☆11☆
「もしもし…けんじだけど…
今、美代子の家の中にいる。ハア…ハア…
俺…とんでもないもの見てしまったんだ…ハア…あいつ…ヤバイよ…
いいか!絶対美代子には近づくな!…またあとで連絡する…」
…ピッ…
「ちくしょう…何で電話に出ないんだ?」
俺の名前はけんじ。
知っての通り拓郎の親友とでも言おうか?
実は今日は美代子の普段の生活を知る為に後を尾けた。
多分、美代子も拓郎に同じ事をしたであろう。
だからではないが同じ事をしてみた。
アパートの前で隠れながら立っていたら、美代子のヤツが出て来た。
俺は拓郎と電話してたからすぐに切ったんだ。
そして俺はアパートの階段を上がり、
ちょうど美代子と姉さんの部屋のドアの前に立って見た。
ドアのノブをひねってみると鍵は掛かってなかった。
中を覗くと誰もいなかったんでこっそり入ってみた。
悪い事をしてるのはわかってるが
俺の好奇心なのか冒険心なのかはわからないが
押さえ切れない何かがあって行動した。
「………。」
…今…それを後悔してる…。
拓郎の言う様にヘタに関わらない方が良かったかも…。
(はっ!鍵が開いてたって事はすぐに戻って来るって事だ…!
早くこの部屋から出よう…!)
俺は急いで出ようとした…。
“カンカンカン”
(ヤバイッ!美代子の足音だ…ちくしょう…ベランダからは降りられないし、
隠れるしかないのか!?)
俺は急いでクローゼットに身を隠した…。
“ガチャ”
美代子がドアを開けて入って来た。
俺は隙間から美代子の姿をはっきり確認すると息を殺す。
(…俺は見てしまった…美代子の秘密を…
あれは…明らかにそうだ…絶対にそうだ…
早くここから出なければ…)
美代子は鼻歌を歌いながら台所にいた…。
ああ、多分 明日の弁当の材料でも買って来たんだろう…。
その姿は健気に見えるはずだろうが真実はそうじゃない…!
彼女は狂ってる…!
イカレてるんだ…俺はクローゼットの中で震える身体を必死に押さえた。
そうすればそうするほど震えは襲って来て気が狂いそうだった…。
そして、無意識に携帯を持っていた右手が何かに当たった!
“カタッ”
(ヤバイッ…!)
美代子はすかさずこっちを見た…。
(…バレたか?…)
しかし、美代子はあまり気にせず台所に立っていた。
(…ふぅ…良かった)
「何してるの…?」
俺はハッとした…隙間から覗くと、目の前にいた美代子と目があった…!
その瞬間、ばっとドアが開いた…!
「いらっしゃい…けんじくん…」
美代子はニッコリと微笑んでいて、右手には包丁を持っていた…。
「ねえ…アンタさあ、ストーカーなのぉ?」
美代子の顔は急に険しくなり、俺の顔に包丁を当てた。
「違う…ジョークなんだ…美代子を驚かそうと…」
「嘘つき!このお調子者がっ!バレバレなのよ…」
「ははは…バレたか?わかった…警察にでも突き出す?」
「…ねぇ、アンタさぁ…拓郎君にあたしと付き合う事反対してるでしょ?
かなり迷惑なんだけど。」
「…わかった。俺を警察でも何でも突き出してくれよっ!あんたの気が済む様に…」
「…見たんでしょ?」
「ん?何を…!?」
「あの中を…」
そう言って美代子が指した場所は
この小さなアパートには似つかわしくない巨大な冷蔵庫だった…。
そして
「アンタも入る?」
美代子がやさしくそう言った…。
「な・なんだよ…アレは…誰なんだよ…」
「さあ…。誰と思う?あなたも知ってる人だと思うけど…」
「は…!?」
俺は美代子がしてきた事を全て話した…。
そして美代子の事で愛子ちゃんは泣いていた…。
「大丈夫?愛子ちゃん…」
「…うん。ごめんね…何か…
つい感情的になっちゃって…そんな事があったんだ…」
愛子ちゃんはゆっくりそう言った…
「がっかりした?親友がそんな事するなんて…」
「……手紙を渡した日ね…森下君が来るのをしばらく待ってたんだ…
1時間近く…そしたら美代子が来たの…
委員会か何かの居残りで…今思えば嘘だったんだけど−…
『愛子…何してるの?こんなトコで…』
『あ…うん。人を待ってたんだけど…美代子…私フラレちゃった…』
『ヤダ!告白するつもりだったの?どうして教えてくれなかったのよ』
『…ごめんね…』
『ううん。大丈夫?』
…−私、美代子の声聞いたら何だかホッとしちゃって涙が溢れてきちゃって泣いたのね。
そしたら美代子も泣いてくれて…
「そんなの芝居だよ。その直前に俺に告ってるんだよ!?」
「うん、そこまではね…でもそのあと−…
『愛子…ごめんね』
『なんで美代子が謝るのー?』
『ううん…何となく…ごめんね…』
『チーン(鼻をかむ音)』
…−つまり、少なくとも美代子は罪悪感があったのよ…」
「…いつ美代子から俺の事を聞いたの?」
「たしか…翌日、美代子は学校休んだでしょ?
そのまた翌日に聞いた…もう、学校中の噂だったけど…」
「待ってよ!手紙の翌日にたしか、教室の前で会った時
『あれが答えなの?』
って美代子の事じゃなかったの?」
「違うわよ。私の手紙に対する答えの事聞いたのよ…
森下君が『そーだよ』って言うからかなりショック受けたけど…」
「そうだったんだ…美代子がホントに罪悪感があったなら
何故愛子ちゃんに真実を話さないんだろう…」
「…そうね…」
そして、俺達二人は納得しないままそこで別れた…。
翌日
俺は学校に来るなり、けんじを探していた。
あれから留守電のメッセージを聞き、こちらから電話してもつながらないし、
家に電話しても帰って来てない…。
もしかしたら今日学校に来てるかも知れない。
そう思って探してるのだが見当たらないのだ…。




