☆10☆
けんじからの電話だと気付き、
俺は愛子ちゃんから少し離れ、小さい声で
「お前なぁ、そーいう事やめろよ!バレたら問題になるぞっ!」
『ここまで来て今更やめられるかよ。
何が何でも俺は美代子を調べあげてやるぜ…』
「何でそこまでムキになるんだ?
親父さんの事関係してんのか?」
『ば〜か。親父は関係ないだろ?
死んだ親父なんか今更どうでもいいさ…
でも、気持ちはわかるな。俺は今この状況にハマッてるし…』
「遊び半分でやるなよ。犯罪だぜ!」
『ただ単純に美代子の事知りたいだけさ。
あっ!美代子が出てきたっ!またあとで連絡する。じゃあな…』
「あっ!おいっ…」
…プッー・プッー…
けんじは一方的に電話を切った。
俺は半ば呆れ、呟いた。
「ーったく…」
「どうしたの…?」
愛子ちゃんが心配そうに俺を見てた…
「あ・いや…」
(けんじの事は愛子ちゃんに言えないや。)
俺は携帯をポケットに入れると、話を誤魔化す様に問いかけた。
「そういえば、さっき何か言いかけてなかった?」
「え?…あ、うん…もういいです…」
「何だよ〜!気になるじゃん。言ってよ。ちゃんと聞くからさ」
「…大した事じゃないの。わかりきった事なんだけどね…」
「…うん」
愛子ちゃんは一唾飲むと俺を見た。
「どうしてあの日来なかったの…?」
「え?あの日って?」
「私が少し遅れたのも悪かったけどさ…」
「…いつの話?」
−俺は嫌な予感がした−
「だから私が森下君に手紙を渡した日…」
「!?」
「…?…来なかったでしょ?あの日…」
−俺は確認するように言った−
「だって、あの場所には美代子がいたんだよ…。
そこで俺は告白されたんだ…」
「…??…」
「え?じゃあ…あの時の手紙は愛子ちゃんが俺宛に書いたの?」
愛子ちゃんは急に後ろを向いた。
「…あ、ち・違うわよ。今の忘れて…」
そう言って俺から少し離れた…。
俺は愛子ちゃんの肩を掴み、
「待って!マジで正直に答えてくれよ!
あの日俺を呼び出したのは美代子じゃなくて愛子ちゃんだったの?」
「………。」
「愛子ちゃん!」
愛子ちゃんはゆっくりと俺を見て
「…うん…あの手紙を書いたのは私で、森下君宛よ…」
そう言った。俺は一瞬真っ白になったが、
理性を保ち、続けて質問をした。
「あの日…俺を手紙で呼び出した事…美代子は知ってた…?」
「ううん。でも、私の気持ちを彼女に話した事あるわ…」
「え!?気持ち?その…俺を呼び出した理由ってやっぱり…」
「…そうよ。私、森下君の事…好きなの」
「…あ…どうも…」
俺は一気に顔が火照って来た。
「でも、森下君は今は美代子の事好きなんでしょ?
私の出るスキなんてないよね…」
「…あ、いや。スキがないどころかスキだらけで…」
俺はデヘヘといわんばかりに舌を出す。
だが、愛子ちゃんは真顔で遠くを見ていた。
「…でも、私、美代子の事裏切れない。
だから森下君…美代子の傍にいてあげて…」
「ちょ、ちょっと待ってよ。
美代子は愛子ちゃんの気持ち知ってて俺に告白したんだよ!
それって友情を裏切ってる事にならないか?」
「…私も美代子には何となくいいな〜って軽く言ってただけだから、
ホンキにしてなかったかも…」
「だからって君に何も言わず俺に告白したってのか?」
俺は美代子のやり方にだんだん腹が立って来た。
それでも愛子ちゃんは美代子をかばう。
「…私、知らなかったのよ。
同じ日に告白しようとしてたなんて…
あの日、森下君私の事キライで来なかったんだと思ってた」
「でも、美代子は言ってた。愛子ちゃんに手紙を書かせて俺を呼んだって…」
「え…!?」
しばらく間があった…。
愛子ちゃんは訳がわからなくなってる様子だった…。
「美代子は…私が手紙を渡したのを知って森下君に告った…。
たしか美代子は昔から森下君を好きだったはずだから…
私に取られるのが嫌で…
そういえば、あの日…美代子の頼みで
プリントを先生に渡しに行って少し遅れたのよ…」
「ほら、その間に美代子は俺に告白したんだよ…
明らかに美代子のワナじゃん…」
愛子ちゃんはゆっくりと肩を落とし
「…そうね…でも、それだけ森下君が好きなのね。
誰にも本当の気持ちが言えなくて…
親友の私にでさえズルイ手を使ってまで森下君と付き合いたかったのよ…!」
「…いや、あのね…そこまでして美代子をかばわなくてもいいんじゃない?
俺だって…あの日期待してたんだ…もしかしたらって」
「え?」
「…だから…俺も前からずっと気になってたんだ…愛子ちゃんの事は…
でも、君は俺と美代子をくっつけようとするから俺の事好きじゃないと……。」
「逆よ!好きだから応援してたのよ。
大好きな美代子と森下君だからうまく行ってほしかったの!」
「…………」
「…でも半分はツラかった…。
二人がだんだん仲良くなってるの見て…」
「愛子ちゃん…」
俺は愛子ちゃんの肩を強く掴んだ。
愛子ちゃんは俺を見ると首を横に振った。
「…でも、もう遅いよ…。
美代子だってその気だし…
クラスのみんなだって二人は付き合ってるんだと…」
「…俺は…前から言ってるけど美代子とは付き合う気ないよ」
「そんな事言っても…毎日弁当食べてるし、
放課後は二人でよくいるじゃない!どう見ても付き合ってる様にしか…!」
「君は知らないんだよ、美代子の本性を…
彼女は確かに外見は可愛くない…
でも、そういう人って性格は美人だって
よく言われてるけど美代子は見たまんまだよ。
彼女は欲しいモノはどんな手を使ってでも手に入れるタイプだよ。
今日それがはっきりわかったよ…」
「もうやめてよ!美代子の悪口は…」
愛子ちゃんは混乱のせいか急に泣き出した…。
「愛子ちゃん…」
俺は泣いてる愛子ちゃんを見てるしかなかった…。
その時携帯が鳴った。
画面にはけんじの名前が出てたのだが、電話には出なかった…。
その時入ってた留守電のメッセージこそが事件の始まりだった…。
次回はけんじ編です。