☆01☆
俺の名は『森下 拓郎』とある高校に通う17歳。
俺はこれといって頭がいいわけでもなく、運動神経がいいわけでもない、
ましてや顔だって良くなければ、ガタイだっていいわけではない。
どこにでもいる普通の男だと思う。
そして、こんな俺でもある女の子を好きになってしまった。
彼女の名前は『浅田 愛子』といって俺と同じクラスの女子である。
「ヤベェ、遅刻だっ」
俺は急ぎ足で教室に向かった。
俺の担任は時間に厳しいので一分の遅刻も許さない。
遠くに教室が見えた。
(どうやら間に合いそうだな…)
−と、そう思った時、廊下の奥から誰かが走って来る気配を感じた。
振り向くと奥から女子生徒が走っていて、
「間に合うわよね?」
と、とっさに俺に問い掛けた。
「あ、ああ…」
俺は少しスピードを落として答えると、
「ほらほらぁ、急がないと遅刻しちゃうゾ!」
と言いながら、彼女は俺を追い抜いた。
…そう!彼女こそが俺の憧れの天使!『愛子』ちゃんなのだっ…!
かすかに匂う愛子ちやんの髪の香りが俺を幸せにする…。
その幸せにひたりながら走ってるもんだから俺は思わず自分の教室を通り越してしまった…!
「ア・アレ!?」
たちまち教室から笑い声が聞こえた。
「森下く〜ん、何やってんの!?」
愛子ちゃんが入口の前で笑いながら言う。
「あははは…」
俺は、照れながらそそくさと教室に入った…
今日はかなりハッピーだ。
あの愛子ちゃんと一緒に教室へ入れたのだから…昼休み中俺はメロメロだった。
その時後ろから声がした。
「森下くんっ、あの……」
振り返ると愛子ちゃんが立っていた。
「…あ、何?」
「…うん、あのね…」
彼女が近づいてくる。俺は固まっていた。心臓がドキドキして息が苦しい。
「……これ。」
彼女は封筒らしきモノを差し出した。
「俺に…?」
「…うん…」
俺はその封筒を受け取った。
「じゃっ…」
そう言って彼女は廊下の奥へ走って行った。
俺はすぐに震えた指で封筒を開けた。
“放課後、体育館の横で待ってます”
とだけ書かれていた。
(これって、まさか…告白…?)
…その時俺は愛子ちゃんと初めて話した日の事を思いだした…。
…あの日はちょうど英語の宿題があった事を忘れ、休み時間に必死に問題を問いてた。
「宿題やるの忘れたの…?」
俺は相手の顔を見ず
「ああ…、今日当てられる可能性があるからさ。一応やんなきゃと思って…」
「……はい、コレ写して」
一冊のノートが目の前に差し出された。
「ーえ?いいの…!?」
「うん。困った時はお互い様だよ」
と、彼女はニッコリと笑った。
その時、俺は初めて彼女の顔に気付き、俺はその笑顔に一目惚れしてしまった。
(ああ、ホントに天使みたいな人だなぁ…)
「ヤダァ、さりげなくアピールしてない?愛子〜」
奥で彼女の友達が冷やかしていた。
「違うわよ〜」
と彼女は自分の席に戻って行く…。
…そう…その日以来俺は彼女に夢中なのだ。
そして彼女も俺の事を…?
…まさか…でもあの日ノートを見せてくれた彼女の丸みを帯びた字で、
この手紙は書かれている。
(…うそだろ…?)
そして放課後がやって来て、俺の緊張はピークに達してた…。
放課後になり、俺はすぐに教室をあとにして急ぎ足で体育館に向かった。
(彼女がいる!彼女がそこで待っている!)
…けど、彼女はまだそこにはいなかった。
(早く来すぎたかな?放課後とは書いてあっても時間の事書いてなかったしな。)
…なんて細かい事を考えていたその時、俺の背後から物音が聞こえて来た。
…ジャリジャリ…
(これは…彼女の足音かな…?)
俺はゆっくりと後ろを向いた。
(ん…?)
「…ごめん、拓郎君を呼んだのあたしなの…」
…そこにいたのはあの「愛子」ちゃんではなく、
彼女といつも一緒にいる友達の「吉田美代子」だった…。
「…びっくりしたでしょう?手紙の主があたしだったなんて…」
「う、うん。まあ…その…」
びっくりしたどころか正直ショックだった。
俺は何よりも愛子ちゃんだと信じ込んでいたし、
彼女はお世辞でもカワイイとは言えない。
カラダはブクブク太ってて髪の毛はショートの天パー。
顔は吹き出物だらけで眼鏡をかけてる。
彼女には失礼だが、学校で一番かわいくないんじゃないかと思ったくらいだ。
そして彼女は俺に言ったのだ…!
「ずっと好きでした。付き合って下さい。」
俺は血の気がひいた。
あまりにも予想していない出来事で美代子から告白されると思ってなかったから…。
「…わかってる。
拓郎君があたしの事を何とも思ってないって…。
ねぇ、正直に答えてね…太ってる人キライ?」
「え…!?」
俺は思わず口をつまらせた。正直たしかに苦手だからだ。
「…じゃあ、あたしががんばってヤセたら…
拓郎君、あたしと付き合ってくれる?」
「いや、あのさ…」
俺はそんな事よりも自分には好きな人がいる事を彼女に伝えようとした。
だが、彼女は
「お願いっ!ウソでもいいから『うん』って言って!
そうすれば、あたしヤセられる様な気がするの!お願い」
「いや、そうじゃなくて…」
「お願いっ!拓郎君!」
彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
その瞳からは彼女の俺への気持ちが痛いほど伝わって来る様な気がして俺は思わず…
「わかったよ…。」
「…ありがとう。あたしもう行くね。わざわざ来てくれてありがとう…」
そう言って彼女は走って行き、俺はその姿をじっと見つめていた。
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