7話
今度は川の上流にあった漁師小屋に移り住むようになった。
麓の村人に忘れ去られ、埃かぶっていた頃からすればまぁ、人間の住処らしくなったと言えよう。
街中は嫌だと駄々を捏ねたマナの意見を村人との交流を条件に取り入れ、山の中である。
今のところは村人との関係も良好で、村の子供との交流もあるようだ。
ふむ、少しずつ慣らしていけば良かったのか、いきなり仲良くなれと人間の中に突っ込んだのがいけなかったのかもしれない……などと考える様になった。
要は、私もマナと共に成長中ということだな。
一人で坂を駆け下りていく姿を見て、私は満足だ。
「よお」
マナの姿が見えなくなったところで声がかかる。
「……何しに来た」
嗅ぎ慣れた魔力の持ち主に振り向かず、攻撃態勢を取る。
体に纏う己の魔が渦巻く。
「久しぶりの再会だというのに、随分な挨拶だね」
何が久しぶりの再会だ。
「お前がここ数年私達を付け回していたことぐらい知っている」
軽薄な笑い声。
こんなにも憎たらしい奴だっただろうか。
「まぁ、そんなことは想定内さ」
「さっさと失せろ、私達に関わるな」
草を踏みわけ、こちらに近づく音がする。
「何だ、あの人間の子供が気に入ったのか」
肩を抱き寄せて耳元で囁く声。
「そんなにも面白いものか?」
私のものより若干明るい茶髪が頬をくすぐる。
「見た所、仮契約もまともにしてないじゃないか」
肩越しに覗きこむアイスブルーが危ない光を宿す。
私が身動きをしないのを良いことに、腕の中に閉じ込めたかと思うと、
「あの子を壊したら、お前はどんな顔をするのかな、アルテミウス?」
水流を指差す。
一点で水が堰き止められ、川が氾濫し始める。
「あの男は何者だ」
きょとんとした、青年に再度問う。
「数年前、使者の護衛官に扮してあの塔にやってきた男。あの国の者じゃないだろう」
別に、武官装束の癖に魔術を使ったからではない。
「しかもかなり身分が高い、違うか?」
合間を開けず続ける。
「そして、お前の契約主なんだろう?」