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day1<01>清川由以子編




「あら」


 大学の部室で寝ていたら、いつの間にか天城文月が消えていた。さっきまで熱心に魔法陣の作図に励んでいたのに、何処へ行った?

 もしや……完成させたのかも。馬鹿な、早すぎる。しかし、あの天城だぞ?


「こうしてはいられない!」


 あいつの作っていたのは異世界へ行く魔法陣だ! 他の皆は笑っていたが、私は彼ならやれると思っている。

 でも、となると彼は今から異世界に行くってことじゃないか。


「何てうらやまけしからん!」


 私も異世界に行ってみたいのに! ドラゴンとか、勇者とか、魔王とか!

 危なくなったらあいつの魔法陣には帰還機能があったことだし、お気楽異世界旅行ができるんだ。

 そんな楽しい事に私を誘わないなんて!

 実験は何処でするんだろう? ああ、分からない。こんな事ならもっと早く完成させたら連れてってと頼んでおくんだった!


「ん?」


 今、外で何か光ったぞ。それも、一回じゃない。二回だ。一瞬彼の姿が見えたのに今は見えない。も、もしかしたら手遅れかも……。

 いやいやいや、考えるな! 今すべき事は一つ。


「走れえええええええええええええええええ!」


 全力を尽くしてさっきピカリと輝いた場所に走るが、間に合うのか不安だ。

 階段を何段も飛ばしてショートカット!

 さらに二階の窓から外に出る!

 そして木に飛びついて一気に着地!

 よし成功! 間に合え!


「駄目か」


 案の定というか何というか、私が外に飛び出た頃にはもう天城の姿は影も形もなかった。

 あれ、代わりに誰かいる。


「何だ? 何が起きた?」


 今私の目に映っている現象をどう説明したらいいのだろう。

 さっきちらっと見たはずの天城文月の姿は影も形もなく、代わりに一人の女の子が立っている。

 それも思わずよだれが出てしまうくらいのとびっきりの美少女だ。

 腰にまで伸びた黒髪は私のとは及びもつかないしとやかで、顔の造形は三次元で見た中では最高傑作と言っても間違いない。”ぼくのかんがえたりそうのびしょうじょ(じゅっさいじてん)”もいいとこである。


「おや、清川じゃないか」


 な、何故私の名前をご存じなのであらせられますか!? もしや私の知り合い? こ、こんな子を忘れるなんて私の馬鹿馬鹿馬鹿!

 んん、ちょっと待て。この……こんな調子で話す男を私は知っているような?

 いやいやいや、まさかそんな事がある訳ないでもあったら私得ですわー。


「な、ななななな! まさか天城文月と言い出すんじゃないだろうな!」


 口があらぶり過ぎ。落ち着いて!


「何だ。分かる人には分かるのだな。久し振りと言うと少々語弊があるかもしれないが、また会えて嬉しいよ」


 何……だと!?

 そ、そんな。こんな事がリアルで起きるなんて!

 否定したい! したいけど! ある訳ないと私の常識が叫んでるけど!

 私のソウル的な心の奥底の何かがこの子が間違いなく天城文月と告げているっ!

 ならばどうする!

 私は、私の判断を信じようではないか!

 天城文月! そう、私は信じるぞ!  信じてやろう!

 って、ちいちゃな体でこっちに歩いてキター!

 わわわわ私に手を伸ばしてきてるー!


「な、何をしているんだ」


 やばいやばいやばい鼻から血しぶきが出そう!

 落ち着け! 私のブレイン!


「何、呆けていたから喝を入れてやろうとしていただけだ」


 何この子かわいすぎてもう思考回路が焼き切れそうだが私には今まで心の中の混乱を一度も察せられなかった実績がある!

 見よ、超絶ポーカーフェイスぅ!


「で、手が届かなかったのか?」


 ふふっ! 何とも平静さを前面に押し出した口振り!

 ああでも駄目! 口が……口のにやつきが抑えきれない!

 何とか心を落ち着かせる時間を稼がないと!


「まあ春と言ってもまだ肌寒い。事情は部室で聞こうか」

「そうしよう」


 よし……部室に着くまでは天城文月の方を見ないぞ。見てしまったらもう終わりだ。率先して前を進むんだ。


「しかし未だに信じられないな、本当に天城文月なのか」


 何分か歩いて、いくぶん心が落ち着くとやはりこれはおかしいんじゃないかと思えてくる。何かのいたずらなのではないのだろうか。だって、あの渋かっこいい高身長イケメンだった彼があんな、まずいまずい思い出したら興奮してきた。


「疑うのも無理はないが、私が名前を名乗る前に言い当てたのは清川じゃないか」


 ごはあぁ……そ、そんなすねた口調でその台詞を吐くかああああああ。

 私を萌え殺す気か!


「まあ、そうなんだが……でもおかしいだろう! 何がどうなったら百九十二センチのたくましい肉体がそんなちっこくなれるんだ!」


 ああ、我慢の限界。振り返って姿を見たら体がオートマチックで動いてしまった。


「おい、抱き上げるんじゃない」


 すまない! もう無理! 制御不能でありますううううううううううううう!


「くそぅ! かわいいじゃないかこのヤロウ!」

「頬ずりをやめろ!」


 痛い。


「す、すまん。私も異常な事態に取り乱しているようだ」

「気にするな。私も初めは驚いたからな」



 しかし彼……というか最早彼女か。ためらいなくビンタしてきたな。ふふ、ふへへへへへへ。



「今失礼な事を考えてなかったか?」


 いやだ、私彼女に呆れた顔されてる。


「そんな事はないぞ。さ、早く資料室に行くぞ」


 でもその表情もしっかり脳内保存されます。あ、ああ。彼女の後姿……。

 こ、これはっ! ワンピースが薄い生地で出来てるおかげで体の輪郭が丸わかりではないか!

 あ、鼻血が出てきた。




 部室に着く頃にはもう私は、えへへ。


「さ、全て話すんだ天城文月」


 ソファに倒れ込んで色々ごまかしながら何がどうしてそうなったかを彼女に聞く。

 すると彼女は異世界についての話を始めた。

 一通り聞くと、世界の危機もなくただ玉村とかいう男が異世界で犯罪を起こしそれに巻き込まれた形のようだ。




「もう三時か。あっという間だな」


 時間の流れ早過ぎぃ! もう乾いちゃったよ。


「三時間もよく質問が途絶えなかったものだ」

「そうは言うが天城文月。君の体験がどんなに貴重なのか分かるだろう!」


 異世界行って性転換しておまけに能力手に入れて。うらやましいなあもう!

 でもやっぱ体験はしたくないかな。彼女もあっちで苦労したようだし、仲間も傷ついたらしいし。


「それは重々承知だよ。だから、そろそろ研究の再開といきたいのだよ」

「さっそくそれか。ふふ、君らしいな」

「そうかね?」


 外は変われど中身は天城文月のままか。安心した。

 いやあでも体の違いは大きいな!

 資料棚に手が届いてなくて背伸びしてる!


「ぷっ! ははは! 手が届かないか! 様にならないな!」

「……」


 ジト目は私を萌え死にさせるためですか!?

 さ、誘ってるんですか!?

 あ、ああもう駄目駄目! 一回眠って落ち着こう!

 ああんもう頭に天城文月が浮かんで寝れないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!







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