクス”を話題に挙げはするのだが、決まって“魔王討伐に失敗した勇者”と結論付けられる。その後は自分ならこうするだのそれぞれの自分勝手な考えを披露することに話題が移り変わっていくのだ。そこには自身の命を削りながら魔族に支配された街々を開放した“勇者エクス”への畏敬の念は一つもない。さすがのエクスも今の世界とのズレを実感し疎外感を感じずにはいられなかった。また奇異の目でみられるため女の姿で一人称を俺にするのもやめた。そんな折、アルファ国が単独で行動をしている勇者のメンバーを募集していることを知ったのだった。


 城門がギギギッときしみながら開くと奥から青年がこちらに歩いてきた。勇者トルテだ。役人がトルテに新しいパーティメンバーとしてエクスの紹介をすると、トルテは目線をやっとエクスの方に向けた。


「はじめまして勇者様。エクレアといいます、職業は僧侶です。よろしくお願いいたします。」


 エクスらしからぬ丁寧な言葉づかいである。今までの経験で女の姿で荒々しい男言葉を使うのは得策ではないことが分かった。また世間での信用を得るため身分を僧侶といつわることにした。


(交通機関の利用や他国での待遇を考えると勇者一行として魔王討伐に向かうのが一番だからな。)

 魔王を倒すまでの我慢だと自分に言い聞かせ、エクスは清廉な僧侶であるエクレアを演じることにしたのだ。


「…。」


 エクスの挨拶にトルテは、よろしくの一言もいわずスタスタと街道へと立ち去って行った。


「勇者様!どこへ!」


「宿。」


 あわてて追うエクスに振りかえりもせずトルテは返事をした。


「確かにもう夕暮れですもんね。」


「…。」


 エクスの問いかけを無視しトルテは宿へと向かっていった。


「男一人。」


 終始無言のまま、たどり着いたのは街中にある宿のひとつだ。汚くはないが決して高級とはいえない、いわゆる中の下の宿である。


「はいご案内~。」


 久しぶりの言葉を発したトルテに筋肉質な宿屋の主人が慣れた手つきで部屋の鍵を渡す。宿の利用を説明しないあたりトルテが常連として使用しているのであろう。


「あ、あの。」


「…。」


 エクスが話かけるが、ここでもトルテは無言で2階の自分の部屋にスタスタと向かい扉をバタンとしめてしまった。


「あら、ひとりで部屋にいっちゃった。」


(なんだ、こいつ。無視しやがって。)


 さすがに初めて会うトルテを怒らす理由が思い当りはしない。エクスは怒りを感じながらも驚きのあまり、トルテが消えてしまった部屋の扉を見ていることしかできなかった。


「あいかわらずだねえ勇者ちゃん。」


 エクスに気を使ったのか宿屋の主人が独り言のように話かけてきた。


「はい?」


 あいかわらずといわれてもエクスにはわけがわからない。当惑するエクスに宿屋の主人は説明するように話をつづけた。


「勇者ちゃんの優しさですよ。どうせ早いか遅いかですし逃げていいってことですよ。」


「つまりどういうことですか?」


 ますます混乱するエクスに宿屋の主人はさらに説明を続けてくれた。宿屋の主人の話ではトルテが新しいパーティーメンバーにこのような態度をとるのははじめてではないそうだ。なぜなら勇者エクスが死んだ今では本気で魔王を倒そうとするものは少なく、勇者一行に加わろうなどという変わり者はなかなか見かけなくなってしまったそうだ。そのためこの国では勇者のパーティーに加わったものには報奨金が出るようになったのだがほとんどのものが報奨金目当てにパーティーに入り翌日姿を消しているとのことだった。どうせすぐにいなくなるつもりなら、最初から離脱してくれたほうがお互い楽だろうというのが宿屋の主人が考えるトルテの弁だ。


「そういえば500バリューもらってた…。」


 500バリューといえば平均年収の半分程度だ。確かに大金ではあるが命を捨てるには安すぎる値段である。


「世も末だな。」


 皆が本気で魔王を倒そうと躍起になっていた昔と異なり、魔王討伐の準備も十分にままならない現在にエクスはため息をつくのであった。


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