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贖罪

作者: 白石歌香

 歩み続けてもう何年立つのか。千を超えた辺りからどうでもよくなってしまった。

 周りは一面荒れた大地と切り立つ壁ばかりで、生物の後など見る影もない。元々僕以外存在しない世界なのだから、それも同然だが。

 1歩1歩の歩調はすでに遅く、靴などとっくの昔にすり切れて脱いでしまった。替えの靴はまだたくさんある。

 でも敢えて履かない。僕の罪はあまりに重くて、甘えなど赦されないからだ。

 日中のぎらぎらと照りつける太陽に熱された地面は熱く、尖るように突き出た岩で足はもうぼろぼろだった。

 太陽は足のコンディションを最悪にするだけではなく、体力さえも奪い取って行く。着ている服は麻なため軽くはあるが、砂から身を守るローブが熱を発散させない。

 しかし昼は暑く夜は寒いこの過酷な世界が僕にはちょうどよかった。その劣悪の環境で歩み続けることに意味がある。それが、君にできるせめてもの贖罪なのだから。

 時折起きる砂塵の嵐に身を汚しながら、それでも僕は終わりの見えない前へと向かった。君と別れたあの時から僕の心の中の世界は荒野だ。


 いつの間にか夜になっていた。何もないこの荒野の夜は寒く、厚着をしないと凍えて死んでしまう。僕はバックパックから厚手のコートを取り出した。

 死ぬことは簡単だ。でも僕は死んで赦されようとは思わない。君が生きて苦しめ、と言ったから。だから死ねない。

 夜になっても僕の足は前へ進むことを止めない。寝ることが必要ではないこの世界で足を止めるなんて、甘え以外のなんであろうか。24時間起き続けて、24時間歩き続ける。自由なんて何一つない。

 夕闇で暗くなっているこの世界の空を見上げると星が綺麗に見えた。地平線すれすれに明るく輝いているあの星は確か、アルタイル、ベガ、デネブ。どうやら今日の珍しく夜空は夏のそれのようだ。あの星3つを繋ぐと大きな三角形になるんだ、と君に力説されたんだっけな。

 君との思い出が一番深い夏の季節は、僕にとっては嬉しい空模様だ。反対に決別した冬の空は嫌いだ。でも嫌いだからこそ冬の空が登場する回数は多いのだが。

 君と出会った頃の僕は何でも簡単に信じて、何でも簡単に信用した。あの頃の僕はひどく純粋だった。でも今は違う。

 君を結果的には裏切ることになってしまった第三者の嘘。僕にはあんな簡単な嘘すら見抜けなかった。だからもう何も信じない。

 あんな嘘騙された僕はこの荒野を延々と歩き続けなくてはならない。でも出来るなら君と過ごしたあの日々に戻りたい。それは出来ないとは分かりきっているが、それを願うばかり。

 とりあえず。

 とりあえず、遥か彼方の地平線に沈み行く三角形の元までいけは何とかなるだろうと漠然と思った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 情景描写や主人公の置かれた状況の表現方法はいい。 [気になる点] 説明的な地の文だけで構成されている点。 主人公がどんな人物なのか、何故そうなったかなどがはっきりしない。 [一言] 「雪ウ…
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