表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

4話:女じゃねーから

 どうやら、私はあのキャンディーの虜になってしまったみたいです。

 キャンディーを舐めていると、横から片桐さんが声を掛ける。



 「あれ、またその飴舐めてるの? それは確か、良のお気に入りだったよね?」

 「はい。私もこのキャンディ―好きになっちゃって」



 甘いミルクの味。ほっこりとした味が藤堂さんのようで……落ち着く。

 すると、藤堂さんが横からひょっこり姿を現した。



 「あれぇー、あーちゃんもその飴好きなのー?」

 「はい。大好きです」



 満面の笑みでそう言うと、藤堂さんは少し固まった。

 あれ? 変な事でも言ったかな? おーい、おーい。藤堂さん?



 「あぁーごめんねー。何でもないよー」



 藤堂さんは焦ってそう返した。ちょっと珍しい。

 そして、藤堂さんはまたふらっと何処かに行ってしまった。

 すると、片桐さんは困ったような顔をして、頭を掻く。



 「まいったな」

 「どうしたんですか?」 

 「うん? 何でもないよ」



 片桐さんの思わせぶりな態度に更に疑問が募る。

 何か問題でもあったのかな?



 「おい、川野! 接客まわれ」

 「は、はい」



 桑原さんの大きな声でそんな疑問は吹き飛び、急いで接客に向かった。

 うぅ、慣れないんだよな。接客って。

 なんだか、私はお客様によく思われていないようで……。



 「あの子、なんで女子一人なのかしら?」 

 「決まってるわよ。男子にモテたいんでしょ?」



 そちらのお客様。ちゃんと聞こえておりますが……。

 しかし、お客様は神様です。しっかりと接客をしないと……。



 「注文はお決まりでしょうか?」



 愛想笑いをしながら、棒読みで尋ねた。

 すると、お客様は冷ややかな視線を投げかける。

 め、めげません!!



 「これとこれとこれね」

 「はい。かしこまりました」



 無愛想にメニューを返すと、また話を始める。

 な、慣れてますから。

 そう思い、踵を返そうとすると、何か引っかかってつまづいてしまう。



 「きゃあ!?」



 どて。それから前のめりにこけてしまう。

 目の前にはお客様の足。あ、引っ掛けられたんですね……。



 「あら、ごめんなさい」



 お客様の冷やかな笑みが視界に広がる。

 それだけで心がズキンと痛んだ。涙が目の端に浮かぶ。

 しかし、必死に愛想笑いを作った。



 「だ、大丈夫です。すみません」



 立ち上がろうとすると、足首に強い痛みが走った。

 痛っ……。どうしよう。

 すると、きびきびとした足音が聞こえた。



 「申し訳ございません。こいつはすぐに手当てをするので……」



 この声は多分、桑原さんだ。

 すると、ひざの裏と背中に手を掛けられ、それからふわりと体を持ち上げられる。

 これは、もしや……。



 「あの、大丈夫ですから! 自分で歩けるので……」

 「馬鹿か!? 立ち上がるのも無理だっただろうが」



 いや。でも、さすがにお姫様抱っこは……。

 ほら、お客様もぽかんとしているじゃありませんか。



 「や、嫌です。お、降ろしてください!!」



 しかし、桑原さんは私を無視したまま休憩室に直行した。

 そして、ソファに乱暴に体を投げ出される。



 「大丈夫か? 一人で無理すんな。お前、あいつらに足を引っ掛けられてただろう?」



 無愛想だけど優しい声色。

 そんな桑原さんに涙が少し出てきてしまう。



 「お、おい。なんで、泣くんだよ。……ったく」



 ぽんぽんと大きい手が私の頭を撫でてくれる。

 だめです。そんなことしたら……もっと泣けてきます。



 「ふぇ、ありがとうございま、うえーん!」



 気が付いたら、桑原さんの胸に抱きついて、思いっきり泣いていた。

 桑原さんは少しとまどいがちに、背中をさすってくれる。

 


 「ほら、少しは落ち着いたか?」

 「は、はい……ひっく」

 「お前、鼻水垂らしてるじゃねーか、ほら」


 

 そうティッシュを差し出してくれたので、思いっきり(はな)をかんだ。

 そんな私をみて、桑原さんはふっと笑みを漏らす。



 「ほんと、色気の欠片もねーな。普通なら恋愛に発展するところだが……」

 「な、何気に失礼です」

 「んじゃ、落ち着いたら戻ってこい。って、お前の鼻水でT-シャツべとべとじゃねーかよ!」



 面倒臭そうにT-シャツを脱ぎ捨てる。

 あの、仮に女の私が居るんですが……。



 「あの、すみません。私が居るんですが……」

 「あ? あぁ、お前は女じゃねーからな」

 


 がーん。さっきの発言はかなりショックを受けてしまいます!!

 すると、桑原さんはすっと目を細めた。



 「もしかして、お前は俺を男として見てるわけ?」



 上半身裸のまま近づいてくる桑原さんに、私は少し身の危険を感じた。

 しかし、桑原さんは少し意味ありげな笑みを含んだままじりじりと近づいてくる。

 背中に壁の冷たい感触が当たると、桑原さんは横に手を突いた。あと1ミリで唇がふれてしまいそうな距離。



 「あーだめだわ。やっぱり、お前には色気がねえ」



 そう言って、私から離れると、清潔なほうのT-シャツを着なおした。

 そして、部屋を出て行った。



 「……やっぱり失礼です」



 そんな桑原さんの背中にぼそりと呟いた。



 

 



 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ