☆17☆
美佐子はスタンガンを取り出す。
それに気付いた俺は…
「…んん!ん〜ん!んん!」
いくら俺が声を出しても愛子ちゃんは気付かない。
そして愛子ちゃんは…
「きゃあぁぁーっ」
…ドサッ…
そのまま倒れ込んでしまった。
「きゃははは…。見た?ねぇ見た?愛子の倒れ方…。マンガみたい!…ばぁ〜か!」
「…ん」
「気付いた?愛子ちゃん…」
「………その声は……森下くんっ!?」
愛子ちゃんはびっくりして起き上がろうとした…
「きゃっ…」
「だ、だめだよ。急に動いたら…」
「何コレ?」
愛子ちゃんも俺と同じように体中ロープに縛られてた。
「おっはー」
美佐子が元気な顔をして現れた。
「………!」
「やだ…そんな顔しないで…あたし達友達でしょ?」
「あなたは誰なの?何故こんな事する必要があるの?」
愛子ちゃんは割りと冷静に美佐子と向き合っていた。
こんな状況だってのに…意外に強い。
俺はついつい感心してしまった。
「……ふぅ。やれやれ…。それよりさ、ハラ減ってない?
ほら、作ったのよ。焼肉ピラフ…。愛子も知ってるよね?
うちの肉は日本一おいしい肉って…」
そういって二人分の皿をもって来た。
「はい…拓郎くん」
美佐子は俺の前に来て、またキスをしてきた。
「んんっ」
舌もからめてくる…。
「うふふ…大胆よね。拓郎くん…」
「…ぶはっ!お前が勝手にやったんだろーが!」
そんなやり取りを見て愛子ちゃんはポツリと言う。
「…違う。美代子じゃない…美代子はそんな事できる人じゃないもの…」
愛子ちゃんの言葉がカンに触るのか、美佐子は愛子ちゃんの髪を掴み引っ張った。
「…きゃっ!!]
「アンタさぁ、さっきから美代子じゃないってうるさいのよ!
そうさ、あたしは美代子じゃない…!美代子の双子の姉の美佐子だよ!」
「…え?お姉さん…?」
「そ。ウリ二つでしょ…?」
「…じゃあ…美代子は?けんじくんはどこ?」
「…さあ。」
「ねえ!森下くんっ!あの二人はどこなの?」
「………。」
「ねぇ…!」
俺は愛子ちゃんの言葉に返事する事が出来きなくて…ただ俯いていた。
言葉にするのが怖かったからだ。
「ちょっとあたし…トイレ…あなた達は?
バケツ用意してあるからいつでもオッケーよ。あははははは…」
スタスタ………バタン。
美佐子はトイレへ行ったのを確認するなり、
愛子ちゃんはこっちを見た。
「…ねえ…森下くん…あの二人はどうなったの…」
「………。」
「ねぇ!ちゃんと言ってよ!」
しつこく聞く愛子ちゃんに俺は言いたくない言葉を放った。
「……死んだよ…」
自分の口で言うと現実味が増してきて辛い。
「え…!?それって…殺されたって事?」
「…いや…美代子は自殺したらしい…」
「…うそ…」
「けんじのやつは事故死ってやつかな…」
「じゃあ…お姉さんは直接的には何もしてないのね…?」
「…ああ…」
「…実はね、今私の服の中にマイクがあってね…。
そのマイクは近くにいる刑事さん達につながってるの…」
「−え!?」
「だから会話はつつ抜けなのよ…。あ・来たっ!」
……スタスタ…
「ふぃースッキリ。」
「………。」
「さ、アンタ達あたしが作ったピラフを食べてもらうわ」
カタッ、カチャチャ
「ほら、あ〜んして拓郎君…」
「……いらない…」
「まぁた言う!なんで困らせる事ばかりいうの!」
美佐子の声が大きくなる。
…頭がズキズキする…
気付けばさっきの言葉が聞こえてきた。
『死んだよ…』
自分で言った言葉が自分の声で繰り返される。
『美代子とけんじくんは?』
『死んだよ』
…ズキズキ…
『美代子けんじ』
『死ん死だ死よ』
…ズキズキズキ…
『…と…くんは?』
『…死…』
『美代子とけんじくんは死んだよ』
ズキズキズキズキズキズキ
「いい加減にして!子供じゃあるまいし!食べなさい!」
その言葉に目が覚めたように美佐子を見た。
すると一気に恐ろしいほどの感情が押し寄せてきた。
「……食べれない…食べられるわけないだろう…!ううっ」
「………!?」
「…うぅっ…くっ」
「あなた泣いてるの?拓郎君…」
今頃になって二人が死んだ哀しみがやって来た。
俺はただ泣く事しか出来ず、声を震わしていた。
涙が次から次へと溢れ止まらなかった。
「大丈夫?森下くん…」
もはや愛子ちゃんの言葉も耳に入らない。
「かわいそうに…でもね、泣いたってムダよ!さあ!食べなさい!」
美佐子は俺の口に無理やり押し付ける。
「…うぅ…!!」
「もうやめて下さい!お姉さん!」
「うるさいわねっ!あんたなんかにお姉さんって言われる筋合いないわ!」
バシッ…!
「きゃっ…」
美佐子は愛子ちゃんに平手打ちを食らわした。
「いい!?あんたにも原因あるのよ!
あんたがいるからこの男はあんたに惚れ、美代子はフラレたの!
あんたが生きているから妹は死んだの!」
「………!」
「ねぇ二人とも!お願いだから返して!美代子をあたしの元に返してよぉぉ…!」
美佐子はその場で泣き崩れた。
「返して!…うぅ…う…」
「……。」
「……。」