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day1<02>矢代風太編




 目覚ましの音と共に僕の目は覚める。

 ベッドの横のサイドテーブルに置かれたアナログ式の目覚まし時計はきっちり六時を指していた。

 僕は上半身を起こしてカーテンを引き、窓を開く。

 ほとんど家具の置かれていない殺風景な僕の部屋に、春の日差しと風が入り込んできた。いい天気だ。


「今日はいい事がありそうです」


 朝の支度をして、朝食を作り、テレビを見ながら食べているとすぐに時間は過ぎて時計の針はもうすぐ七時を指す。

 テレビの天気予報によれば今日は全国的に晴れ模様らしい。でも、気温はそこまで高くもないそうだ。

 僕はテレビを消して、大学へ出発した。

 そういえば、連休前に天城先輩が熱心に頑張っていた。邪魔したら悪いと思って連休中は大学には行かなかったけど大丈夫か心配だ。先輩はその気になると何日もぶっ続けで起きてるからなあ。運動もしててなまじ体力もあるのが無理をしちゃう一因なような気がする。もし、先輩がか弱い女の子だとしたらあそこまで無茶はしないかも。




「おはようございます由以子先輩」

「ん、おはよう」


 大学に到着して、室内に入るとがらしない格好の由以子先輩がいた。そして……はあ。


「うわあ……。随分散らかしましたね」


 僕が三日前にきれいにしていたはずなのに、コの字型に並べられた長机の上には様々な物がちらかっている。床にもお菓子の空き袋とかがある。毎度思うけれど、ゴミ箱に投げ入れるくらいすぐにできるのにどうしてその手間を惜しむのか分からない。


「はは、悪いね」


 由以子先輩全然反省していないな。連休前に僕は警告したはずだ。へらへらと笑いながら僕に片付けるよう言ってくる先輩に言い返してやる。


「何言ってるんですか。自分で片付けて下さい」

「え?」

「え、じゃないですよ。毎回毎回僕に任せて、反省の色はないんですか?」


 先輩は一瞬口を開くが閉じて黙る。その考える間が僕には最高の答えだ。


「ない訳ないだろう。日々矢代風太には感謝の念を抱いている」


 本当に思っているなら考えなくてもすぐに浮かんでくるでしょうに。

 またご機嫌をとってやらせようって魂胆なのはお見通しだ。

 思わずため息を吐いてしまった。


「辛気臭いぞ」

「誰のせいでこうなっていると思ってるか分かるでしょう?」


 もう先輩に注意するの、疲れたよ。


「ただいま」

「お帰り、遅かったな」


 室内に入ってきたのは、黒髪を腰まで伸ばした女の子だ。白いワンピースを身に纏い、ビニール袋を手に提げている。

 僕が今までの人生で見た中で最も美しくかわいらしい。きっと小学校じゃ人気だろうな。でも、何でここにいるのだろう。


「あれ、由以子先輩の知り合いですか?」

「ああ、そうだな」


 おかしいな。この線が妥当と思ったのに、由以子先輩が含みを持った笑いを浮かべているぞ。何かがあるらしいけど一体何だろうか? 


「風太も私を知っていると思うがな」


 女の子は鈴の音のようなって形容したらいいのかな、そんな感じのかわいらしい声ですねた口調をしてくる。


「え? どうだったかな。僕の記憶には……あれ?」


 この口調は、天城先輩が不機嫌なときに似ているような? もしかして……。

 いやそんなはずない。僕は今日調子が悪いんだ。そうじゃないならこの子が天城先輩だなんて思わない。きっと天城先輩の親戚で口調が似たんじゃないかな。でも……。


「ち、ちょっと……そういえば今日は天城先輩の顔が見えませんね。何処にいるんです?」

「目の前にいるじゃないか」

「は、え、何を?」


 由以子先輩それ正気で言ってるの?


「私だよ」

「ま、まさか……」


 お、女の子までそんな事言って。僕をからかってるんでしょう。



「そうだ、私が天城だよ」

「えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 そんな嘘だ信じられないだって科学的に考えてありうるはずがない! でも一昔前に実験の失敗で女体化した科学者がいたってニュースになってたような……だからって天城先輩がそうとは限らないじゃないか! というか僕がまさかって言ったのはまさか天城先輩じゃないのかっていう意味じゃなくてまさか僕をからかっているんじゃないでしょうねっていう意味なのにー!


「何を言い出すかと思えば! ふざけないで下さいよ!」


 そ、そうだ! 携帯で天城先輩本人を呼び出そう! 由以子先輩もいい加減にしてもらわないと!


「ありがとう、おかげで携帯が見つかった」

「な……」

「はははは! 諦めたらどうだ?」

「何を言うんです! 信じられるはずがないでしょう!」


 何で君が天城先輩の携帯を当然のように持っているんだ!?

 え、本当にどういう事なのさ……。ここだけ世の中の常識が通じてないよ。


「それより話を聞いてくれないか」


 女の子が語り始めた内容は衝撃的なものだった。天城先輩は今まで研究をしていた魔法陣の完成ではなく召喚されたとか、召喚先の要求が女である事だったから今の姿にされてしまったとか、そこでは悪人が好き放題やってたからそれを捕まえたので帰って来れたとか。


「まだ信じてはくれないか」

「そうですねえ……僕も本当は会った当初から信じたい気持ちで山々なんですけど」


 僕の直観は結構早くから女の子を天城先輩として扱っている。でも、それじゃ駄目なんだ。理性が納得しないと彼女を天城先輩と認められない。


「いくつか質問をしてもいいですか」

「もちろん」


 女の子は僕の質問を全て即答していく。やっぱり本人……?

 いや、これを確認しないと認める訳にはいかない。


「……僕と先輩の接点は?」

「君が大学の内部情勢も知らず多次元世界論を学びたいと公言して干されかかっていたから私が誘った」


 そうそう、一年前に僕は天城先輩に助けられたんだ。懐かしい。今でも鮮明に思い出せる。


「信じられないですけど、今は天城先輩という事でいいです」

「今はそれでいい」


 あの天城先輩がこんなになっちゃうのか。


「素直じゃないな矢代風太!」

「やめて下さいよ由以子先輩!」


 何で認めた途端ヘッドロックかまされなきゃならないんだ! 理不尽だ!


「二人ともその辺にして朝ごはんにしよう。風太もコーヒーくらい飲むだろう」


 ああ、こういうトコは変わってないなあ。


「ありがたい」

「ありがとうございます」



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