☆09☆
俺はホント…幸せだったんだ。
このひと時が…。
こうして愛子ちゃんと並んで歩く事が夢だったんだ。
でもその愛子ちゃんは俺と美代子の『恋』を願っている。
「美代子とはつき合って行けそう?やっぱりまだ無理?」
正直…胸が痛い。
「…彼女に対してまだそんな気になれない…。
でも、前よりは嫌いじゃないよ」
「それは料理が上手かったから?ポイントが上がった?
あ〜ん、男の人ってやっぱそういうの求めてんのねー。
私もがんばらなきゃなー。」
「ははは…それもあるけど、
俺が美代子に対する気持ちを変えたって事が大きいよ…。」
「なんでまた…?」
「まあ簡単に言えば、見た目から入り過ぎたって事かな?
中身を重視したら中々いないくらいイイ子だなーって…」
「うん。彼女はイイ子だよ。
私が保障する…もう、遅いぞっ!今頃美代子の良さに気づくなんて…」
そう言って愛子ちゃんは俺の肩を叩いた。
ホントそういうトコが好きなんだ…。
「ごめん、私行かなきゃ…。またね…」
遠ざかっていく愛子ちゃん。
「……。」
(やっぱ、俺は愛子ちゃんが好きなんだな〜。
話してて安らぐや…)
見えなくなるまで愛子ちゃんを見つめていた。
放課後。
「拓郎くん…あたし…今日は用事あるから先帰るね…」
と、美代子が言った。
「あ・うん。明日な」
「また後でメールするから…じゃあね」
「おうっ!」
最近の放課後は美代子と話しながら帰るコトもしばしばあった。
急に一人になると何だか物足りない気がする。
完璧に美代子のペースにハマッてる自分に恐い気もするが…。
「森下くぅ〜ん…」
後ろから愛子ちゃんが走って来た…。
「今日は美代子は一緒じゃないの?」
「なんか用事があるってさ。今帰るんだ?」
「うん。じゃあ途中まで一緒に帰ろ。」
「そうだね」
さっきもこうして一緒に歩いていたのに
遠い昔に感じる。
それだけ待ち遠しかったのかな?
あどけない笑顔で愛子ちゃんは聞いてきた。
「ねぇ、なんか聞きたい事ある?
美代子の事とか…私の知ってる事なら教えてあげる…」
「…え!?ああ、じゃあ…
なんで美代子は俺の事好きになったんかなーって…」
「やだぁ、そんな事本人にまだ聞いてなかったのー?」
「ーっていうか、最近まで話すらしてなかったし…。」
「…う〜ん。私、最近知ったんだよ。
美代子が森下君を好きだってこと。
きっかけはね…昔、美代子がいじめられた時、
森下君が助けた事があったらしいの…」
「え?俺が…?」
俺はすごく驚いた…。
確かに美代子とは昔から同じ学校にいたが、
口を聞いた記憶も正直ないし…。
何故、
美代子は俺にその事を先に言わなかったんだろう…?
「え…?俺、美代子を助けた記憶なんてないけど…」
「…うん。美代子も言ってた…
きっと拓郎君は忘れてるだろうって…
小学生の頃の話だしね…」
「じゃあ、それ以来ずっと俺の事を…?」
「…うん。中学も高校も森下君を追っ掛けて来てるの…」
「…そう…なんだ」
俺は言葉が出なかった…。
「美代子が俺に対する気持ちが少し度を超えてる理由が何となくわかったよ…。
彼女からすれば長い時間俺に近づける日を待ってたんだね…」
「そうよ。私にでさえ自分の気持ちを隠してたんだもの。
そーとーな想い入れよ…」
「でも、
俺ずっと美代子と話した事ないと思ってたけど
過去にあったんだな〜」
「ふ〜ん…ホントに森下君忘れてるんだ?
さっすが美代子ねぇー。森下君の性格見抜いてる…。
私はそこまで森下君の性格見抜けないよ」
「…だって愛子ちゃんとは会ってまだそんなに時間経ってないもん。
仕方ないよ」
「……そうだね。」
愛子ちゃんはそういって急に顔をうつむいた…。
「愛子ちゃん?」
「……ごめん。」
「…?」
「前から聞こうと思ってたんだけど…」
「う・うん…」
「……あっ・あのね…」
…ピピピ〜♪…
突然、俺の携帯が鳴り出した。
何かを言いかけた愛子ちゃん…それも真剣な顔つきで…だ。
俺はすぐにでも続きを聞きたかったんだけど…そうはいかない。
俺は電話を取り出し、通話ボタンを押した。
「あ・ごめん。……はい、もしもし…」
『拓郎か?俺、けんじだけど…』
「うん、どした?」
『今…美代子の家の前にいる…』
…その一言から事件は始まったんだ。
次回から急展開!お楽しみに!