5話:皆さん、さらばです!
やったー! 百点! 五教科合わせてですけど……。
「いやー、藍の馬鹿さ加減にも困ったわね」
黒縁眼鏡を上にあげながら、友人の朋子が鼻で笑う。
そういう朋ちゃんはどうなのさ。
「私? 私は5教科合わせて450点だけど……」
「朋ちゃん! 裏切ったね」
きっと睨みつけたつもりが、朋ちゃんはひるまず正論を並べた。
「妙なアルバイトしてるからでしょう? だから、成績が落ちたのよ。まあ、普段から藍は馬鹿だけど」
「うぅ、だって……どうしても働かなくちゃいけなくて」
「イケメンさん5人だっけ?」
「そう! なんかね、わああってしてるの」
「……わああって言われても、あなたの説明じゃ分からないわ」
ぴしゃりと黙らされた。朋ちゃんってきっとSだと思います!
すると、朋ちゃんは思いついたように口を開いた。
「そういえば……この学校にもイケメン5人が居たわね。私は興味ないけど」
「あの5人だったらいいなー」
「あ、女子共が騒ぎ出したわよ。きっと、来るんだわ」
女子共……相変わらず口が悪いですね、朋ちゃん。
でも確かに、女子が色めきだっている。化粧直しをする子、胸元のボタンを一つ開ける子などなど……。
そんなに大げさな事なんですか? ちょっと気になります。
「朋ちゃん、私、ちょっと見てくる!」
「あ、ちょっと……」
周りのお嬢様達をかき分けて、そろっと覗いてみる。
あ、あ……
「あぁー!!」
思わず声を上げてしまった。周りのお嬢様達は一斉に私を見る。
視線が痛い。けど、やっぱりあの5人は……
「あれ、藍なんでこんなところにいるの?」
「わぁーあーちゃんだ!」
「同じ学校だったんですね」
「俺はてっきり小学……中学生かと」
「こら。海斗、それはさすがに失礼だぞ」
やっぱりイケメンさん5人だったんですね!!
すると、朋ちゃんにとんとんと肩をたたかれる。
「もう、勝手に行かないでよね……って本当に藍、このイケメン達と知り合いだったの?」
びっくりしたように、5人と私を交互に見比べる。
そして、感心したように呟いた。
「あなたって結構新手だったのね。こんな美少年5人を味方につけるなんて」
言い方がおかしいです、朋ちゃん。
「あーっと、川野。ちょっと話があるから来い」
桑原さんが険しい表情をしながら、私の腕を引っ張った
えっと……周りの視線が痛いです! 桑原さん。 なんだか悪口も聞こえます……。
「あの子がなんで?」
「あんまり可愛くないわね」
なんで、こんな羽目になるんでしょうか。
しかし、桑原さんはおかまいなしに私の腕を掴んだままぐんぐんと突き進む。
その後を止めもせずに、4人がついてくる。なんなんでしょうか? この異様な光景は。
「よし、ここなら誰も居ないな」
「あの、皆さん後をつけてきているのですが……」
そうです。背中にたくさんの悪意が感じられるのです。
すると、桑原さんは驚いたように目を見開く。
「やべーな。どうする?」
「どうして僕に聞くんですか?」
「こういう時は孝太の役目だろ!?」
桑原さんが声を荒げると、佐藤さんはふうっと溜息をつく。
すると、駆君がお嬢様達の前に出た。
「ねぇ、君たち。僕と一緒に楽しい事しない?」
不敵な笑みを浮かべた駆君を前に、お嬢様はばたばたと倒れていく。
さすがです! 駆君!
「僕もー楽しい事したいなー」
藤堂さんもへらっと笑って、お嬢様の手を取る。
「だめ?」
いやはや、藤堂さんもけっこうなプレイボーイだったんですね。
お嬢様の目はもう完全にハートです!
「川野。今のうちに逃げるぞ」
「は、はい」
桑原さんは猛ダッシュで走っていく。私はついていくのがやっとだった。
すると、桑原さんはいきなり急ブレーキ。私は前に居る桑原さんにぶつかってしまった。
「いたた」
「もう誰も来てないよな」
桑原さんは頭をさする私を無視して、話を続ける。
「おい。これは大切なことだからよく聞いとけ。学校で俺らに話しかけるのはよしとしよう。しかしだな、学校にはル・スリーのことは秘密だ」
「なんでですか?」
「知らなかったのか? この学校はバイト禁止だ。もし、学校にばれてしまったら、俺らはあのカフェを辞めなきゃならねぇ」
「えぇ!? そ、そうなんですか?」
「もしや……誰かにもう話してるのか!?」
朋ちゃんに話しちゃいました。どうしよう……。
「だ、大丈夫です。信用できる子なので……イケメンさんにも興味はないと言っていました」
「そう言う問題じゃねーんだよ」
桑原さんはちっと舌打ちをした。
そんな桑原さんに少し気圧しされてしまう。
「ご、ごめんなさい」
そう謝った私に桑原さんは少し驚いた様子を見せる。
「いや、別に怒ってる訳じゃねーから。ほら、泣くなよ」
「えっと、泣いてないです」
「そ、そうか。ならいいんだけどな」
うん。やっぱり桑原さんは優しい人だ。ちょっと怖いけど、優しさが見えます。
すると、4人の足音が聞こえた。
「なんとか引き留めましたけど、やっぱり無理でした」
「ほら、早く逃げなきゃ……来た!」
な、なんですかあれは……。
それは目をハートにして追いかけてくるお嬢様……いや、あれはもうお嬢様達ではありません!
肉食獣にも見えます。捕まったら……想像しただけで恐ろしいです。
「藍! このイケメン達を囮に使って逃げるのよ!!」
そんな朋ちゃんの声が後ろから聞こえた。
そ、そうですね! 私は関係ありません。
「後はまかせました! すみません!」
「は、薄情者! ぐはっ」
そんな桑原さんの声が聞こえてきたが、私は無視して逃げた。
すみません。皆さん。私はあなた達を犠牲にしても助かります!
さらばです。お葬式には必ず行きます。皆さんのことは絶対に忘れません。
皆さんに最後の別れを告げて、朋ちゃんと一緒に逃げるのだった。