☆12☆
「おはよー!森下君」
愛子ちゃんが笑顔で声を掛けてきた。
「あ・美代子も一緒?」
「ううん。まだ見てないけど…どうかした?」
「けんじの奴が来てないんだ…家にも帰ってないらしい…」
「何かあったの?」
「俺の携帯に入ってた留守電を聞いてくれ」
俺は愛子ちゃんにけんじの入れた留守電を聞かせた…。
「これって…美代子の家に行った後何かあったって事?」
「わからない…教室に行ってみよう…」
教室には美代子はまだ来てなかった…。
そしてホームルームが始まった…。
「なんだー!美代子は休みなのかー?」
担任が皆に問い掛ける。
みんな興味ないのか無反応だった。
「先生には連絡なかったぞ…めずらしいな…
けんじの奴はゆうべから帰ってないと両親から電話あったし…」
ガララ…
「遅刻してスイマセン…」
美代子が遅れて教室に入って来た…。
「何だ遅刻か…?めずらしいな…まあいい、席に着け…」
「はい…」
席に着こうとした美代子と目が合い−…
「お早う。」
「…お…おう」
いつもと変わらない美代子がそこにいた。
「なあ…美代子…」
「…なあに?」
「昨日…けんじと会った…?」
「…え!?なんで?」
「…あ・いや…」
「だってあたし、けんじ君とあんまし話した事ないし…
会ったとしても話が続かないわよ。何でそんな事聞くの…?」
「…いや…何でもない…気にしないでくれ」
美代子の態度はいたって冷静だった…。
ホントに知らないのか、それとも演技なのか…。
授業が始まり時間は経っていた。
もちろん、俺は授業に集中できない。
けんじはどこへ行ったのだろう?
あの留守電の声は明らかにおかしかったから美代子の家で何かあったのは確かだ…。
突然、マナーモードにしていた俺の携帯がバイブしていた。
先生にバレないように携帯を取り出したら画面にけんじの名前が表示されていた…。
(けんじ!?)
電話ではなくメールだったのでメール表示ボタンを押した…。
“助けてくれ!今、美代子の部屋で身動きとれない状態だ。
かろうじて手が動けるからメールした。”
とだけ送られてた…。
…やはり、けんじは美代子の家にいた…!
俺は美代子にバレないようにけんじに返信した。
“場所はどこなんだ?”
ふと美代子の方をみた。
彼女は何も気付かずノートをとってた。
どうやらこっちに気付いてないらしい。
振動がまた来た。
メールをみたら返事が入ってた…。
“場所は−…”
そこには『ある場所』を書いてあった…。
たぶん、美代子の家だろう。
(そこならわかるはず…。ちくしょう!今、授業中だぞ!どうすれば…)
俺は今すぐにでもけんじを助けたかったがどうする事も出来ない。
(ん?待てよ…)
俺はある考えを思いついた。
(授業中だったら美代子は家に帰らない…)
俺は急いでけんじに返信した。
“今、助けに行く。もう少し待っててくれ”
送信ボタンを押すなり俺は席を立った。
ガラララ…
「ん?どうした?森下…」
「先生…気分が悪いんです…早退してもいいですか?」
「どうした?んー?確かに顔色悪いなぁ」
「お願いします。マジで身体がキツイんです。自分の体は自分がよく知ってます…」
「…かなり顔色悪いから…そうだな帰って休んだ方がいいな…」
「すいません…」
俺は急いでカバンに教科書を詰めた…。
「大丈夫?拓郎君…」
「…うん。じゃあ…行くね…」
昨日のけんじの留守電と睡眠不足のせいで
顔色がホントに悪かったのが幸いして教室を出る事が出来た。
俺はそそくさと教室を出て、けんじがくれたメールで美代子の家へ向かった…。
(ここだ…)
俺は美代子が住んでるアパートの前までやって来た…。
階段を上がり部屋の前まで歩いた。
(けんじ…今たすけるぞ…)
まず、俺はドアノブをひねった…。
…開かない…当然だよな。中にはお姉さんらしき人もいないようだ…。
(…どうすれば?)
ドアの横には窓があった。
そこを開けようとしたら開いた。
(おいおい鍵かけろよ…)
だが人間が入れるほど大きな窓ではないので腕を入れ裏から鍵を…
しかし、届かない。
中を覗くと台所になっていて目の前に雑巾がハンガーでかけられてた。
(これか…)
ハンガーを取り出し、それを棒の様に伸ばして裏から鍵を開けた。
“ガチャ”
俺は忍び足で部屋に入るとドアを閉めた。
“バタン”